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「ふるさと納税の推進」「ふるさと創生職員採用」など独自の施策を展開

課題や困難に宿る「宝」を見つけ、地域活性化に活かしていく

課題や困難に宿る「宝」を見つけ、地域活性化に活かしていく

「ふるさと納税の推進」「ふるさと創生職員採用」など独自の施策を展開

課題や困難に宿る「宝」を見つけ、地域活性化に活かしていく

京丹後市長 中山 泰

※下記は自治体通信 Vol.38(2022年5月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。


「海の京都」とも呼ばれ、京都府の最北端に位置する京丹後市。カニをはじめとする食の産地や、ビーチや温泉などが魅力のリゾート地として人気を博している一方、ほかの地方部と同様に人口減少などの地域課題に頭を悩ませている。そうしたなか、同市では、ふるさと納税を中心とした地域活性化に取り組んでいるという。市長の中山氏に、ほかの取り組みも含めて詳細を聞いた。

依存財源から脱却し、自主財源の確保を目指す

―ふるさと納税を中心とした、地域活性化に取り組んでいる目的を教えてください。

 ふるさと納税を推進することで、自主財源を確保するとともに、地方経済を発展させる起爆剤にするためです。

 そもそも地方部の本市は依存財源が多く、財政力の弱さが課題です。平成の大合併に伴う普通交付税の合併特例措置が終了したなか、このまま手をこまねいていれば、ますます厳しい財政難を招くことになります。そこで着目したのが、ふるさと納税です。幸い本市は、海のもの、山のもの、里のものといった食材が豊富なうえに、「丹後ちりめん」といった伝統的な絹織物もあり、返礼品として相性がいい。ただ、他自治体と比べると、ふるさと納税に対してそこまで積極的に取り組んでいるとは言えませんでした。そこで、私が市長に再任した直後の令和2年7月、市長公室政策企画課内に「ふるさと応援推進室」を新たに設置。「ふるさと納税10倍プロジェクト」をスローガンにして、ふるさと納税における抜本的な拡充に着手したのです。

―具体的にどのような取り組みを行ったのでしょう。

 まずは、返礼品の選択肢を広げることにしました。そこで、職員にがんばって地元事業者に声をかけてもらい、さらなる参加をうながしました。さらに、一次産品として提供してもらうだけでなく、「カニすき鍋セットにしましょう」というように、消費者目線に立った加工を施す。あとは観光立地の特性を活かして、夏の海水浴や旅館と提携した冬のカニ・牡蠣がついた宿泊プランのクーポン券などを用意しました。

 また、そうした返礼品を広く伝えるためのシティプロモーションとして、EC事業者との連携にくわえて、本市オリジナルのふるさと納税特設サイトを令和2年11月にオープン。返礼品だけでなく、まちづくりの展望、事業者の想いなども詳しく紹介しています。

寄附金の増加にとどまらず、事業者の活性化にもつながる

―そうした取り組みの成果を教えてください。

 時期によって変動はあるものの、「ふるさと応援推進室」ができる前は、約600品目の返礼品、約40事業者だったのが、現在は約1,300品目、約120事業者にまで増加しています。寄附金の額も、令和元年度は約3億円でしたが、令和2年度が約6億円、令和3年度は約9億円と年々増加しています。また、こうした定量的な成果だけでなく、地元事業者の活性化にもつながっています。

 たとえば、所得の向上はもちろん、ふるさと納税の取り組みを通じて、ECサイトによる販路拡大の重要性に気づいた事業者も多くいらっしゃいました。特にコロナ禍にあっては、このような取り組みは欠かせないと。そこで、より消費者目線に立った商品開発や独自でECサイトを開設するといった動きがみられるようになっています。さらにこうした取り組みを域内で発信することで、「京丹後市はふるさと納税にチカラを入れているんだな」というのが市井に伝わり、さらなる活性化につながることを期待しています。

―地域活性化のため、ほかに取り組んでいることはありますか。

 特徴的な例では、令和2年から開始した「ふるさと創生職員」があげられます。これは任期3年の正規職員採用で、市役所での業務は週3~4日、「残りの日には副業していいですよ」という仕組みです。地域おこし協力隊にも取り組んでいますが、「正規職員として市役所の施策に参画する」というのが異なる点。副業内容は、農業や都市圏における会社のリモートワークなど、なんでもかまいません。京丹後市に帰りたい人や、地方で暮らしながら仕事をしたいといった人など、より多様な人材を域内に呼び入れるのが狙いです。

 令和2年度の1期生は5人、令和3年度は計8人を採用しました。イベント企画やシナリオライター、公務員YouTuberなど、それぞれが独自の副業に取り組んでいます。さらに、今度新しくドイツ人がふるさと創生職員として移住してきます。各自のこれまでの経験を京丹後市で発揮しつつ、地元住民と交流を深めながら、任期満了後もこの地でチカラを貸し続けてほしいですね。

原石や市民ニーズを、ていねいにあぶりだす

―中山さんが行政運営で大事にしていることはなんでしょう。

 「課題や困難を乗り越える」のではなく、「課題や困難のなかにある宝を見つけて育んでいく」という発想ですね。これは、かつて当市に工場を構えていた日本電産・創業者の永守重信さんの「困難は必ず解決策を一緒に連れてきている」という言葉から大事にしているものです。行政には、取り組むべき社会課題が山積みです。しかし、そこから逃げることなく360度向き合い、地域にある可能性を秘めた原石や住民ニーズをていねいにあぶりだして、それを活かす取り組みとすべきだと。

―どういうことですか。

 たとえば、かつて当市の路線バスは、運賃700円で2人しか乗らないような状態でした。交通政策としては、路線を縮小すべきでしょう。しかし、当市は運賃を上限200円に下げました。200円で7人が利用すれば、売上は以前とトントンです。すると、高校生や高齢者を中心とした住民が「安くてありがたい」と積極的に利用してくれ、逆に売上が上がったのです。つまり、交通政策ではなく福祉政策としてみた結果、みんなのためになる施策となったのです。これは、宝を見つけた好例ですね。ふるさと納税推進やふるさと創生職員の募集も、当市ならではの宝を見つけて育むといった点では同じだと言えるでしょう。

市内全体を自然あふれる、ビジネスセンターへ

―今後における行政ビジョンを教えてください。

 これからも課題や困難に宿る「宝」を見つけて、行政に活かしていきたいですね。たとえば、当市は都市部から遠いことが移住定住のデメリットでしたが、コロナ禍によるワーケーションの浸透により、都市部から離れた自然に恵まれた環境であることが、逆にメリットに。そこで、海沿いのコテージやまちなかの古民家にコワーキングスペースをつくって、市内全体が自然あふれるビジネスセンターになるような取り組みを行っています。当市は360度見回せば課題や困難だらけですが、逆に言えば宝だらけなんですよ。

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中山 泰 (なかやま やすし) プロフィール
昭和35年、京都府京丹後市生まれ。昭和60年に京都大学経済学部を卒業後、総理府・総務庁(現:総務省)に入庁。沖縄開発庁長官秘書官、経済産業省製造産業局人間生活システム企画チーム長・デザイン政策チーム長、内閣府総合規制改革会議事務室次長などを歴任。平成16年、京丹後市長に就任し、3期まで務める。一般社団法人地方創生戦略機構代表理事を経て、令和2年、再び京丹後市長に就任。
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