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我らはまちのエバンジェリスト #25(福岡市 職員・今村 寛)
能登地震で噛み締めた「未来の市民×公務員」の対話の責任

公務員だからできる「未来との対話」を考えてみませんか?

    プロフィール
    今村 寛
    《本連載の著者紹介》
    福岡市 職員
    今村 寛いまむら ひろし
    福岡地区水道企業団 総務部長。1991年福岡市役所入庁。2012年より福岡市職員有志による『「明日晴れるかな」福岡市のこれからを考えるオフサイトミーティング』を主宰し、約9年間で200回以上開催。職場や立場を離れた自由な対話の場づくりを進めている。また、2012年から4年間務めた財政調整課長の経験を元に、地方自治体の財政運営について自治体職員や市民向けに語る「出張財政出前講座」を出講。「ビルド&スクラップ型財政の伝道師」として全国を飛び回る。好きなものは妻とハワイと美味しいもの。2022年より現職。財政担当者としての経験をもとに役所や公務員について情報発信する「自治体財政よもやま話」(note)を更新中。

    行政の作為も不作為も、すべて現在と未来の国民・市民に何らかの影響を与えます。私たちが暮らすまちは、過去の政策決定に基づいて運営されているからです。能登地震では公務員が担う「未来への責任」を改めて強く感じざるを得ませんでした。では、どうすれば私たちは未来への責任をまっとうし得るのか―。ちょっと立ち止まって考えてみませんか?

    能登地震に心を痛める

    能登地震から1か月以上が経過しながらなかなか復旧が進まない惨状に胸を痛めていたところ、このような記事(文春オンライン「〈現地写真〉『半島という立地』『険しい地形』だけが原因じゃない…能登半島地震で“道路復旧”が遅れる“意外な要因”」)を目にしました。

    この記事のポイントを要約すると

    1. 大規模災害では、応急復旧を実施する前に救援ルートを確保する“道路啓開”が必要である
    2. 大規模災害が発生して多くの人命が危険にさらされている時、救助活動として真っ先に行われ道路啓開寸断されてしまった道路を切り開き、救助隊を現地に送り込むことを目的とする道路啓開の指揮をとるのは国土交通省、最前線で任務につくのは、主に民間の土建業者
    3. 能登半島ではこの道路啓開計画が未策定だった

    というのです。

    “道路啓開”とは、国土交通省のサイトによれば「緊急車両等の通行のため早急に最低限の瓦礫処理を行い、簡易な段差修正等により救援ルートを開けること」を指し、「大規模災害では、応急復旧を実施する前に救援ルートを確保する道路啓開が必要である」とされています(国土交通省「道路啓開計画~道路啓開とは」より)

    そしてこの記事では「道路復旧が進まない要因として、能登半島の立地や地形だけでなく、事前に道路啓開計画が未策定であったこと」が指摘されています。

    その理由や未策定だったことによる影響については記事を読んでいただければと思いますが、私はこの記事を読んで改めて「未来への責任」の重さを感じずにはいられませんでした。

    果たすべき未来への責任

    私たち公務員が未来への責任を果たすうえで行うべきことはなんでしょう。シミュレーションを重ねて的中率の高い未来予想図を描くことでしょうか。それともありとあらゆる未来の選択肢を想定し、そのどのパターンになったとしても対応できる安全弁を講じておくことでしょうか。

    完璧な未来予想も万全なリスクヘッジも、できればそれに越したことはありませんが私たちは神ではなく、またすべての対策を講じることができるほど無尽蔵な資源を持っているわけでもありません。私たちは「可能な限り」未来を予想し、その想定の範囲内で優先順位を定めて「可能な限り」対策を講じるしかないのです。

    もちろん、その想定の精度を高めることは必要ですし、その精度に応じて対策の精緻化も必要ですが、人間のやることですから限界があることについて、未来の市民に理解してもらうことが必要になってきます。

    しかし私たちは負うべき未来への責任をきちんと果たしているでしょうか。

    • 現在の市民の利益のために過去から積み立ててきた基金を取り崩し、未来には残さないで費消してしまう
    • 現在の市民の窮状を回避するために安易に借金をして後世に負担を先送りする
    • 税収が減るリスクがわかっていながら支出削減の方策を検討せず収支均衡が図られなくなってしまう
    • そして、いつか起こる災害の発災時に直ちに人命救助ができ、その後の復旧作業にも役立つ道路啓開について、人員不足、業務多忙を理由に計画策定を先送りしてしまう

    未来の市民が過去の我々が下した政策決定を見たときにどう思うでしょうか。

    「未来の市民」を視野にとらえていますか?

    未来の市民からどう見えるか

    なぜこのようなことを政策決定したのか…
    どうして予想される事象への対策を講じなかったのか…
    どのような想定に基づき、どのような議論を経て、未来の市民の権利を擁護し、負担を回避しようとしたのか…
    その議論の際に、現在の市民と将来の市民の権利を同等に扱おうという意思があったのか…

    未来の市民は現在の政策判断、意思決定の現場に居合わせることはできませんが、過去にさかのぼってその過程を検証することはできます。その検証の過程で、現在の我々が行っている日々の行政運営や政策判断が未来からの視点で見ても「妥当」と判断できるものであれば、その判断の前提とされた未来予想を上回る事態が起こったとしても、あるいは対策が講じられていなかったとしても「仕方がなかった」と納得することができます。

    未来への責任を負う我々が、真摯にその責務と向き合い、可能な限りその遂行に尽力していることが伝われば、未来の市民から現在の我々の判断を振り返ってみたときに、未来が見えない中で可能な限りの想定を行い、対策を講じたという我々の思いを受け止め、理解、共感してもらえるのではないかと思うのです。

    未来の市民との対話

    ということで私たち公務員が行うべきことは3つあります。

    まずは未来の市民の立場に立ち、未来の市民に成り代わって現在の意思決定に参画し、未来の市民の権利擁護、負担回避に努めるという基本姿勢を貫くこと。

    次に、その基本姿勢をベースとして、未来の市民が見ているであろう世界を可能な限り予測し、考えられる変化への対応について必要な対策を講じること。

    最後に、その決定に至る過程を可能な限り文書で残し、未来の市民が後世に検証できるようにすることです。

    3つのうち、2番目に掲げた「未来を予想してその対策を講じる」という部分についてはある程度やっていると思いますが、大事なのは「未来の市民の立場に立つ」という基本姿勢と「検証可能な記録を残す」という実務。私たちはこの2つによって、未来の市民との「対話」を行うことになるのです。

    「対話」の成立に必要となる重要な構成要素は「開く」と「許す」です。「開く」は自分の持っている情報や内心を開示すること。「許す」は相手の立場,見解をありのままに受け入れること。
    (参照記事:行政と市民をつなぐ重要な架け橋「マスコミ」との対話を考える)

    未来の市民との「対話」は、まず現在の世界に生きる我々が未来の市民の立場に立って物事を考え、議論することが出発点であり、これは未来の市民の立場、見解をありのまま「許す」ことから始まります。

    しかし、それと同じように未来の市民が我々の立場、見解を許容し、納得できるよう、我々が描いた未来予想やそれを描く過程で考えたこと、そしてどういう優先順位付けでこの判断に至ったのかということについてきちんと「開く」ことも同時に必要で、その両輪が相まって未来の市民からの理解が深まり、対話による相互理解、共感が生まれると私は思います。

    また、未来で検証されることを前提とした議論を現在行うことで、より未来の市民に成り代わるという基本姿勢をきちんと演じ切ろうという自覚も強まるのではないかと思うのですが、皆さんいかがでしょうか。

    対話の鍵を握るのは公務員

    未来との対話はなにも公務員の専売特許ではなく、現代の日々を生き、未来に向かって何らかの痕跡を残していくすべての国民、市民が行うべきものではありますが、日々を生きることに精いっぱいでなかなか未来の市民のことまで気が回らないというのが実情でしょう。

    未来の市民のことだけでなく、現在生きているこの世の中のことでさえ、自分以外の他者のことまで気が回らない、他者の立場に思いを馳せ、寄り添うことが難しい人たちがたくさんいます。そんな世の中で他者の存在をありのまま認め、自らの立場を明かしながら互いの接点を見つけ、理解、共感しながら合意形成を図り、ひとつの道を選んでいくことができる世の中を創るうえでも、私たち公務員が果たす役割はとても重要です。

    なぜなら、国や地方自治体の意思決定に向かう対話や議論の場にすべての国民、市民が居合わせることはできませんので、我々公務員や選挙で選ばれた議員が代理することになります。

    公務員は「未来との対話」の鍵を握っている!

    この代理による対話、議論において、国民、市民の置かれた多様な立場、意見を尊重しつつその調和を図り、そこで共有できた目標に基づき議論を進め、意思決定を行っていくことになっています。
     
    そこで、対話の場に身を置く議員や我々公務員が「対話」の本質を理解し、

    • 国民、市民を代理する自分自身が多様な立場や見解があることを把握する
    • そのそれぞれを先入観なく許容し、尊重し、対話の俎上に乗せる姿勢そのものについて正しく理解し、そのように振る舞えなければいけない

    というのが私の考えです。
     
    本来は、そこに居合わせた現在の市民同士で「対話」できる世の中が実現し、多様な立場を尊重できる市民がこの場にいない未来の市民にも思いを馳せることができるようになることが理想です。
     
    そんな世の中になるためにも、市民の多様な立場を代弁する対話の鍵を握っている私たち公務員がひと踏ん張りする必要がある。私はそう考えています。


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