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《“今あるやり方”をすべて見直そう》行政のDXが目指すべきものとは?

    《“今あるやり方”をすべて見直そう》行政のDXが目指すべきものとは?

    【自治体通信Online 寄稿記事】
    自治体DXの先にある公務部門ワークスタイルの姿 #7
    (公務部門ワークスタイル改革研究会 研究主幹・箕浦 龍一)

    来庁してもらう必要があった行政手続きをオンライン化し、台帳を引っ張り出してきて行っていた突合は庁内データベースと照合できるように―。これが自治体DXの“最終形”? 公務部門ワークスタイル改革研究会 研究主幹(一般財団法人 行政管理研究センター)を務める箕浦 龍一さん(元総務省大臣官房サイバーセキュリティ・情報化審議官)による“自治体DXの世界観”をテーマとした本連載。今回は自治体DXの目指すべきゴールについて。市民の利便性向上と同等に、職員の業務環境刷新も重要だと箕浦さんは指摘します。そのワケは?

    究極的に目指したいものは何か?

    デジタル・トランスフォーメーションを実現するためには、2つの事柄を意識することが必要と思います。

    ひとつは、「目指すべき目標(ゴール)を明確にする」こと。そしてもうひとつは、「その目標にたどり着くための道筋をできるだけシンプルにデザインすること」です。

    ともすると、今あるやり方を前提として「そこにどのようにデジタル技術を活用しようか」という考えに陥りがち。ですが、前回までにみてきたように、デジタル技術の著しい進展の前には、今まで当たり前のように行ってきた業務フロー自体が、もはや不要となっているかもしれないという中で、目指すべきゴールを改めて確認した上で、そこにたどり着くための道筋を改めてイチから設計してみる、というアプローチ自体が大切になってくるのだと思います。
    (参照:自治体DXの先にある公務部門ワークスタイルの姿~連載バックナンバー)

    その施策で究極的に目指したいものが何なのか、ということが大事なのであって、その過程において関係課で書類提出を求めたり、確認を行ったり、というのは、あくまでも途中のプロセスに過ぎません。そのプロセス自体が廃止または省略可能なのであれば、たどるべき道筋(業務フロー)は、論理的には今とは全く異なる形も、可能なのです。

    “2つのゴール”

    では、行政が目指すべきデジタル・トランスフォーメーションのゴールは、何なのでしょうか?

    筆者は 行政が目指すべきゴールは、
     ①デジタル技術の存在を前提とした快適で幸せな市民生活の実現
     ②職員が快適で高いパフォーマンスを発揮できる業務環境の実現
    の2つではないかと考えています。

    目指すべきゴールは2つ

    1番目のゴール「デジタル技術の存在を前提とした快適で幸せな市民生活の実現」とは、どのようなものでしょうか?

    従来の行政のIT活用/IT化の取組の中でも、しばしば、 市民(国民)の利便性向上とかユーザビリティの向上などが挙げられてきました。今般のDX改革の取組の中では、サービスデザイン思考ということが重要と指摘されています。

    確かに、このような行政サービスの利用者である市民や国民の視点に立ってサービスを設計・デザインするという思考は、今後の取組の中でも鍵となることは間違いありません。手続をデジタルで行う場合にも、入力画面が見やすく、入力事項が分かりやすかったり、画面遷移が少なくシンプルに行えたりすることは、今後も重要です。

    ただ、デジタル・トランスフォーメーションの世界では、もう一歩踏み込んで考える必要があると思います。

    「行政手続き」にイノベーションを!

    従来のIT化の段階では、窓口申請をオンライン(デジタル)で処理できるようにする(オンライン化)ことや、複数の窓口で行う必要がある一連の手続きを単一の窓口で一括して処理できるようにする(ワンストップサービス化)ことなどがひとつの目標とされました。

    もちろん、このこと自体は、一歩前に進むための改革としては重要ではあるのですが、マイナンバーという仕組みが導入され、各行政機関が保有する様々なデータの紐づけが可能となったことを踏まえれば、従来の手続自体、または手続の過程で添付させていた証拠書類などの必要性自体が不要であるかもしれないのです。

    例えば、赤ちゃんが生まれたときに、出生届を役場に提出すれば、出産に関わる様々な情報が両親宛てに自動的に案内することも可能です。出産に関わる給付金や諸手当、児童手当などについても、あらかじめマイナンバーに紐づけられた両親の本人口座に自動的に入金が行われるようになります。

    その際、一切の手続は必要ありません。所得要件がある給付金や手当については、両親本人の課税情報と機械的に突合が行われ、所得要件を超えていない確認さえ取れれば、所得証明書など提出させるまでもなく、行政内部で(機械的に)確認可能なのですから、このような制度・業務フローの設計は論理的にも技術的にも可能なのです。

    個人情報をマイナンバーに紐づけて行政が集めるのではないか、という過剰な懸念を指摘する向きもあります。しかし、これも申請処理の設計次第で、上記のプロセスの中で所得確認の際に所得データを集めてくるのではなく、給付金や手当のフローの側で課税データとの突合の際に本人の所得額自体を取得するのでもなく、本人の前年度所得額が「〇〇〇万円」を超えているかどうかを機械的に判別して「〇」か「×」だけを確認する仕組みとすればよいのですから、個人情報自体が一箇所に集められるような設計にせずとも、多くの行政情報を一元的に活用することが可能となるのです。

    これらは、デジタル技術に関する専門的な知識がなくとも、これまで行政制度や手続などを設計することに長けていた公務員の皆さんの企画立案力で十分対応できるアプローチなのです。

    「効率化」よりも上位にすべき目的

    デジタル・トランスフォーメーションの世界で、実はもうひとつのゴールである行政職員の業務環境の問題が、とても大事だと思います。

    行政のIT活用/IT化の取組においては、しばしば「業務の効率化」が目的とされていましたが、筆者は「効率化」そのものを目的にするのではなく、むしろ業務における「価値の向上」や「パフォーマンスの向上」をより上位の目的にしなければならないのではないかと思います。

    長年進められてきた行政改革は、行政機構や公務員の定員・定数を削減し、行政に投入されるリソースを絞ることで、行政のB/C(費用便益比)を改善させていくというアプローチでした。コストを削減しても、同じ行政パフォーマンスや住民価値(ベネフィット)が獲得できれば、このアプローチは成功だったのでしょうけれど、長年のコスト削減によって、行政が生み出すべきベネフィットも抑制・縮小されてきたのではないかと思います。

    職員の業務環境刷新が必要なワケ

    抜本的な棚卸をすべき

    職員数が減る中でも、行政の仕事は増大し、かつ複雑化しています。現場の職員は、煩雑な事務処理や雑務に追われ、ほんの些細なミスも許されない中で、過剰なストレスや負荷がかかっています。

    今回のデジタル・トランスフォーメーションの実現の取組は、第1のゴールである快適で豊かな市民生活の実現と同時に、職員の業務環境も刷新するものでなくてはなりません。アナログとデジタルのフローが混在することで、職員に煩雑な入力作業、事務処理や雑務を強いている現実や、人為のミスが発生しやすいため、過度な注意が求められたり、ダブルチェック、トリプルチェックという前時代的なアプローチが今でも行われているような業務分野においては、そのようなアプローチを不要とするための業務フローの刷新を、この機会に行っていく必要があると思います。

    このことが、スピーディかつ正確で円滑な業務処理を可能とし、ひいては、市民(国民)の皆さんへの迅速・的確なサービス提供の実現にもつながっていくのだと思います。

    (続く)

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    ■ 箕浦 龍一(みのうら りゅういち)さんのプロフィール

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    公務部門ワークスタイル改革研究会 研究主幹(一般財団法人 行政管理研究センター)
    一般社団法人地域活性化センターシニアフェロー
    元総務省大臣官房サイバーセキュリティ・情報化審議官
    総務省 行政管理局時代に取り組んだオフィス改革を中心とする働き方改革の取組は、人事院総裁賞を受賞(両陛下に拝謁)。中央省庁初の基礎自治体との短期交換留学も実現するなど若手人材育成にも取り組む。
    官僚時代から、働き方、テレワーク、食と医療など、さまざまなプロジェクト・コミュニティに参画。
    2021年7月に退官。一般社団法人 日本ワーケーション協会特別顧問、一般社団法人 官民共創未来コンソーシアム理事も務める。
    <連絡先>ryuichi.minoura.wkst@gmail.com
        (@を半角にしてください)

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