
※下記は自治体通信 Vol.77(2026年10月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
世界文化遺産の「五箇山合掌造り集落」など、伝統文化が息づく南砺市(富山県)。同市は、令和元年に政府の「SDGs未来都市」および「自治体SDGsモデル事業」に選定されるなど、全国的に注目を集めている。その舵取りを担うのが、4町4村合併後の市議を経て市長に就任した田中氏だ。「一流の田舎」を目指す独自の取り組みにより、令和7年度の「市民意識調査」で、市への誇りや愛着を感じている人が75.4%に達したという。5期目を迎えている同氏に、今後も含めた市政の詳細を聞いた。

合併後の不安を払拭するため、住民主体の土台をつくった
―令和6年11月から5期目に入りました。これまでの市政を振り返ってください。
南砺市は、平成16年に4町4村が合併して誕生したまちです。合併当初、住民のなかには「本当に合併してよかったのか」という戸惑いがあったと思います。組織が大きくなると、「近くにあった役場が遠くなった」「我々の声が届きにくくなった」と感じさせてしまう恐れがあります。私自身、合併直後から市議会議員を4年間務め、そうした行政に対する住民の不安を肌で感じていました。だからこそ、私が市長として一番初めに着手したのは、市が行政を一方的に進めるのではなく、住民が主体となって自ら地域の課題を解決していく仕組みづくりでした。
―どのような仕組みづくりを行ったのでしょう。
まずは「南砺市まちづくり基本条例」を制定し、まちづくりの主体は住民であり、住民と行政が協働してまちづくりを行っていくことをルール化しました。そのうえで、協働パートナーとして市内31の地域に「地域づくり協議会」を立ち上げてもらいました。これは、いわば「南砺市版 小規模多機能自治」で、たとえば、空き家を利用し、児童・生徒や高齢者が集う「憩いの場」に再生させるなど、住民主体の活動がスピーディに行われています。この取り組みは、持続可能な地域循環共生圏の構築を目指すモデル自治体として、令和元年に政府の「SDGs未来都市」および「自治体SDGsモデル事業」に選定されました。
そうやって、住民主体で取り組む土台を固めたうえで、住民に「住んでよかった」と思ってもらえる地域づくりのため、さまざまな施策を行っています。
人口減少の打破に向け、若者の挑戦を後押し
―具体的にどのような施策を行っているのですか。
どこの地域もそうですが、特に重視しているのが人口減少問題です。近年は年間約800人が減っていく状況で、私自身非常に悔しい思いをしており、現在進行中の「第2次南砺市総合計画」でも最大のテーマにしています。この現状を打破する起爆剤として位置づけているのが、「若者がやりたいことに挑戦できる環境づくり」です。その柱の1つが、若手人材の育成を目的とした「なんと未来創造塾」です。大学や金融機関と連携し、若者がビジネスを通じて地域課題を解決する手法を学ぶ場で、市が伴走支援を行っています。実際に若者主導によるカフェやゲストハウスの運営など具体的な動きが次々と生まれ、それを呼び水に若手人材の移住者も増えています。
さらに高校生を対象にした施策も行っています。
―詳しく聞かせてください。
高校生の郷土愛醸成を目的とした「ボクなん」というプロジェクトです。南砺市では、高校生になると地域との接点がぱったりとなくなってしまう課題がありました。そこで、私は彼・彼女らに、行政の枠組みを取っ払い「自由に使っていい1,000万円」の予算を託したのです。1回目の当時はコロナ禍で、高校生の部活動が制限されていました。その失われた発表の場を取り戻すべく、自分たちで野外フェスを企画するなど積極的な行動力を見せてくれました。以降、令和7年度まで実施され、この経験を通じて東京や金沢の大学に進学したOBが「大学を出たらいつか南砺に帰りたい」と言ってくれるなど、手応えを感じています。
そのほか、若者への支援を子どもにまで対象を広げ、令和5年度に「南砺市こどもの権利条例」を施行しました。これは、すべての子どもが自分らしく健やかに成長できる社会を目指し、市や社会全体で子どもを支える仕組みを定めた条例で、国の「こどもまんなか」政策を体現する先進的な取り組みと言えるでしょう。

コンプレックスではなく、誇りを持てるまちへ
―これらの施策の先にどのようなまちの姿を描いていますか。
私が市長就任当初から掲げ、目指し続けているのは「一流の田舎」です。無理に都市化を追い求めるのではなく、豊かな自然や伝統文化、温かい人のつながりといった、このまちの「普通の暮らし」のすばらしさを市民に知ってほしいのです。南砺市には、世界文化遺産に登録された「五箇山合掌造り集落」やユネスコ無形文化遺産に登録された「城端曳山祭(じょうはなひきやままつり)」など、世界に誇れる伝統的な歴史や文化が今でも息づいています。そのほかにも、旧利賀村で50年にわたり世界演劇をリードする鈴木忠志さんの活動やアニメ制作会社のP.A.WORKS、そして「スキヤキ・ミーツ・ザ・ワールド」というワールドミュージックの祭典などに見られるように、閉ざされた田舎ではなく、外から来た人を応援する風土が根づく「土徳のまち*」でもあります。住民が「田舎」であることにコンプレックスを抱くのではなく、誇りを持てるまちになることが、私が描く理想の姿です。
令和7年度に実施した「市民意識調査」において、市への誇りや愛着を感じている人が75.4%に達したのは、一定の成果であると感じています。
*土徳(どとく)のまち:民藝運動の父・柳宗悦が提唱した、南砺市に根づく精神風土や人々の気質を表す言葉
インフラ整備と企業誘致で、持続可能な道筋を整える
―今後の市政ビジョンを教えてください。
若者の挑戦を支え、「一流の田舎」を目指すには、インフラの整備や新たな投資が欠かせません。そのため、さらなるまちづくりを進めていきます。たとえば、長年の問題であるタクシー運転手の減少や交通空白地の課題に対し、「公共ライドシェアサービス」という形でアプローチしています。これは、市内のタクシー会社と南砺市が共同運営する「なんモビ」という取り組みで、アプリで配車依頼をするとタクシーが優先的に配車され、車両が手配できない場合、登録ドライバーが運転するライドシェアに依頼が入る仕組みです。
また、企業誘致も積極的に行っています。来夏には、スポーツアパレルメーカーのゴールドウインが大型施設を市内にオープン予定で、約150人の新たな雇用と大規模な誘客が見込まれています。さらに、山間部の遊休地を活用したデータセンターの誘致も決まり、すでにAIの研究者が移住してくるなど、新産業のクラスター形成も始まっています。
人口が減少するなかでも、住民の不便解消を目指しつつ、企業誘致などで雇用に加え、自主財源を生み出し、南砺市が自立して持続可能なまちとなるための道筋を整えていく。それが5期目における私の使命だと考えています。


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