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ファクトとプロセスを「見える化」し、将来の景色を県民に示すのが知事の責務

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危機に際して求められる知事のリーダーシップとは

ファクトとプロセスを「見える化」し、将来の景色を県民に示すのが知事の責務

千葉県知事 熊谷 俊人

※下記は自治体通信 Vol.32(2021年8月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。


新型コロナウイルスの感染拡大が続いていた今年4月、千葉市長から転身し、新たに千葉県知事に就任した熊谷氏。感染拡大の中心地である東京都に隣接し、感染抑止の難しいかじ取りに着手し始めた。東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催地でもある同県として、いかに感染を抑止し、成功に導くか。コロナ禍収束後に描くビジョンを含め、同氏に話を聞いた。(インタビューは6月1日に行いました)

危機管理への県民の期待、12年の首長経験を活かしたい

―今年4月、コロナ禍による混乱の真っ只中での就任となりました。どのような想いをもって、知事転身を決意したのですか。

 足元の新型コロナ対策にくわえ、一昨年の相次ぐ台風被害を受け、災害に強い県土づくりは県民の大きな関心事です。いずれも「危機管理」にまつわる課題ですが、そこでの私の経験を活かすべきと考えました。12年間の首長経験から私が感じているのは、「平時の意識」のもち方が重要だということ。行政とは良くも悪くも前例を重んじ、じっくり時間をかけて結論を導き出していくものですが、非常時には前例も時間もありません。現場が実情に応じた最善策を即座に打っていかなければならないわけで、普段から独自の政策立案や試行錯誤をしてこなかった行政体には、的確な行動はとれません。危機に際して、国に支援を仰ぐだけでは、県民は救えません。

―新型コロナ対策では、すでに非常時に突入しています。

 ここでは、いますぐに着手すべき課題があります。ひとつは「組織の最適化」です。危機に際しては、担当部署に負荷が集中してしまいます。こうした事態を回避するためには、特別職クラスが臨機応変に他部署へ業務を差配し、当該部署の意思決定が停滞しない状態をつくることが重要です。コロナ対策はすでに動き始めているので、走りながら少しずつ修正しているところです。

新型コロナ対策では、特有の難しさがある千葉県

―実際に千葉県の新型コロナ対策に取り組んでみていかがでしょう。

 千葉県には特有の難しさがあります。ひとつは、東京都に隣接していることで、東京都の感染状況に強く影響を受けてしまうことです。両者で規制の足並みが揃わなければ、かえって人流を促しかねないという事情があります。もうひとつは「日本の縮図」と言えるほど、都市部と郊外の人口密度の差が大きいことです。これまで一律の要請を続けてきましたが、当然、地域ごとに感染状況が異なり、一律の対応はとても不合理です。

 今回制定された「まん延防止等重点措置」により、地域の実情に即した柔軟な対策が打てるようになりました。ここに県独自の飲食店への認証制度を発足させることで、感染対策をしっかり行っている飲食店とそうでない飲食店とで、要請内容に差を設けることができれば、さらにメリハリのある効果的な支援と要請ができるようになると考えています。

―コロナ禍の昨今は知事のリーダーシップを問われる場面も多いです。知事のリーダーシップのあり方については、どう考えますか。

 大事なことは、県民のみなさんが一致団結してこの苦境を乗り越えていけるよう導くこと。その際、知事には説明責任が問われると考えています。しっかりとしたデータを開示し、いま千葉県でなにが起きていて、どこに課題があり、どのように対処していくのか。そのファクトとプロセスを「見える化」し、県民のみなさんが「振り回されている」と感じることがないように将来の景色を示していく。そのうえで、「いまのステップには、将来に向けてこのような意味がある」と示していくことこそ、知事の果たすべき説明責任だと考えています。そのためには、10年後、20年後の将来を描き、バックキャスティング思考で将来の県民のみなさんへの責任を果たしていくことは、知事としての責務です。

開催後に残るレガシーこそ、オリンピックの意義

―7月には東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催を控えています。

 千葉県は開催県でもあり、事前キャンプを受け入れている都市もあります。受け入れ側の責任として組織委員会と協議を進めながら、万全を期した感染防止対策を行っていきます。

―開催に関して、県民のなかでも不安の声が少なくないようですが、開催の意義をどう考えますか。

 いまは、大会そのものに関心が集中しているように感じます。ですから、スポーツがもつ力や感動はわかっていながらも、パンデミックのなかでの開催に国民から疑問が出ている、という状況は理解できます。ただし、オリンピックの本来の目的はそれだけではなく、開催後に残るレガシーにあるのではないかと思うのです。つまり、国籍や民族、宗教の違いを乗り越えた融和、性的マイノリティをはじめ多様な価値観への理解や、障がい者の社会参加を促すバリアフリー環境の整備。こうした機運を醸成していくための起爆剤となることが、オリンピック開催の意義ではないでしょうか。そうした価値まで含めた開催の意義を、政府や組織委員会が示していくことが必要なのではないかと思います。

千葉県のポテンシャルで、新たなライフスタイルを提示

―この苦境を乗り越えた先に、千葉県としてどのようなビジョンを描いているのでしょう。

 まずは、今後予想される東京圏の経済規模縮小に備え、「千葉県独自の雇用や経済圏をつくる」ことです。コロナ禍によってテレワークが定着してきたことで、10年後には東京へ通勤する生活スタイルは大きく変わっていく可能性が高いです。東京への依存を前提にしたまちづくりからの転換が必要になります。その点では、東京に隣接する利便性がありながら、一方で自然に恵まれた豊かな住環境を提供できるのが千葉県の魅力です。そうした「魅力をしっかりと磨き上げ、発信していく」ことも重要です。さらに令和11年には第三滑走路の新設をはじめとする「成田空港の機能強化」が控えています。コロナ後に国際的な人の往来が復活した際には、大きな役割を担うことでしょう。

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―コロナ後には、千葉県のポテンシャルが発揮されそうですね。

 そう思います。私は以前から東京一極集中の非効率性を指摘してきましたが、コロナ禍を経験して、新しい時代の価値観に光が当たるなか、千葉県にはそうした価値観にかなう新たなライフスタイルを提示できるポテンシャルがあります。それらを存分に活かしながら、10年後、20年後を見すえた千葉県発展の絵姿を今後しっかりと描いていきます。

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熊谷 俊人 (くまがい としひと) プロフィール
昭和53年2月、奈良県生まれ。平成13年に早稲田大学政治経済学部経済学科を卒業後、NTTコミュニケーションズ株式会社に入社。平成18年にNPO法人の政策塾「一新塾」に第18期生として入塾。平成19年、千葉市議会議員選挙(稲毛区)に当選。平成21年、千葉市長選挙に初当選。当時全国最年少市長(31歳)、政令指定都市では歴代最年少市長となる。以降、3期務める。令和3年3月、千葉県知事選挙に初当選。