自治体通信ONLINE
  1. HOME
  2. 首長インタビュー
  3. 「子どもを中心にしたまちづくり」に地域の想いをのせ、町の未来を託す
危機感から生まれた独自の教育プログラムを継承する浦幌町の挑戦

「子どもを中心にしたまちづくり」に地域の想いをのせ、町の未来を託す

「子どもを中心にしたまちづくり」に地域の想いをのせ、町の未来を託す

※下記は自治体通信 Vol.72(2026年2月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

少子高齢化や人口減少の進展により、いまや存立自体が危ぶまれる水準に近づく地域も少なくない。こうしたなか、人口減少が進む地域の厳しい現実を真正面から受け止め、まちづくりの起点に独自の教育プログラムを置き、地域が一体となって将来の担い手を育てるというユニークな施策を進めているのが、浦幌町(北海道)である。ここでは、町長の井上氏に、取り組みの経緯やそこにかける想い、さらには今後の町政ビジョンなどを聞いた。

インタビュー
井上 亨
浦幌町長
井上 亨いのうえ とおる
昭和49年5月、北海道帯広市生まれ。帯広市内の高校を卒業後、浦幌町役場に入職。財政部門、企画政策部門などを経験し、令和5年4月の浦幌町長選挙に出馬し、当選。現在1期目。

町にとって不可欠な政策を「失速させてはならない」

―令和5年5月、どのような使命感から町長に就任したのですか。

 それまで町職員であった私は、企画部門の一員として長年、前町長による数々のユニークな政策に携わるなかで、それらの政策が将来の浦幌町にとって不可欠なものだという強い想いをもつようになっていました。たとえば、地域が一体となって築き上げた当町独自の教育プログラム「うらほろスタイル」を起点にしたまちづくりは、その代表です。それらの政策を推進してきた前町長が令和5年での退任を表明された際、「この重要な取り組みを万が一にも失速させてはならない」という危機感が、私が町長選に出馬した動機でした。

―「うらほろスタイル」とは、どのような取り組みなのですか。

 子どもたちが当町で過ごす義務教育期間の9年間で、地域に対する理解や愛着、誇りを深めてもらうために、学校や保護者、地域の有志が一体となって行う教育施策の総称です。町内の子ども全員が対象で、おもに生活科や総合的な学習の時間を活用し、浦幌町の歴史や文化、基幹産業である農業や林業、漁業などの第一次産業を体験的に学びます。そのなかで感じたまちの魅力をPRしたり、課題を見つけ、解決に向けたアプローチを行ったりするのです。それぞれの学年や発達段階に応じたカリキュラムが構築されています。

子どもの想いを大人たちが真剣に受け止め、実現させる

―具体的にどのようなカリキュラムが用意されているのですか。

 たとえば、小学校低学年では、町が有する自然環境を利用した「川遊び」や「雪山遊び」などを通じて、地域の自然やその魅力を体験します。小学5年生には、町内の農林漁業者宅へ民泊学習体験をしてもらいます。そこでは農産物の収穫をしたり、漁船に乗って水揚げした鮭をさばいたり、乳牛の乳しぼり体験もします。広大な農地と豊かな漁場を有する当町は、第一次産業のまちであり、特に小麦や豆類、馬鈴薯をはじめとする豊穣な農産物から、日本の「食糧基地」を自負しています。そのため、子どもたちにとってこの民泊体験は、町の産業の姿を知る重要な機会になるのです。同時に、小学5年生にとっては、家族以外の大人たちと暮らす初めての機会になりえますので、ありのままの自分を「家族の一員」として受け入れてもらうことで、自らの尊厳を実感する体験にもなるでしょう。

―地域に育まれて子どもたちは成長していくのですね。

 はい。そして中学2~3年生には、これまでのカリキュラムの集大成として、浦幌町をよりよい町にするための企画をグループで考え、地域の大人たちへ提案してもらうのです。それらの提案は、決して発表して終わりではなく、町職員や教員、保護者や地域の有志といった大人たちが真剣に受け止め、そのうちのいくつかは必ず実現させます。「子どもの想い実現事業」という町の正式な事業が準備されているのはそのためで、そこにこそ「うらほろスタイル」のこだわりがあります。実際に、子どもたちのアイデアで開発された町の特産品や、新たに開催された町おこしイベントなどもありました。

浦幌町の魅力を、記憶にとどめてもらいたい

―まさに多くの関係者の協力によって成り立っているプログラムのようですが、発足したきっかけはなんだったのですか。

 きっかけは、当時、町唯一の高校であった浦幌高校が平成22年に閉校すると決まったことでした。それによって今後、中学校を卒業する子どもたちは、遠方の高校に通うために必ず浦幌町から出ていくことになってしまいます。その後、進学や就職でさらに遠方に巣立っていくとなると、いずれ町に戻ってきてくれる子どもはいなくなるのではないか。そんな危機感が地域の大人たちに募りました。そこで議論を重ねた末に考え出されたのが、「うらほろスタイル」だったのです。義務教育期間中にできる限り浦幌町を理解するためのカリキュラムを教育のなかにしっかりと埋め込んで、気候や風土、それが生み出す味覚、人のつながりといった浦幌町の魅力を記憶にとどめてもらいたいと考えたのです。将来どこで、どのような人生を歩むかは子どもたちそれぞれの決断ですが、せめてその決断の基準として浦幌町と他所とを見比べるための「物差し」を育てたいのです。本来、地域を知ることは教育において当たり前の重要テーマであるはずですが、現在の教育システムのなかで、いつしかその当たり前の機能が失われていたことに対する反省もありました。

―子どもたちに「この町に生まれ育ってよかった」と思ってもらいたい、という地域のみなさんの想いが込められているようですね。

 まさにそのとおりです。この取り組みは、今年で18年目になり、いまでは目に見える成果も数々と報告されるようになっています。「うらほろスタイル」が始まった年に小学1年生だった子は今年24~25歳になりますが、そのいわば第1期生たちが次々と町に戻ってきてくれているのです。先日もうれしい報告があり、後継者不足で店を閉じようとしていた地元の老舗蕎麦店に修行に入っていた第1期生の若者が、このほど事業を継承することができたとのことでした。「うらほろスタイル」を通じて、実家の第一次産業に誇りを感じ、家業を継いでくれる子どもたちも育っていると聞きます。こうした例が示すように、「うらほろスタイル」は、単なる学校教育の施策にとどまらず、次世代の担い手はもちろん、大人たちの町への愛着をも育て、地域の持続可能性を高めるまちづくりの挑戦といえます。それこそ、当町が「子どもを中心にしたまちづくり」を標榜する所以にほかなりません。

たとえ人口が減ったとしても、積極的な交流が生まれるまちへ

―今後のまちづくりビジョンを聞かせてください。

 近年は人口減少の進展が止まらず、町の財政環境も厳しさを増しています。私が役場に入職した30年前には約8,000人を数えた当町の人口は、現在約4,000人にまで減り、さらに昨年出された国の人口推計では25年後には2,000人にまで半減するとの予測も発表されています。そうした厳しい環境のなかでも、浦幌町のアイデンティティともいえる、この「うらほろスタイル」の取り組みだけは決して絶やすことなく継承していきたいと考えています。幸い、この取り組みは海外にまで知られ、当町への関心を高めてくれています。今後も、町の将来に力を尽くしたいと思ってくれる若者たちを育てることで、たとえ人口が減ったとしても、町の内外にファンを育て、積極的な交流が生まれるまちを築いていきたいですね。

電子印鑑ならGMOサイン 導入自治体数No.1 電子契約で自治体DXを支援します