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先進事例2021.05.28
連載「大阪発 公民連携のつくり方」第3回

目的を共有できるならば、公や民といった垣根は必要ない

目的を共有できるならば、公や民といった垣根は必要ない

大阪府公民戦略連携デスク

連載「大阪発 公民連携のつくり方」第3回

目的を共有できるならば、公や民といった垣根は必要ない

豊中市長 長内 繁樹

※下記は自治体通信 Vol.30(2021年6月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。


複雑化、多様化する社会課題の解決を掲げ、大阪府では公民連携の促進を目的に、一元的な窓口機能「公民戦略連携デスク」を設置している。同デスクは、府内の自治体にノウハウを積極的に展開しており、専門部署を設けて公民連携を強化する動きが、府内の市町村にも広がっている。各市町村では、実際にどのような取り組みを進めているのかを伝える本連載。第3回は、豊中市を取材。取り組みの詳細や得られた効果などについて、市長の長内氏や担当者に話を聞いた。

[豊中市] ■人口:40万955人(令和3年4月1日現在) ■世帯数:17万9,609世帯(令和3年4月1日現在) ■予算規模:3,029億4,118万円 (令和3年度当初) ■面積:36.39km2 ■概要:大阪府の中央部の北側、神崎川を隔て大阪市の北に位置し、東は吹田市、西は尼崎市、伊丹市、北は池田市、箕面市に接している。市東部から吹田市にまたがる千里丘陵には、大阪府が開発した全国初の本格的なニュータウン「千里ニュータウン」がある。市内にあった「豊中グラウンド」は、高校野球発祥の地として知られる。
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豊中市長
長内 繁樹 おさない しげき

歴史が生み出した、力強い「市民力」「地域力」

―豊中市が公民連携を促進している背景を教えてください。

 昨今の社会課題は複雑化しており、行政だけではカバーしきれない状況が生まれています。一方で、私が市職員時代に健康・福祉分野に携わってきた際、住民、民間事業者、大学など多様な主体による地域活動の力強さを、身をもって経験してきました。当市の「市民力」「地域力」は、郊外型の住宅都市として発展する過程で、住民が主体となって地域コミュニティを形成・運営してきた歴史が生み出した資産です。そうした背景から、私は市長就任にあたり、市のさまざまな事業に公民学連携の手法を積極的に取り入れる方針を掲げてきました。

―令和元年度には、公民連携の専門部署を立ち上げています。

 近年は、民間企業もCSRの観点から地域社会への貢献に力を入れています。目的を共有できるならば、そこに公や民といった垣根は必要ありません。そこで民間と手を携え、市がみずから変化を生み出し、市民に還元できる新たな価値を創り出すことを目的に「創造改革課」を設置。そこに、大阪府公民戦略連携デスクの協力も得ながら、専門窓口として「公民学連携窓口」を立ち上げました。

―専門部署の設置によって、どのような成果がありましたか。

 公民学連携の機運が高まり、この2年間で24の民間企業や大学などと協定を締結できたのは、大きな成果です。また、市の課題に対応した数々の実証実験も立ち上がり、「シェアサイクル」「キッチンカー」のような施策による具体的な成果も出てきています。

 さらに、組織内にも変化が見られており、民間活力を導入したさまざまな取り組みが進むにつれ、職員が刺激を受け、自由で多様な発想から積極的なチャレンジが引き出されるようになったと感じています。

―今後の市政ビジョンを聞かせてください。

 将来、極端な人口増加は望めないなかで、住民に「豊中市に住んでよかった」と思ってもらえるようなまちづくりを進めることが、地域の発展を担う行政の最大の責務です。そのために、「社会課題の解決」や「生活の質の向上」を実現するための公民学連携には大きな期待を寄せています。

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キッチンカーがもらたす賑わいを、豊中が誇る「まちの魅力」に育てたい

豊中市 都市経営部 創造改革課 主事(※取材時) 上野 正彦

一昨年5月に、公民連携の専門部署として発足した豊中市創造改革課の「公民学連携窓口」。これまで、民間事業者20社との間で、「住民生活の質向上」などを進めている。ここでは、そのうちのひとつ、「キッチンカー実証実験」について、同課の(取材時)上野氏に話を聞いた。

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豊中市
都市経営部 創造改革課 主事
上野 正彦 うえの まさひこ

幅広い消費者層のみならず、飲食店事業者からも反響が

―「キッチンカー実証実験」に着手した経緯を教えてください。

 当市は大阪市中心部への交通アクセスに優れ、それがまちの大きな魅力となっていました。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大による昨年4月の緊急事態宣言を受け、外出自粛など市民の生活様式が大きく変化しました。行政として、「コロナ禍においても市民の日常生活をいかに豊かにしていくか」という課題を感じていたとき、Mellow社から「キッチンカーを使って、コロナ禍での市民生活の利便性を向上できないか」という興味深い提案を受けました。

―これまで、どのような取り組みを進めてきたのですか。

 昨年6月にMellow社と包括連携協定を締結し、まずは同年8月から市内3ヵ所に、Mellowのキッチンカープラットフォームに登録する2事業者に参加してもらいました。実証実験では、住宅地でキッチンカーのニーズがどれほどあるのかを検証しましたが、結果は想定を上回る反響でした。テレワークが続く就労者のみならず、未就学児がいる子育て世帯や外出が困難な高齢者を含む、幅広い世代のみなさんに喜んでいただきました。さらには、休業を余儀なくされた市内の飲食店事業者からも実証実験への参加の問い合わせがあり、産業支援という視点でもキッチンカーの可能性を把握できたことは、大きな収穫でした。

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―今後の計画を教えてください。

 昨年8月以降、実証実験は徐々に規模を拡大しており、今年度新たな社会実験の場所を含めて11ヵ所での実施を予定しています。また、新たな市内事業者の参加も含め21事業者でさらなる効果検証を進めていきます。この取り組みが目指すのは、キッチンカーがもたらす賑わいが、当市の魅力のひとつになっていく姿です。交通の利便性に優れているという当市においては、ともすればその便利さだけが住民に選ばれる理由になりかねません。それゆえに、こうした公民学連携によるまちの魅力づくりによって、「豊中市が好きだから住みたい」と住民に感じてもらう施策が重要だと考えています。コロナ禍で社会は大きく変わりましたが、だからこそ新たに生まれたチャンスもあることを、今回の取り組みを通じて実感しています。


支援企業の視点

心強いパートナーの存在を得て、新しい事業の可能性をつかめた

株式会社Mellow 関西事業責任者 西真田 寛人
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株式会社Mellow
関西事業責任者
西真田 寛人 にしまた ひろと

―豊中市との実証実験に、どのような成果を感じていますか。

 コロナ禍によってオフィス通勤や各種イベントがなくなるなど、キッチンカー事業を取り巻く環境が大きく変わるなか、今回の実証実験では新しい事業の可能性をつかめたと感じています。当初、豊中市との実証実験では、災害時や緊急時におけるキッチンカーの活用可能性を検証することがおもな目的でした。そのためには、日常的にキッチンカーが運用されている状況をつくる必要があり、コロナ禍の住宅街での実証実験につながりました。実験では、これまでニーズをつかみきれていなかった住宅街での事業性も見えたほか、「友達に会うために」「孫へのお土産に」といった、人とのつながりを生み出す可能性についても確認できました。

―そうした成果を得るうえで、「公民学連携窓口」の活動を、どのように評価していますか。

 実証実験を進めるパートナーとして、心強い支援をいただきました。自治会との折衝や住民への説明といった、一民間企業だけでは難しい活動を短期間で調整してくれました。さらに、部局間の調整や手続きをスムーズに進めることができたのも、「公民学連携窓口」や、当社の事業を深く理解し、サポートしてくれた担当者の存在抜きにしてはありえませんでした。

 今回の実証実験を見た市内の事業者からは、鮮魚の移動型店舗というアイデアも寄せられており、今後はキッチンカーをはじめとする「ショップ・モビリティ」の可能性をさらに広げる動きにも挑戦していく考えです。

西真田 寛人 (にしまた ひろと) プロフィール
平成3年、福岡県生まれ。大学卒業後、IT関連のベンチャー企業に入社。平成29年4月に株式会社Mellowに入社し、令和元年5月から関西事業立ち上げに従事。

大阪府公民戦略連携デスクの視点

「新しい生活様式」への課題を解決する、公民連携での社会実験に期待

 豊中市創造改革課は、「快適な都市に新しい産業が育ち、新しい産業が都市の生活者を快適にする」という考え方のもと、まち・ひと・しごとづくりに取り組んできました。今回紹介されたMellow社との公民連携による「キッチンカー実証実験」は、コロナ禍での「新しい生活様式」の確立に向けた市民ニーズの多様化に対応し、地域経済の再生・活性化を目指す同市のチャレンジのひとつと言えます。

 イノベーションによる新たな産業創出を目指すさまざまなチャレンジが繰り広げられるなか、「公民学連携のワンストップ窓口」である創造改革課の存在意義は、今後ますます高まっていくものと思います。

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