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「生活者目線」で築いてきた山形県の魅力づくり戦略

「人と自然との健全な調和」で、新しい時代の価値観を体現する存在に

「人と自然との健全な調和」で、新しい時代の価値観を体現する存在に

「生活者目線」で築いてきた山形県の魅力づくり戦略

「人と自然との健全な調和」で、新しい時代の価値観を体現する存在に

山形県知事 吉村 美栄子

※下記は自治体通信 Vol.43(2022年10月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。


「第7波」を経験し、新型コロナ対応は社会経済活動との両立に主眼が置かれるいま、各自治体では「コロナ後」を見すえ、それぞれの課題や特色を踏まえた、独自の地方創生戦略に舵を切っている。山形県では、就任以来、「心の通う温かい県政」を掲げる知事の吉村氏のもと、「第4次山形県総合発展計画」を推進し、中長期的な視点に立った県の魅力づくりとその発信に力を入れているという。これまでの施策の成果や今後の県政ビジョンなどを、同氏に聞いた。(インタビューは令和4年8月18日に行いました)

生活者目線で向き合った、交通網整備やエネルギー転換

―吉村さんは就任4期目を迎えていますが、この間の成果をどのように振り返っていますか。

 私は就任以来、一貫して「心の通う温かい県政」を基本姿勢に掲げ、生活者の目線を大事にしながら、県政の課題に向き合ってきました。というのも、私には地方政治の世界に足を踏み入れるまでの57年間、一般県民として過ごしてきた経験があります。いまも「大根1本いくら」という生活者の目線をもち続けていますから、47人の知事のなかでも、もっとも住民に近い感覚をもっているとひそかに自負しています。この生活者目線で当県の課題を直視したとき、最初に着手しなければと考えたのが、生活の基盤となる交通ネットワークの整備でした。特に高速道路の整備が山形県は遅れていました。

―どの程度、遅れていたのですか。

 就任後に初めて知ったのですが、都道府県別の整備率が全国46位だったのです。そして、東日本大震災の際には、太平洋側の交通網が被災するなか、そのリダンダンシー機能を十分に果たせなかったことも教訓となりました。そこでこの間、東北中央自動車道の整備や南東北三県の環状ネットワーク形成などを進め、就任時50%だった整備率は現在79%にまで引き上げられました。

 同じく震災の教訓から、再生可能エネルギーの導入促進にも力を入れてきました。平成24年に県独自のエネルギー戦略を策定し、再生可能エネルギーの供給基地化や官民共同による「株式会社やまがた新電力」の設立などエネルギーの地産地消を進めています。

 さらに、令和2年度には「ゼロカーボンやまがた2050」を宣言し、カーボンニュートラルの実現に向けた取り組みを進めています。

産出額は年間2,500億円超。ブランド農産物で魅力を形成

―山形県と言えば近年、国内有数のブランド農産物の産地としての知名度も高めています。

 「農林水産物のブランド化」や「園芸農業の育成」はこの間、もっとも力を入れてきた施策のひとつであり、そのような評価はとてもうれしいですね。じつは私の就任時には、国内有数の米どころにもかかわらず、当県には全国的に知られる「ブランド米」というものがひとつもありませんでした。全国トップブランド米の開発は県農業界や経済界、ひいては県民全体の悲願だったのです。大きな期待を受けて開発された新品種「つや姫」の命名が、知事就任後、私の初めての仕事となったことをいまも覚えています。現在、全国的に知られるトップブランド米へと成長してくれましたが、その背景には「つや姫」の実力はもとより、県民一人ひとりが営業担当となって県外の知人に贈るなど、積極的にPRを担ってくれたことがある点は、忘れられません。

―一方の「園芸農業の育成」でも、大きな成果を上げていますね。

 当県は、さくらんぼやラ・フランスをはじめ、次々と新品種を開発している園芸大国だと自負しています。国内随一の生産を誇るさくらんぼに関しては、期待の大型新人「やまがた紅王」が、来年に本格デビューを迎えます。500円玉大の文字通りの大型で、20年をかけて開発された新品種であり、来年はこのブランド化がテーマです。さまざまな取り組みの結果、農業産出額は年間2,500億円を突破し、当県の大きな魅力を形成してくれています。

 振り返ると、交通インフラ、エネルギー、農産物といった生活を支える基盤を整備できたことで、県勢発展の礎が着実に築かれてきたと感じています。その成果の表れと受け止めているのは、民間のシンクタンクが2年に一度調査している「全47都道府県幸福度ランキング」における順位です。最新の令和2年調査((※取材日時点)は70以上の客観的な指標で算出されていると聞きますが、平成24年の最初の調査で31位だった当県は、毎回着実に順位を上げ、令和2年調査では8位にランキングされました。

歓迎の気持ちから移住者へ。「米・味噌・醤油」1年分

―コロナ後を見すえ、現在もっとも力を入れている政策はなんでしょう。

 人材育成や産業振興といった重要テーマとあわせ、人口はすべてのメルクマールと言われていることから、人口減少問題は最大の課題です。特に社会減の抑制に向けた「移住定住の促進」は、オール山形で取り組む重点政策と位置づけています。令和2年度には、「くらすべ山形」という愛称の「一般社団法人ふるさと山形移住・定住推進センター」を設立し、移住・定住や、交流・関係人口の拡大に力を注いでいます。市町村や農協と連携し、移住者には「米・味噌・醤油」を1年分お届けする取り組みも行ってきました。金額に換算すると決してすごい額ではないのですが、これは歓迎の気持ちを表した当県らしい取り組みだと感じています。実際に、移住者のみなさんから喜びの声が多く届いています。

「東洋のアルカディア」と称賛。その豊かな自然が山形の魅力

―「山形県の魅力」を前面に押し出した取り組みですね。

 ええ。先ほどの「幸福度ランキング」もそうですが、山形県にはほかにも多くの魅力があります。最近では、「日本一空気がきれいな県((※国立環境研究所HPの「環境数値データベース」より)」という結果が出ています。都道府県別のPM2.5濃度の年平均値を比較したところ、平成28年度から最新の令和元年度まで4年連続で当県がもっとも低かったのです。こうした「豊かな自然との調和」は、現在推進中の「第4次山形県総合発展計画」の基本目標にすえているもので、これからの時代に重視されるもっとも核心的な価値観と考えています。その価値観を体現する存在が山形県であることを、多くのみなさんに伝えていきたいですね。

―最後に、今後の県政ビジョンを聞かせてください。

 明治初期に日本を旅したイギリス人旅行家のイザベラ・バード女史は、山形県を訪れた際、「東洋のアルカディア(桃源郷)」と呼び、その自然の豊かさを称賛していました。この「豊かな自然」という変わらない山形の魅力を守りながら、持続可能な成熟した社会、暮らしのゆとりや楽しみを享受できる「真の豊かさ」を、未来へと引き継いでいきます。

吉村 美栄子 (よしむら みえこ) プロフィール
昭和26年、山形県生まれ。昭和49年にお茶の水女子大学を卒業し、株式会社日本リクルートセンター(現:株式会社リクルート)に入社。昭和56年、子育てしながら行政書士の資格を取得。平成10年、山形市総合学習センター勤務。平成12年、行政書士開業。この間、山形県総合政策審議会委員をはじめ、山形県教育委員会委員などを歴任。平成21年2月に山形県知事に就任。現在、4期目。
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