全国の自治体トップ・職員・議員に贈る 自治体の"経営力"を上げる情報サイト

非常時、そして通常時にも活かせる 情報通信インフラの新しいカタチ

新潟県燕市 の取り組み

非常時、そして通常時にも活かせる 情報通信インフラの新しいカタチ

非常時、そして通常時にも活かせる 情報通信インフラの新しいカタチ

燕市 総務部総務課情報企画担当 髙橋 義彦

度重なる自然災害の発生や訪日観光客が増加しているいま、行政によるICTインフラの整備が求められている。なかでも、災害に強く、地域活性化のツールとして注目を集めているのがWi-Fiを活かした公衆無線LANだ。燕市では、平成28年1月から「燕市観光・防災ステーション」の一環として「燕市観光・防災Wi-Fi」の運用を開始。導入から一年が経ち、防災・観光・教育の場面で活用が図られている。市をあげての取り組みとなると、予算確保から設営、運用までさまざまな検討が必要になる。Wi-Fiを導入した背景や、導入までに苦労をした点、具体的にどのような運用が図られているのかを同市に聞いた。

新潟県燕市データ

人口: 8万909人(平成29年3月末日現在)世帯数: 2万9,005世帯(平成29年3月末日現在)予算規模: 382億1,100万円(平成29年度当初)面積: 110.96km²概要: 越後平野のほぼ中央、県都新潟市と長岡市の中間に位置し。信濃川とその分流である中ノ口川、西川に沿って形成されている。国産の金属洋食器や金属ハウスウェアー製品の主要産地であり、県下有数の工業地帯として知られている。また、良寛ゆかりの地としても有名で、「日本桜の名所100選」に選ばれている。大河津分水で行われる「おいらん道中」は、その豪華絢爛さが見どころ。北陸自動車道三条燕インターチェンジと上越新幹線燕三条駅といった高速交通機関を擁するほか、主要国道116号と289号、JR越後線と弥彦線など、交通網が充実している。

近年の震災で痛感した情報伝達ツールの重要性

―通信環境において、燕市ではどのような課題を抱えていたのでしょうか。

 スマートフォンやタブレット端末の普及が進んだいま、情報通信環境の多様化とそれを実現するインフラ整備の必要性を感じていました。とくに、東日本大震災で起こった通信環境の脆弱性から、災害時における通信環境の現状について危機感をもっていました。というのも、燕市西部には長岡平野の西縁断層帯が走っており、ある調査ではマグニチュード8程度の地震が30年以内に発生するといわれています。さらに、市内の一部が柏崎刈羽原発の30km圏内に指定されていることからも、「非常時においてどのように情報伝達手段を確保するか」という課題への対処が迫られていました。

 また燕市は、信濃川と大河津(おおこうず)分水路に囲まれており、低地が多くの面積を占めている。つまり、河川の氾濫やそれに伴う浸水といった災害が起こる可能性が常に付きまとっているのですね。これまでにも、地域防災計画に基づき、住民の安全と安心を確保するため、行政防災無線や、テレビ局・ラジオ局との連携など各種施策を展開してきました。しかしこれからは、災害時における情報伝達・共有への対策がキーになると考えています。

―災害時における通信環境の整備として、Wi-Fiを選んだ理由を教えてください。

 万が一災害が起こったとき、Wi-Fiであれば通信環境が機能しやすいという点です。東日本大震災や平成28年熊本地震では、電話回線を使って外部に連絡を取ろうとするニーズが集中し、輻輳(ふくそう)(※)によりキャリア系の通信手段が使えないという状況に陥りました。一方、Wi-Fiは、ルーターが損壊するといった地震による物理的な影響を受けにくいのに加え、通信が集中しても機能が完全に停止することは考えにくい。燕市に起こりえる災害を前に、外部との連絡がとれない状況をどう回避するかという問題に対し、Wi-Fiは非常に有効な解決法だといえます。

※輻輳:電話が集中したことが原因で通信網が使えなくなること

―なるほど。災害時の活用を考え、どのような場所にWi-Fiを設置したのですか。

 避難所に指定されている小学校や中学校、そして体育館などの公共施設が中心です。避難所に指定されている学校の体育館などには、公衆無線LAN環境が整っていないところがほとんど。災害が起こったときには多くの住民の方が集まる一方で、通信ネットワークが使えない状態になると、避難してきた方は孤立してしまいます。それを防止するためにも、まずは避難所に指定されている20ある小・中学校のうちの7校と、燕市体育センターと燕市産業史料館の2ヵ所に設置しました。

 また、災害を見据えた環境整備とはいえ、災害時以外でも活用できたほうがより効率的です。時を同じくして、市で学校教育の現場においてタブレットを導入する動きがありました。教育ネットワークに重畳できたことも、平時の教育活用と一緒にカバーできることになり効果は大きかったですね。

―具体的な場所が決まったあと、どのような流れで導入に至ったのか教えてください。

 平常時では教育現場のネットワークとして活用し、非常時には安定した通信環境として活かせるという前提で、「観光・防災Wi-Fiステーション」事業を起ち上げました。ちょうど国としても、2020年に向け、公衆無線LANの推進や整備事業を行っているときでした。そこで、以下の流れで導入しました。

―導入にあたり、苦労した点などを教えてください。

 今回の大半の導入場所が教育機関ということもあり、学校独自の教育ネットワークとの調整が大変でした。

 公衆無線LANの場合、メールアドレスを認証してはじめてインターネットに接続できる「メール認証」が基本です。これは、公衆無線LANという特性上、外部から簡単にアクセスできることから、不正アクセスなどの犯罪を未然に防ぐ意味合いがあります。そうした特長の公衆無線LANと、すでに独立している教育ネットワークを共存させるための調整の難しさは想像以上でした。テクニカルな部分を業者の方と何度も何度も協議し、現在は教育ネットワークとメール認証によるインターネット網の共存が確立できています。

 さらに、平日は子どもたちが授業を受けています。そんななか工事を進めるとなると、騒音の問題が出てきます。授業や先生方とのスケジュール調整も慎重に進める必要がありましたね。

―運用から一年が経った現在の活用状況を教えてください。

「燕市観光・防災ステーション」事業の一環として導入したWi-Fiの利用は、昨年1月から8月までのアクセス数だけでみると、1日に25件にとどまっています。
ただ、無線の設備のみを整備しただけでは、防災という観点からいくと「情報の発信力」としては弱いという点には早くから気づいていました。そこで、Wi-Fiの導入に合わせ、防災に関するポータルサイトを新たに起ち上げ、運用することにしたのです。

 このポータルサイトは、災害情報や陥落した道路など、危険な箇所の情報を投稿・閲覧できる、いわば掲示板のような役割があります。具体的には、災害発生時、ポータルサイトからGoogle Mapを使い、災害が起こった場所を明確に表示。さらに、具体的な状況を把握するため、投稿者が現場の写真を添付できるようなフォームになっています。これは、災害発生時、まさに被災している住民の方からダイレクトに状況を伝えてもらえるという、大きなメリットがあります。行政としても、いま、どこがどんな状態になっているかを把握することで二次災害を防げ、住民の方に有益な情報を発信できます。

―ポータルサイトは災害時にしか利用できないのでしょうか。

ふだんから活用できます。たとえば、冬場は除雪機の出動が多くなることで道路が傷み、陥没する場合があります。それを発見した住民の方が状況を撮影し、投稿してもらうことで、職員が迅速に対応できます。これまでは、道路の陥没の連絡があった場合、現地まで職員がおもむき、状況を把握したうえでどうするか、ということを決めていました。そのため、問題の解決までに時間がかかっていました。しかしポータルサイトを利用すれば、住民の方が撮影した画像によって、市役所にいながら現状把握が容易にできます。そして、すぐに必要な対処を手配することができるようになりました。

 これまで、ポータルサイトを利用した投稿は24件あり、そのすべてで迅速な対応をとることができました。

―今後の展望を教えてください。

ズバリ、Wi-Fiの設置数をさらに増やしていきたい。現在、小・中学校6校と公共施設をあわせた計9ヵ所に設置されていますが、残りの小・中学校への拡充は必要不可欠です。加えて、民間業者との連携を進めていきたいと思っています。

 Wi-Fiの平常時の利用は、観光と教育が主になります。しかし、現時点での観光現場での利用は難しいのが実際です。2020年に向け、国レベルで公衆無線LANの設備を推し進めていることから考えても、今後、当市としても観光利用を強化していく必要があります。どちらにせよ、現在の設置状況のままでは、旅行者の方にはかえって不便な一面があります。市全体に設置しようとしたとき、市の単独では難しいのが現実です。そこで、コンビニエンスストアに協力を仰ぎ、協業も含めた形で利便性を向上させていくというプランを考えています。

 災害時の利用だけでなく、平常時で活用してもらうことは、結果としてWi-Fiの周知につながります。周知という意味でいえば、現在行っている広報からのアプローチだけでなく、周知イベントを開催することで、営みを広げていきたいと思っています。