
※下記は自治体通信 Vol.75(2026年7月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
県都である鹿児島市の西隣に位置する日置市(鹿児島県)。「戦国島津ゆかりのまち」として知られ、ベッドタウンとしての人気も高い。そんな同市でも、全国の多くの自治体と同様に人口減少が喫緊の課題となっている。令和3年に同市長に就任した永山氏は、現在2期目を迎えている。民間出身の経験を活かして積極的に官民連携を推進し、就任3年目で「社会増」を実現した同氏の取り組みとはどのようなものか。永山氏に詳細を聞いた。

工場から「本社誘致」へ、20・30代に選ばれる雇用創出
―現在は就任から2期目を迎えていますが、いかなる使命感を持って、就任したのでしょう。
私が市長に就任した当時は、コロナ禍の真っ只中でした。おそらくこのコロナ禍がなければ、私は市長になっていなかったと思います。新型コロナウイルスは本当に悲劇的な状況をこの国にもたらしましたが、同時に圧倒的なスピードでDXの推進を自治体にもたらしました。当時は「アフターコロナ」や「ニューノーマル」という言葉が流行りましたが、私の問題意識として、コロナ禍をどう乗り越えるかの一方で、コロナ後の持続可能な地域づくりに向けていかに新たな成長戦略を描いていくのかも、また求められていると強く認識しました。そこで地元の日置市にて、私が民間企業や社団法人などで培ってきた経験を活かし、コロナ後を見すえた行政運営に全力で取り組みたいと考え、市長に就任しました。
―どのような取り組みを行ってきたのですか。
当初から意識していたのは市内の働く環境の整備で、特に注力したのは「本社誘致」です。かつて地方では、メーカーの工場誘致が一般的でした。しかし、企画・総務・人事など本社機能の事務職を増やさないと、20・30代の方々に働く・住む場所として認知してもらいづらい側面があります。当市は、県庁所在地の鹿児島市に隣接している一方で、雄大な砂丘海岸や受け継がれてきた伝統文化が日常に息づいており、「QOL」の観点で民間企業にアピールができます。また、地域課題への貢献は民間企業側にも意義があり、そうした点で積極的に民間企業へ働きかけ、現在12社の本社誘致を実現しました。なかには、本社移転だけでなく、空き店舗を会議室にするなど、まち自体を丸ごとオフィスに見立てる「街まるごとオフィス」構想なども進んでいます。
加えて、2期目から「ひおき共創コンソーシアム」を立ち上げました。これは、若者や女性に選ばれる魅力的な職場環境を創ることを目的に、市と市内企業が立ち上げた共同体です。現在市役所および市内企業23社が参加し、若者との対話などを通じた知見のアップデートを図りつつ、「働き方先進地」の実現を目指しています。
さらには、子育て環境の整備にも取り組んでいます。
データに基づき保育園を開設、待機児童を大幅に減らす
―具体的に教えてください。
たとえば就任当時、交通の便が良い市の北部は保育園が足りない一方、南部は定員割れが起こるという「ねじれ」が生じていました。そこで、将来の人口推計や転出入の見込みを精緻に分析し、向こう15年以上にわたるエリアごとの保育園の「需要予測データ」を作成した結果、北部は長期的に需要が続く見通しだということがわかり、この情報をもとに各園と対話を重ねました。そして、比較的体力がある南部の事業者が北部にも分園を開設することになり、4年で4つの保育園を新設できました。これで、北部の待機児童の大幅な減少につながりました。
このほか、移住促進を目的とした移住体験環境の整備も行っています。市への移住検討者向けの施設「カメハウス」は、地域での暮らしを体感してもらうことを目的としており、その運営を地域の団体が担うことで住民との接点をつくり出しています。なお、同施設は空き家を団体メンバーがDIYなどで整備したもので、空き家活用の象徴的な存在となっており、滞在することで活用のハードルが下がると期待しています。

「地域内経済循環」を重視し、「富」の流出を防ぐ
―そのほかに、独自で取り組んでいることはありますか。
「地域内経済循環」の促進です。市民の所得を上げるには、市外へ流出している「富」をせき止める必要があります。これは、非常に重視している指標です。その打ち手として重視しているのが、脱炭素化です。これまで、市民が支払う電気代などのエネルギー支出は、市外の企業へと流出していました。そこで、地元の地域エネルギー会社と連携し、「再エネ」の導入を通じたエネルギーの地産地消を推進しています。市民が支払った電気代が地元企業の売上となり、社員の給与となって市内で消費される。環境対策にとどまらず、この循環をつくることが経済対策につながるのです。
また、リユース・リサイクルにも注力しています。当市では以前から生ごみの堆肥化に取り組んでおり、現在は半数以上の世帯が参加して、できた堆肥を市内の農家に使ってもらうという資源の完全循環が成立しつつあります。また、環境系スタートアップ企業と連携し、不要になった衣類などを回収するボックス『PASSTO(パスト)』を市内の約30拠点に設置しました。現在、月間で約1トンもの衣類が集まり、リユースなどに回っています。焼却による環境負荷を下げつつ、資源を循環させていくことも、重要な成長戦略です。
誰もが主役として活躍できる、地域づくりを目指す
―さまざまな施策を行ううえで重視していることはなんですか。
私が民間企業出身ということもあり、積極的な官民連携の推進ですね。今後、住民の方々の価値観やニーズが多様化する一方で、職員数は減っていくため、自治体だけで地域課題を解決するのは難しくなっています。そもそも本社誘致は民間企業の協力がないと成し得ないことですし、リユース・リサイクル事業など、各種施策を通じて民間企業と連携し、それが本社誘致につながるなどの相乗効果も生まれています。単に市が民間企業に業務を発注したり、補助金を助成したりするだけでは継続的な関係構築は望めません。同じ地域課題を認識し、立ち向かうことで、住民サービスの向上につながり、民間企業もビジネスを成立させることが重要で、そうしたWin-Winの関係事例を増やしていきます。
―今後の行政ビジョンを教えてください。
さまざまな施策を進めつつ、このまちに住む一人ひとりが自分らしく働き続けられる社会の実現を目指していきます。本社誘致や子育て環境の改善などの取り組みが奏功し、子育て世代を中心に令和5年には転入者が転出者を上回る「社会増」を実現しました。ただ、当市には団塊世代が一番多く住んでおり、世代に関係なくバランスよくケアをしていくことが重要です。定量的な数字に一喜一憂することなく、誰もが主役として活躍できる地域づくりを、市民と民間企業のみなさんで目指していきます。


.png)
.png)

