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地域課題を解決する独自のアプローチ「奈良モデル」で次なる発展の道を探る

地域課題を解決する独自のアプローチ「奈良モデル」で次なる発展の道を探る

奈良県

地域の事情が生み出した県と市町村との「理想の関係」

地域課題を解決する独自のアプローチ「奈良モデル」で次なる発展の道を探る

奈良県知事 荒井 正吾

※下記は自治体通信 Vol.28(2021年2月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。


新型コロナウイルス感染症は第三波を迎えたいま、医療崩壊を防ぎながら、社会と経済をいかに回していくかに対策の焦点が移っている。同時に、「ウィズ/アフターコロナ」時代を見据え、地域として新たな発展の道を模索する動きも出始めている。奈良県では、「奈良新『都』づくり戦略」という県政発展の目標と道筋をとりまとめ、県を取り巻く構造的課題に挑んでいる。地域として独自の政策実現アプローチを掲げている知事の荒井氏に、目指す発展の姿などを聞いた。

将来の発展のために必要な、構造的課題の解決

―「奈良新『都』づくり戦略」を打ち出した背景を教えてください。

 我々は将来の奈良県の発展を描くうえで、県が抱える課題を「現象的課題」と「構造的課題」に分けて考えました。現象的課題とは、その時々に起こり、即時対応が求められる事象であり、災害や今般の新型コロナウイルス感染症などが代表例でしょう。

 一方の構造的課題とは、取り巻く社会・経済環境に起因する中長期的な課題のことです。足元の「新型コロナ」対策を優先させながらも、同時にその先の発展を見据えた場合、構造的課題の解決こそ県政の主たるテーマに置くべきです。こうした巨視的な問題意識のもとに策定したのが、「奈良新『都』づくり戦略」です。

―奈良県における構造的課題とは、どのようなものですか。

 ひと言で表現すれば、「脱ベッドタウン化」がそれにあたります。奈良県の場合、就業者の約3割を県外、なかでもおもに大阪への通勤者が占め、良質なベッドタウンとして発展してきた経緯があります。一方で、ベッドタウンの宿命として、大阪の景気動向に大きく影響を受けながら、高齢化や人口減少は顕著に進む傾向があります。ベッドタウンゆえに県内に職場は少ないので、若者の県外流出は進む。こうしたベッドタウンの構造的課題を解決することが、地域の自立的な発展につながると考え、必要な政策課題を「奈良新『都』づくり戦略」にまとめています。

平城京の九条の大路にちなみ、9つの政策課題を抽出

―「奈良新『都』づくり戦略」には9つの政策課題がまとめられていますね。

 偶然ではありますが、奈良の起源となる平城京が九条の大路で構成されていたことにちなんだものです。これらの政策ターゲットは、県民への「満足度調査」と、各種の「県別ランキング」のふたつのエビデンスをもとに抽出しています。前者は純粋に住民ニーズに応えられていない項目で、一部地域における医療体制の整備などが挙げられますが、それは「健やかな『都』をつくる」という福祉・医療政策に盛り込まれています。

 後者で言えば、じつは当県はホテル・旅館の客室数、道路整備率などは全国最下位レベルにあります。県民の強い不満こそ顕在化していないものの、バランスは悪いですね。それらの弱みは、「賑わう『都』をつくる」という観光政策や、「便利な『都』をつくる」というインフラ政策で補強を図っていきます。

 ただし、本当に重要なのはこの先の戦略策定と実行計画なんです。

―どういうことでしょう。

 私は日頃から、政治というものは、実行力がいちばん大事だと考えています。理想を掲げることは大切ですが、それは実現して初めて意味があるもの。言葉だけでは、政治は軽んじられてしまいます。ですから、この「奈良新『都』づくり戦略」を策定する際にも、政策目標の「ターゲッティング」とともに、戦略を策定する「プログラミング」、実行計画となる「インプリメンテーション」をセットで考えてきました。そして、ここにこそ奈良県独自の事情が色濃く投影されています。

テーマや事業ごとに、県と市町村が連携協定を結ぶ

―詳しく教えてください。

 私が戦略策定・実行プロセスで掲げたのは、現場感覚を重視し、市町村のイニシアティブを尊重することでした。そのうえで、各市町村が関係者と目標を共有し、ともに行動することで、目標は実現に近づきます。

 ここで言う関係者とは大都市の場合、民間企業であることが多く、「PPP (Public Private Partnership)」、いわゆる公民連携が進んでいます。しかし当県では、適切な民間パートナーが存在しない地域も多く、また平成時代に合併が進まなかったため、各市町村の規模が比較的小さいという事情もあります。

―規模が小さいと、人的にも財政的にも資源は限られますね。

 そうなります。それゆえ、当県の場合、市町村のイニシアティブを尊重するならば、そこに県が積極的に関与し、市町村を支援していきながら政策実現を目指すプロセスが必要なのです。つまり、「PPP (Public Public Partnership)」という公公連携こそが当県独自の政策実現アプローチ、いわば「奈良モデル」となっているのです。公民連携が理想だとは思いますが、当県のような地域では、公公連携もひとつの有効な戦略だと考えています。

―実際に、「奈良モデル」はどのように実行されているのでしょう。

 たとえば、先のインフラ政策をめぐっては、道路の橋梁の定期点検に人手がかかり、小さな市町村では手が回っていません。この点検作業を県に逆移譲しているケースがあります。市町村から調査費をいただき、県は人手と技術力を提供する。すでに27市町村で実績があります。

 また、医療体制の整備をめぐっても、県と市町村が一部事務組合(南和広域医療企業団)を設立し、過疎対策事業債のスキームも活用しながら、地域病院の統合による機能強化を図った「南和地域公立病院再編」の例があります。これは、「奈良モデル」の代表的な成功例と言え、現在の「新型コロナ」対策でも効果的に機能しています。テーマや事業ごとに県と市町村が連携協定を結ぶことで、大規模自治体を生む市町村合併と同じ効果を得ながら、地域の実情も反映できる。そんな例が、ほかにもたくさん生まれています。

コロナ禍もひとつのチャンス

―今後の県政ビジョンを聞かせてください。

 いまは、直面する「新型コロナ」対策が最優先課題ですが、その対応を進めるなかで見えてきた新たな発展の道筋もあります。これは当県の構造的課題に関連する問題ですが、じつは当県は、県外消費率が全国1位という統計結果があるのです。現在、主力の観光産業はコロナ禍でインバウンド需要が激減し、大きなダメージを受けていますが、一方でマイクロツーリズムが注目されている動きもあります。これまで軽視されてきた地元のリピート需要を掘り起こせるような体質改善を図れれば、コロナ禍も県内消費を喚起するひとつのチャンスになりえます。

 そうした意味からも、「アフターコロナ」時代を見据え、当県の構造的課題を解決する「奈良新『都』づくり戦略」を強力に推進していく覚悟です。

荒井 正吾 (あらい しょうご) プロフィール
昭和20年、奈良県大和郡山市生まれ。昭和43年に東京大学法学部を卒業後、運輸省(現:国土交通省)入省。OECD日本政府代表部、運輸省観光部長、運輸省大臣官房審議官などを歴任し、平成8年に運輸省鉄道局次長、平成9年に運輸省自動車交通局長、平成11年に海上保安庁長官を務める。平成13年に参議院議員選挙に出馬し、当選。外務大臣政務官、参議院文教科学委員長などを歴任する。平成19年に奈良県知事に就任。現在4期目。