
※下記は自治体通信 Vol.76(2026年9月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
金属加工業など、ものづくりのまちとして知られている三条市(新潟県)。同市は「住みたい田舎ベストランキング」*にて、北陸エリアで3年連続上位入りするなど注目を集めている。その市長を務めているのが、元弁護士の経歴を持つ滝沢氏だ。行政経験がゼロながら、外部からCMO*を登用してふるさと納税のテコ入れを図り、約7億円の寄附額を50億円超にまで拡大させるなどの手腕を発揮している。2期目を迎えた同氏に、市長としての取り組みの詳細を聞いた。
*「住みたい田舎ベストランキング」:株式会社宝島社発行『田舎暮らしの本』より
*CMO:Chief Marketing Officerの略で最高マーケティング責任者のこと

約4万人の弁護士から、1人の市長を志した
―令和2年に市長へ就任し、現在2期目を迎えました。どのような想いを持って就任したのですか。
市民一人ひとりに、もっと光が当たるようなまちづくりをしたいと考えました。私はもともと東京の外資系法律事務所で弁護士をしており、行政経験はゼロでした。当時、全国に弁護士は約4万人で、そのうち約2万人が東京で働いていました。その一方で、故郷の三条市長は1人しかいません。選挙当時は三条市で弁護士事務所を開設していましたが、市長に挑戦したいという想いを抱えていました。そのタイミングで、中学校の同級生が家を建てるのを機に、隣市に引っ越しました。理由は、そちらのほうが子育て支援が充実しているからということでした。そこで、私自身が「もっと選ばれるまちをつくりたい」と考え、改めて市長を目指す決意をしたのです。
―就任後、どのような施策を行ったのですか。
いかなる施策を行うにしても、まず原資となる財源の確保が必要不可欠でした。そこで着目したのが「ふるさと納税」です。三条市は金属加工のまちとして全国的に知られていますが、同じく金属加工で有名な近隣自治体と比べてふるさと納税の寄附金額が伸び悩んでいました。そこで私は「もっとポテンシャルがあるはずだ」と考え、就任直後に本格的なテコ入れを行いました。
外部から人材を登用し、行政にビジネスの発想を導入
―具体的に教えてください。
まずは、民間企業の人材紹介サービスを介して、CMOを公募・採用しました。市の職員は優秀な人たちばかりですが、誤解を恐れずに言えば、ふるさと納税を扱うにはビジネスの発想が必要です。そこで、外部からビジネスに長けた人材を登用しようと考えました。おかげで、すばらしい人材を採用することができました。その後はCMOに大きな裁量を与えつつ、職員を巻き込み、市内の事業者に直接足を運んで協力を要請し、返礼品目を増やすことにしました。お願いする際も「寄附金がほしい」のではなく、寄附金が増えればさまざまな政策が実現可能になるし、結果として事業者および市のPRになることをていねいに説明していきました。
―成果はどうでしたか。
返礼品目が約5倍に増えました。その結果として、令和2年度に7億円だったふるさと納税が令和4年度は50億円を突破しました。その後も、40億円以上を維持できています。これも組織としてチームビルディングを行ったCMOと職員、そして市の呼びかけに快く協力していただいた事業者のみなさんのおかげだと感謝しています。

子育てや教育環境へ還元。未来を担う世代へ投資する
―得た寄附金はどのように還元しているのでしょうか。
一例として、子育て・医療支援に充てています。これまで中学生までだった医療費助成を、「高校生まで」に引き上げました。また、不妊治療の保険適用後の自己負担分を市が全額助成しています。さらに、学校生活環境の改善にも取り組んでいます。市内にある小中学校のトイレを「完全洋式化」したほか、市内の中学校の体育館へエアコンを順次導入しています。寄附金を直接的に活用しているものではありませんが、そのほかの教育支援も行っています。たとえば、若者の市外流出防止とものづくり産業の人材不足解消のために令和3年に開学した三条市立大学の一部の学生に対し、返還不要の給付型奨学金を給付しています。このように、未来を担う世代に対し投資を行っています。そうした結果が、「住みたい田舎ベストランキング」のランクインにもつながっていると考えています。
未来を担う世代への投資で言うと、別のアプローチにも取り組んでいます。
―どのようなアプローチですか。
学校の統廃合です。市内でも特に少子化が進行する地域の小学校5校を令和10年4月に1校へと統合する計画が進められています。そのなかには私の母校も含まれています。私も市長になったときは、自分自身で母校をなくす意思決定をするなんて思ってもみませんでした。そのほか、令和11年には市内にある県立高校の工業高校と商業高校が統合される予定です。それぞれの学校は、私たち三条市の市民にとってかけがえのない学校です。しかし、「歳出削減」といった後ろ向きな統廃合はいけません。これを機に「学校でなにを学んでもらいたいか」といった観点で、より良い教育環境の創出を前向きに検討していく必要があります。市民にも、こうした説明をていねいに行うよう心がけています。
―反発する人もいると思います。
確かにそういった声もありますが、なぜ統廃合が必要かをしっかり説明して理解してもらうのが市長の責任だと思っています。ご年配の支持者の方々からは、「政治家は夢を見せるものだ」と言われることもあります。しかし、現実問題として少子化が進むなか、統廃合を先延ばしにすることは三条市の未来にとって決して良くありません。それよりも先ほど言ったとおり、「統廃合を機に、いかに良い教育を子どもたちに提供していくか」が重要であり、その最適解を出すために、住民や識者の方々と対話を重ねています。そうした取り組みを現在の市長である私の役割として、しっかりと前に進めていきます。
課題解決とファンの創出で、三条市の可能性を引き出す
―今後の市政ビジョンを教えてください。
令和5年4月に「三条市総合計画」を策定しました。そこで掲げているまちづくりの方向性が「選びたくなるまち三条」です。これまで取り組んできたことも、それを実現するための土台づくりといえます。金属加工業や農業も含めて、三条市の地場産業はこれからもどんどん伸びていくと思っています。そのなかで私が果たすべき役割は、子育てや医療、教育などさまざまな分野において、将来の三条市に必ず影響してくる課題を見つけ出し、一つひとつ逃げずに先送りせずに解決していくことです。それに加えて、住んでいる人や市外から来る人が、三条市のまちや名産品を含めてファンになって応援してくれる、そういう人を一人でも多く増やしていくことです。行政経験ゼロで市長に就任しましたが、職員や市民の方々の力を借りることで必要な施策を愚直に進めてこられました。今後もみなさんとの対話を大切にしながら、三条市が持つ可能性を最大限に引き出していきたいと考えています。


.png)

260805%20(1).png)
