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イノベーティブ都市の伝統を受け継ぎ、公民連携で新たな技術や発想を呼び込む

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大阪府公民戦略連携デスク

連載「大阪発 公民連携のつくり方」第4回

イノベーティブ都市の伝統を受け継ぎ、公民連携で新たな技術や発想を呼び込む

堺市長 永藤 英機

※下記は自治体通信 Vol.31(2021年7月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。


複雑化、多様化する社会課題の解決を掲げ、大阪府では公民連携の促進を目的に、一元的な窓口機能「公民戦略連携デスク」を設置している。このような専門部署を設けて公民連携を強化する動きは、府内の各自治体にも広がっている。連載第4回目となる今回は、昨年7月に公民連携の専門部署「さかい・コネクテッド・デスク」を立ち上げた堺市を取材。公民連携に対する考え方や取り組みの成果などについて、市長の永藤氏や同市担当者に話を聞いた。

[堺市] ■人口:82万5,632人(令和2年9月1日現在) ■世帯数:36万2,201世帯(令和2年9月1日現在) ■予算規模:7,601億3,147万円(令和3年度当初) ■面積:149.82km2 ■概要:近畿の中央部に位置する政令指定都市。古代には仁徳天皇陵古墳をはじめとする百舌鳥古墳群が築造され、中世には海外交易の拠点として「自由・自治都市」を形成し、日本の経済、文化の中心地として繁栄してきた歴史をもつ。戦後、臨海コンビナートと泉北ニュータウンの造成により、現在の姿に。南大阪の中核的都市として、関西の文化・経済を牽引している。
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堺市長
永藤 英機 ながふじ ひでき

「財政危機宣言」下で、多様化する社会課題にも対峙

―堺市が公民連携の専門部署を立ち上げた経緯を教えてください。

 「ものの始まりなんでも堺」という言葉があるとおり、当市には、イノベーションを生み出し続けてきた伝統があります。その伝統は行政にも受け継がれており、多様化する社会課題の解決に向け、多くの民間事業者と連携を進めてきました。しかし、そこにはひとつの問題意識がありました。多様な事業を手がける事業者から連携提案を受けても、従来のスキームでは組織の縦割り構造が足かせとなり、ときに連携事業の発展可能性を制限してしまっていたのです。そこで、公民連携の可能性を最大限に広げるために、部署横断的で機動力のある専門窓口として設置したのが「さかい・コネクテッド・デスク(以下、SCD)」です。

 また、平成27年に大阪府が「公民戦略連携デスク」という専門部署を立ち上げて以来、大阪府全体として公民連携を推進していた大きな流れもありました。

―堺市としても、公民連携には大きな可能性を感じていたと。

 ええ。当市は平成28年度以降、恒常的な収支不足が発生しており、今年2月には「財政危機宣言」を発出した事情があります。現下の抜本的な市政改革を進めながら、多様化する社会課題を解決していくためには、民間事業者との連携は不可欠と考えています。実際に、SCD発足以降、すでに100以上の民間事業者と接点をつくり、製薬大手企業と連携協定を締結したほか、AIなどの先端技術を活用した実証プロジェクトを実施した事例もあります。

―今後、どのような市政ビジョンを描いていますか。

 当市には西日本最大の規模を誇る泉北ニュータウンがあります。ここでは、開所から50年以上が経過し、人口減少や高齢化が進行。それに起因する、さまざまな社会課題も表出しています。「課題先進地域」とも言えるこのエリアでの公民連携の成功事例を、イノベーションを生み出す土壌がある当市から、全国に発信していきたいと考えています。当市は今こそ、イノベーティブ都市の伝統が試されていると言えます。人口82万人を擁し、規模や環境の異なる7つの行政区からなる当市は、民間事業者にとって新たな技術や発想を実証する格好の舞台を提供できるでしょう。今後も、民間事業者とはWin-Winの関係で、社会課題解決に資する公民連携を促進していくことが私の使命だと考えています。

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製薬企業と連携した啓発活動で、市民主体の健康づくりを支援

さかい・コネクテッド・デスク プロデューサー 峯 耕一郎

昨年7月に、公民連携の専門部署として発足した「さかい・コネクテッド・デスク(以下、SCD)」。発足から8ヵ月で、約100社の民間事業者と接点をつくったという。そのなかで、連携協定の締結まで進んだ事例に、中外製薬との取り組みがある。SCDの峯氏に詳しく聞いた。

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さかい・コネクテッド・デスク
プロデューサー
峯 耕一郎 みね こういちろう

市内全域への広告配布協力で、がん検診受診率が向上

―中外製薬と連携協定を締結した経緯を教えてください。

 当市では、健康増進法の理念を踏まえ、市民主体の健康づくりを支援するために、「健康さかい21」という5ヵ年の健康増進計画を立案しています。このなかで、「重点的取組」のひとつに掲げられているのが、「がん検診受診率の向上」です。その背景には、がんによる死亡率が、全国平均に比べて当市はやや高いという事情がありました。

 そうしたなか、中外製薬から事業連携の打診があり、SCDが健康医療推進課への橋渡し役を務めるかたちで連携内容を具体化し、昨年9月の事業連携協定の締結につなげたのです。

―これまで、どのような取り組みを進めてきたのですか。

 まずは、令和2年度の取り組みとして、ピンクリボン運動の強化月間である10月に、乳がん検診の啓発活動を実施。具体的には、当市と医師会をはじめ関係機関が連携した周知活動と合わせて、中外製薬は新聞への折り込み広告を制作し、市内全域に23万5,000枚を配布。その月の受診者数が、前年同月実績を上回りました。

 また、コロナ禍のなか、今年4月には肺がんをテーマにした「市民Web公開講座」を開催し、定員200人に対し、満席の申し込みがありました。

 いずれの取り組みでも、「市民主体の健康づくり」という目的を実現するきっかけづくりができたと考えています。

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―今後の計画を教えてください。

 市政運営の基本となる「堺市基本計画2025」では、重点戦略の施策を推進するうえで必要となる4つの基本姿勢を掲げていますが、そのひとつが「ともに創造 ~Co-creative~」という公民連携の推進です。その基本姿勢のもと公民連携を推進する組織が、昨年7月に発足したSCDであり、庁内でもこれまで以上に民間事業者と新たな連携を模索する機運が高まっているのを感じます。

 実際、すでに複数の民間事業者と連携を模索する動きが進んでおり、令和3年度にはいくつかが花を開きそうです。こうした実績を積極的に発信し、公民連携のマインドを醸成していきたいですね。


大阪府公民戦略連携デスクの視点

部署横断で公民連携の機運を高める、SCDの存在意義は大きい

 人口82万人の大都市である堺市は、さまざまな社会課題が表出する「課題先進地域」でもあることは、永藤市長が指摘しています。そうしたなかで、民間事業者の新技術やアイデアを取り入れ、実証する舞台を積極的に提供するSCDの前向きでスピーディな取り組み姿勢こそが、多くの民間事業者と接点を築き上げることができた要因だと思います。民間事業者から、大きな期待が寄せられているものとうかがえます。

 中外製薬から「これまでにないスピード感」と評されるように、部署横断で機動力を備えたSCDの存在意義は今後も高まるはずです。市内各地で、さまざまな社会課題の解決がさらに進むものと期待しています。


支援企業の視点

これまでにないスピード感、民間事業者にはありがたい存在

中外製薬株式会社 大阪南支店 堺1室 室長 渡辺 圭輔
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中外製薬株式会社
大阪南支店 堺1室 室長
渡辺 圭輔 わたなべ けいすけ

―堺市との連携事業に、どのような成果を感じていますか。

 連携事業の目的のひとつは、堺市民や多くの企業に当社の名前と事業活動を知っていただくこと。もうひとつは、市民の健康づくりに向けて、さまざまな団体との連携の芽をつくり出し、地域医療へ貢献することでした。当社は従来の「医薬品企業」という枠を越え、「ヘルスケア産業のトップイノベーター」を目指しています。今後の当社の役割のひとつは、健康寿命延伸に寄与すること。そのためには、医療関係者をはじめさまざまな団体との連携が必要になります。今回の連携事業を通じて、行政や多くの医療関係者と協力体制がとれたことは、地域医療への貢献を実現するうえで大きな収穫でした。

―この間の「SCD」の役割をどのように評価していますか。

 当社では、すでに60以上の自治体と協定を結んできましたが、今回の堺市との取り組みでは、これまでにないスピード感がありました。相談する窓口も開かれており、我々の想いをお伝えする機会もいただきました。その結果、最初の接点からわずか3ヵ月で協定締結まで進めることができ、驚いています。庁内の調整もSCDに一括して対応いただけるので、自治体との連携を模索する民間事業者にとっては、大変ありがたい存在です。

 今後は、SCDが核となって、企業同士の協業促進や異業種連携の「橋渡し役」となることも期待しています。その結果、市民の健康づくりを支援する堺市独自のエコシステムが醸成され、そこに当社もかかわることができれば大変うれしく感じます。

渡辺 圭輔 (わたなべ けいすけ) プロフィール
昭和56年、北海道生まれ。平成16年4月に中外製薬株式会社に入社。平成31年より現職。堺市二次医療圏における、自社医薬品を中心とした適正使用推進を担うMRのマネジメントに従事している。