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静岡県熱海市 の取り組み

予算ゼロ円・担当者ひとり。独自施策で観光客を呼び戻す

熱海市 観光経済課 山田 久貴

高度経済成長のころまでは、日本でも有数の観光地だった熱海市。しかし、経済の衰退とともに、徐々に観光客は減少していった。そんななか、全国でも珍しい❝ロケ地としてメディアを呼び込む❞施策で、地域のブランド構築に成功、観光客が年々増加する成果をあげている。そのキーパーソンが同市の観光経済課の山田氏。アイデアの源泉や実行上の工夫などを同氏に聞いた。

静岡県熱海市データ

人口: 3万7,720人(平成28年10月末現在) 世帯数: 2万21,335世帯(平成28年10月末現在) 予算規模: 180億8,800万円(平成28年度当初) 面積: 61.61km²

イベント頼みの観光政策では、集客はできない

―熱海市では、以前どんな課題を抱えていましたか。

 かつて日本を代表する温泉観光都市として、多くの方に人気でした。しかし、徐々に観光客の方に飽きられてしまい、経済的にもバブル崩壊などがあり、観光客の数は年々減っていました。若い方々に至っては、そもそも「熱海」という名前が旅行先にあがってこない。そんな状況になってしまったのです。

―何か対策は打っていなかったのでしょうか。

 観光客誘致の施策として、イベントを年間を通じて開催をしていました。しかし、言い方を変えれば「イベントに頼り切ってしまっていた」という側面がありました。夏休みや連休に合わせてイベントは組まれるため、一見するとイベントも大盛況。「観光客の誘致にもつながった」という錯覚に陥っていたんです。

 しかし考えてみれば、そもそも夏休みや連休は観光客が多い時期。その時にイベントを開催すればだいたいは集まるものです。主催した側からみると、一見イベントは大成功をおさめたように見える。でも、それはイベントがなくても観光に来てくれた人が参加しているだけ。イベントによって新たな観光客を集めたわけではない。まして、本質的に地域のファンになってくれて、何度も足を運んでくれるような観光客の目立った増加にはつながっていませんでした。

―そんななか、山田さんが着任した際は、どんな取り組みをしたのですか。

 「ほかの自治体がマネできないことが必要だ」と考えました。そこで、考えたのが「ADさん、いらっしゃい!」という企画です。テレビの情報バラエティ番組やドラマ、映画などの撮影に際して、ロケ地として選んでもらう。そしてその番組や映画を通して、全国の方々に「熱海」というキーワードを記憶に残してもらおうと。というのも熱海市には、マスメディアの本拠がある東京に近く、海があり、山があり、島もある。砂浜全体をライトアップするロマンティックなビーチがあり、芸妓文化もあります。多種多彩なホテルや旅館、飲食店などの施設も充実していて、さらには500以上の源泉を誇る温泉もある。

 ほかの自治体で、ここまでロケーションのよいところはめずらしいでしょう。

―具体的にはどんなことをしたのでしょう。

 番組の企画を聞いて、それに見合うネタ・施設の情報提供、取材交渉から、エキストラとなりえる地元住民の方の紹介や連絡調整、ロケバスなど撮影関係車両の移動ルートや待機場所に関する情報提供と手配まで支援します。各種公共施設の撮影許可申請の補助や目的外使用申請の調整、道路使用申請の代理提出・受領といった、公共機関ならではの支援もあります。

 それにくわえ、ロケ弁やロケ中の宿泊先、打ち上げ会場などの情報提供もします。「ロケ費用削減のために少し安い宿がいい」とか「大物芸能人を起用する撮影なので豪華なロケ弁にしたい」といった細かな要望にもこたえるほか、ビーチで爆破をしたいなどの難しい要望にも対応しています。

―どのくらいの予算をさいていますか。

 私の人件費以外、コストは一切かけていません。かつ、私ひとりですべての制作サイドからの案件に対応しています。休日や祝日、夜間でも個人的に対応しているので、制作サイドにとっては「24時間365日いつでも対応してくれる」ことになります。制作サイドを「顧客」ととらえ、徹底した顧客重視で対応しているのです。公務員で年中無休24時間ひとりで対応というのは、私ぐらいでしょう。これも「ほかにはマネできないだろう」と。

―全国でも初めての取り組みだったと思います。プロジェクトを進めるにあたって、庁内からの反発はありませんでしたか。

 いいえ。そもそも熱海市は、観光産業が主幹産業であり、ここが衰退してしまうと、街の発展はありえません。そういった背景もあり、市長も含め役所一丸となってこの取り組みを後押ししてくれました。

―山田さんが取り組みを始めてからの、具体的な成果を教えてください。

 ロケの本数でいいますと、私の配属前は年間で20~30本程度だったものが、着任した平成24年度に62本、翌年が67本、平成26年度には111本、平成27年度も110本、平成28年度も同程度を見込んでおります。今後も、安定的に110本前後で推移する予定でおり、着任前に比べて、3倍以上の結果を出すことができました。

 また、ロケの本数だけではなく、宿泊客の数も、着任前までは年々減少傾向にあったのですが、着任後は毎年増加。平成27年度には14年ぶりに300万人を超えました。日本全体としても人口が減少し、かつ新たなレジャー施設やLCCなど格安の移動手段など熱海にとって外的な脅威が増えるなかで、この数字を出せたことは大きな意味があると思っています。

―注目されたロケはありますか。

 以前に「有吉の壁」という深夜枠で不定期に放送されているバラエティ特別番組のロケ地として熱海が選ばれたことがあります。番組自体が非常に人気があったので、その後SNSなどで「熱海」のキーワードが激増。結果として当市の大きなPRになりました。

 また、そのほかに「オール芸人お笑い謝肉祭」という番組のロケ地にも選ばれました。放送後、色々と問題になった番組ではありましたが(笑)。ただ、SNSを見ていると肯定的な意見も多く、思い切った企画が実施できたことで、こちらも結果として当市の観光地としての実力をアピールすることができました。

―観光政策において山田さんが重要だと思うことはなんですか。

 その地域のブランド力を高めること、一番重要なことは、「昔からその地域に根付いた主幹産業(農林水産業、商業、工業、製造業、ベッドタウンetc.)を簡単にあきらめないこと」だと思います。そのなかで、私は「古来から第1級の保養地である熱海市」を日本版“ハリウッド“をイメージさせる街にしたいと思っています。現在も、映画やドラマなどの撮影が行われています。もっとも熱海が得意とするバラエティー番組と合わせ、街中でロケがいつも行われている街に育てていきたい。

 そして、全国の各市町村が第1次、第2次産業などの主幹産業が衰退したからといって観光地化を進める現状において、熱海が本来持つ「日本を代表する観光保養地」としての地位を確立し、流行や景気に左右されない「真のリゾート」にしたい、それが最終目標です。

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