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財務省出身町長が挑む「町の存続」に向けた地域活性化策

「つながり」を築いて周囲を巻き込み、人口増加という「奇跡」を起こす

「つながり」を築いて周囲を巻き込み、人口増加という「奇跡」を起こす

※下記は自治体通信 Vol.57(2024年4月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

人口減少や高齢化が加速度的に進む地方で今、将来の存続が危ぶまれる自治体が数多く浮上している。そうした状況にあっても、地域の資産と創意工夫によって、魅力あるまちづくりに挑む自治体も少なくない。人口4,600人あまりの西川町(山形県)も、そうした自治体の1つである。財務省職員から転身し、町長に就任した菅野氏のもと、果敢な関係人口創出策を展開している。ここでは、町長の菅野氏に、展開するまちづくり戦略や将来ビジョンについて聞いた。

インタビュー
菅野 大志
西川町長
菅野 大志かんの だいし
昭和53年、山形県西川町生まれ。平成13年に早稲田大学を卒業し、財務省東北財務局に入局。金融庁監督局銀行第一課、同庁総合政策局地域課題解決支援チーム、同庁監督局総務課地域課題解決支援室などを経て、令和3年、内閣官房まちひとしごと創生本部事務局、令和4年、内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局に在籍。令和4年4月、西川町長に就任。

「人口増加への反転」へ。残り7年が最後のチャンス

―そもそも、菅野さんが財務省職員から町長へと転身した理由はなんだったのですか。

 私はこの町で生まれ育ったのですが、小学生の頃はこの町も人口が8,700人ほどありました。それが今は半分ほどに減っています。「人口が4,000人を切り、高齢化率が45%を超えると、人口増加に反転させるのは難しくなる」というある統計が出ていましたが、西川町の高齢化率は当時すでに47%でした。つまり、このペースで人口が減り続ければ、あと7年ほどで4,000人を切る計算になります。ならば、残された7年間が再生への最後のチャンスとなる今こそ、財務省など5省庁で12年間にわたり地方創生に携わってきた私のキャリアを活かしてできることがあるかもしれないと考えました。

―実際にこれまで、どのように施策を展開してきたのでしょう。

 まずは明確な戦略目標を設定しました。それは若者や富裕層をターゲットにした「定住人口の増加」です。そのためには、町とつながる関係人口を創出しなければならず、その入口の1つとして観光の強化を掲げました。そこで活かすべき「町の資源」とはなにか。町民アンケートを行った結果は、第1位は自然、第2位は人でした。当町は霊峰・月山を抱える町として、自然環境や山の恵みはこれまでも売りでした。同時に、江戸時代から月山への参拝客を迎えてきた長い歴史があり、そこで育てた「おもてなしの文化」が当町にはあります。確かに、「自然と人なんて、どこにでもある資源」と見る向きは町内にもありましたが、これは町民と対話を重ねて出てきた結果なので、ならば信じて、徹底的に活用してみようと考えました。

日本初の自治体発行「デジタル住民票NFT」

―町民との対話は、大事にしていたのですか。

 町民対話会は、就任初年度の令和4年度は59回行いましたが、令和5年度は間違いなくそれ以上になります。対話を通じて情報を発信することで、町民は施策に当事者意識を持って参画してくれるようになります。聞こえは悪いかもしれませんが、このような町民のことを私は「稼働町民」と呼んでいます。この稼働町民が多い町はきっと幸せな町ですし、まるで「人の第3セクター」のように町民と行政が一体感を持ってまちづくりを推進していけます。対話を重ねてきた現在は、イベントを開くといえば、町民ボランティアがゆうに100人は集まるようになりました。

―実際にアンケート結果は、どのように活用したのですか。

 まずは、町民のアンケート結果をもとに、「自然の恵み」に根ざし、そこに「町民とのつながり」を介在させ、さらに若者・富裕層にターゲットを絞ることで、どこにも負けないと思える個性的な観光モデルを構想してきました。その1つが、航空会社のプレミアム会員向けに展開した「温泉ガストロノミー」です。ガストロノミーとは、地域の食材や料理を味わいながら、その背景にある文化や歴史を学ぶ観光スタイルですが、当町においては、川魚や山菜、地酒といった食材を使った歴史ある郷土料理に、当町が誇る温泉やサウナ施設をかけあわせ、独自の観光モデルに仕立てました。昨今ブームのサウナは、いまや当町の観光名所の1つです。プロの「熱波師」がお迎えするサウナは、月山の雪解け水による水風呂や月山から吹き下ろす風の外気浴を味わえるのが魅力になっています。

―まさに西川町の自然と人を活かした観光スタイルになっていると。

 そのとおりです。ただし、こうした施策で生まれた関係人口の増加も、一過性のもので終わっては意味がありません。そこで、若者や富裕層とのつながりを意識したオンライン上での取り組みにも力を入れています。日本初といわれる、自治体による「デジタル住民票NFT*」の発行は、その代表的な取り組みといえます。

*NFT : Non-Fungible Tokenの略。代替不可能な世界に1つだけのデジタル資産として取引される

「つながり」は、もっとも重要なコンセプト

―詳しく聞かせてください。

 NFTは、まさに我々がターゲットとする若者や富裕層が高い関心を寄せるアイテムですから、デジタル住民票の発行は、NFT市場に西川町の存在をPRする格好の機会になると考えました。それだけではなく、NFT発行は町独自の資金調達にも寄与するというメリットもありますが、なによりも大きいのは、「デジタル町民」はまさに町を一緒に盛り上げてくれるファンとなってくれるという効果です。実際に、仮想空間上での交流会やメタバース観光などを行い、それを機にリアルな観光に足を運んでくれるデジタル町民も現れているようです。

―新たな「つながり」を生むきっかけになっているのですね。

 まさに、「つながり」は西川町のまちづくりにおいて、もっとも重要なコンセプトになります。戦略目標である「存続可能な町」に向けた施策の成否は、町民はもとより町外の人々とのつながりをどれだけ築き、施策に巻き込めるかにかかっています。私が就任後、令和5年4月に「つなぐ課」を新設したのも、そのためです。その名の通り、町外の人や企業と西川町とをつなぐための、あらゆる施策を担っており、NFT発行や観光施策、公民連携事業などで「つながり」づくりに成果をあげています。この成功を受け、令和6年4月には新たに「かせぐ課」を新設します。これまでも当町では私の経験を活かし、国や県の補助金の調査や戦略的な獲得、行政財産の売却などによって予算を確保しながら、過去にない事業を展開してきました。かせぐ課ではこの資金調達にミッションを絞り、戦略目標を支えてもらいます。

人口増加という「奇跡」も、きっと起こせる

―これらの施策の先に、どのような町の姿を描いていますか。

 私は町長選挙で「『すっだいこと』を実現する町」という公約を掲げました。「すっだいこと」とは地元の方言で「やりたいこと」という意味です。現在、町ではさまざまな事業に挑んでいますが、その目的は「町の存続」であることはもちろん、「自分たちが言ったことが実現した」という成功体験を町民に得てほしいという狙いもあります。町の事業に多くの町民が参画してくれるようになった今、「すっだいこと」ができる町に着実に近づいているという手応えを感じ始めています。この地なら、人口増加という「奇跡」もきっと起こせると信じています。

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