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科学技術拠点都市・つくばの価値を住民に感じてもらうことが重要

科学技術拠点都市・つくばの価値を住民に感じてもらうことが重要

茨城県つくば市 の取り組み

「つくばSociety 5.0社会実装トライアル支援事業」の詳細に迫る

科学技術拠点都市・つくばの価値を住民に感じてもらうことが重要

つくば市長 五十嵐 立青

国と民間をあわせると、約150の研究・教育機関が立地し、そこに約2万の人が従事しているつくば市。世界最大クラスの科学技術拠点として、国内にとどまらず海外にも広く知られている。そんな同市が、平成29年度から取り組んでいるのが「つくばSociety 5.0社会実装トライアル支援事業」だ。具体的に、どのような取り組みを行っているのか。同市長の五十嵐氏に、詳細を聞いた。

※下記は自治体通信 Vol.18(2019年6月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

最先端技術を活かした実証実験を広く公募

―「つくばSociety 5.0社会実装トライアル支援事業」の詳細を教えてください。

 国が第5期科学技術基本計画で提唱している、「超スマート社会」の実現。それに向けた取り組みを「Society 5.0」と称していますが、それをつくば市のフィールドを活用して実証し、社会への実装をめざしています。

 具体的には、AIやIoT、ビッグデータ解析などの最先端技術を活かした実証実験を公募し、そのなかから、「市民生活の向上」や「新たな行政サービスにつながる」といった観点から優れている取り組みを支援するという事業です。

 平成30年度の最終審査では、マイナンバーカードとブロックチェーン技術を活用し、内容の改ざん防止や秘匿性を確保した国内初のインターネット投票を実施しました。これには国内外から多くの反応があり、先日もイタリアの国会議員が開いたインターネット投票の会議にビデオ出演しました。

―実際にどのような取り組みが採択されているのでしょう。

 平成29年度、30年度ともに5件ずつ採択されています。たとえば、平成29年度に採択された「医療相談アプリ」や「トイレで健康チェックができるバイオセンサー」は、実証実験を通じてすでに実用化されました。さらに、医療相談アプリについては、内閣府の「近未来技術等社会実装事業」に選定され、国からも注目されています。

 同じく平成29年度に採択された「IoTデバイスによるコミュニケーション支援」は、継続して実証実験を行っています。 また、平成30年度は「視覚障害者向けの音ナビゲーション」や「温度センサーシールを使った品質保証」などの取り組みが採択され、実証実験が行われているところです。

5割以上の市民が「恩恵を感じていない」と回答

―なぜ、こうした事業を始めたのでしょうか。

 前提として、「もっと科学技術を市民の方に実感してもらいたい」という想いがあります。

 つくば市は、国が2兆6000億円という費用をかけた科学技術拠点都市です。昭和38年に、筑波における研究学園都市建設の閣議了解を経て、昭和60年には国際科学技術博覧会「つくば万博」が開催されました。そして、平成17年には「つくばエクスプレス」が開業しました。こうした国からの大きな後押しを受け、約150の研究・教育機関が立地。1万人以上の研究者が在籍し、事務職員を含めると約2万人が働く科学技術のまちへと発展を遂げてきました。

―いまでは、科学技術拠点都市としてつくば市の名前は、世界的にも認知されています。

 はい。だからこそ私自身、つくば市は国内にとどまらず、科学技術で人類に貢献する使命があると思っていますし、「世界のあしたが見えるまち」というビジョンを掲げているのもそのためです。

 しかし、2年に1回行っている市民意識調査において、5割以上の市民が「科学技術のまちの恩恵を感じていない」という結果が出たのです。「このままではいけない」と思いました。市民のみなさまに、「これがテクノロジーなんだ」というのを実感してもらうことがとても大切です。ですから、こうした事業のモニター募集などを通じて、市民の方に「自分たちが開発プロセスにかかわっていくんだ」と感じてもらうことも含め、取り組む必要があると思っています。

―実際の評判はいかがでしょう。

 最近は、市内でも「さまざまな取り組みをされていますね」といっていただけるようになってきました。市民の方が実際に使って価値を感じてもらうのにはまだ時間がかかると思いますが、つくば市はそういった科学の実証フィールドだということは徐々に認知されつつあると思います。

「適材適所」を意識した環境づくりを行う

―そうした新しい事業を円滑に進めていくために取り組んでいることはありますか。

 適材適所を意識しつつ、職員がどれだけ前向きに仕事ができるか、といった環境づくりを行っています。その一環として、意欲と行動力のある職員に対しては、経験年数にとらわれず、管理職および係長職への積極的な登用を行っています。平成29年、副市長に就任したのは当時26歳の人材です。

 また、平成29年10月採用から、消防職を除いて受験資格の年齢制限を撤廃しました。年齢に関係なく、専門知識や経験のある優秀な人材を確保するのが狙いです。

 さらに、女性職員が働きやすい職場づくりや意識高揚を図るための「女性活躍推進研修」なども実施しています。

 一方で、必ずしも昇給やキャリアアップを望んでいる職員ばかりではないので、本人の意見を尊重するようにしています。

優秀な人材を周囲に置くそれが行政経営の要諦

―五十嵐さんが行政に取り組むうえで大事にしているものはなんでしょう。

 先ほど話した適材適所に通じますが、自分にはない発想をもった優秀な人材を周りに置くことですね。私自身、それが行政経営を行っていくうえでの要諦だと思っていますので。

 先日、車中泊体験イベント「つくばVAN泊」を、つくば市主催で開催しましたが、これは自動車で暮らすという次世代のライフスタイル「VAN LIFE(バンライフ)」を「持続可能な未来の暮らし方」として注目したイベントです。2日間で約5000人にご来場いただき、大きな反響を集めたのですが、きっかけは外部から登用したまちづくりアドバイザーの提案でした。

 こうした取り組みは、われわれだけではなかなか思いつきません。

―ほかに大事にしているものはありますか。

「関係性のイノベーション」を起こすことです。私は市議会議員のとき、働く場所がない障害者の方と担い手のいない農業をマッチングさせる取り組みを行っていました。私たちは、障害者の方や農業そのものを変えることはできません。ただ、それぞれのマイナスをつなぐことで、プラスにすることができます。こうしたイノベーションはあらゆるところで起こせると考えているので、そこはすごく意識しながら行政に取り組んでいますね。

五十嵐 立青(いがらし たつお)プロフィール

昭和53年、茨城県生まれ。平成14年に筑波大学国際総合学類卒業後、ロンドン大学UCL公共政策研究所修士課程および筑波大学大学院人文社会科学研究科(博士・国際政治経済学)を修了。つくば市議選にて2期連続最多得票で当選。平成22年、NPO法人つくばアグリチャレンジを設立し、障害のあるスタッフが働く農場「ごきげんファーム」を開設する(現在は代表退任)。平成28年につくば市長に就任し、現在は1期目。

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