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行財政改革を通じて示す新たな奈良県政の方向性

大胆な方向転換を恐れず、潜在力を活かせる事業へ資源を集中

大胆な方向転換を恐れず、潜在力を活かせる事業へ資源を集中

※下記は自治体通信 Vol.53(2023年10月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

今年5月、奈良県において生駒市長を3期務めた経験を背景に、改革の実績をアピールし当選した山下真氏が新たに知事に就任した。これまでの奈良県について、「世界に誇る自然や歴史・文化など発展への大きなポテンシャルを有していながら、それが十分に活かされていない」と指摘する同氏。県政の変革を訴えるなかで、その第一歩として、就任早々から大規模な行財政改革を打ち出している。「旧来の政治手法との決別」を掲げ、県政の大きな方針転換を進める同氏に、今後の県政ビジョンなどを聞いた。

インタビュー
山下 真
奈良県知事
山下 真やました まこと
昭和43年、山梨県生まれ。平成4年に東京大学文学部を卒業後、平成6年に京都大学法学部に編入学。平成10年に京都大学法学部を卒業。平成12年に弁護士登録。平成18年2月から平成27年2月にかけて、生駒市長を3期9年務める。令和5年5月に奈良県知事に就任。

しがらみのない政治による、抜本的な行財政改革が必要

―今年5月、どのような使命感をもって知事に就任したのですか。

 人口減少と県民所得の低迷が続く現在の奈良県にあって、しがらみのない政治による抜本的な行財政改革が必要だと考えました。奈良県は、世界に誇る歴史・文化遺産を有し、伝統とも結びついた魅力あふれる食と農業も存在します。世界遺産が3つも存在する県は、当県のほかに多くはありません。しかも大都市圏と距離が近い地理的利便性がありながら、豊かな自然や素晴らしい景観にも恵まれています。しかし、そうした奈良県が本来もつ発展へのポテンシャルが、これまで十分に活かされてこなかったという認識が私にはあるのです。低成長の時代にあって、人員も予算も限られるなかで、いかに県の経済や社会を活性化していくかが知事に求められる役割とするならば、そこに向けて必要になる政策の大胆な方向転換や絞り込み、事業の新陳代謝こそが私の使命になると考えています。

―しがらみのない政治でなければ、事業の新陳代謝は難しいと。

 ええ。奈良県では戦後、5人の公選知事が誕生していますが、このうち4人が官僚出身で1人が県庁職員の出身でした。こうした背景から、政党の相乗りや業界団体の推薦を数多く受け、継続性を重視して県政が引き継がれてきたため、政策や慣例が大きく転換されるという経験はこれまではあまりなかったと感じています。それに対し、6人目の私は初めての民間出身者で、市長出身という異なる出自をもった知事になります。選挙戦では、必要に応じて政策や慣例を変えていくことを訴え支持されましたので、奈良県政の「変革」が私の責務と受け止めているのです。

約73億5,000万円分の、予算執行中止を査定

―具体的にどのような変革を考えているのですか。

 これまでの箱物重視のインフラ整備事業は、大きく見直す必要があると考えています。住民ニーズに合致していない施設も多く、建設後あまり利用されていないものや、維持管理費の負担がかさんでいるものもあります。事業の必要性や費用対効果の観点から厳しく査定し、たとえ進行中の案件であっても大胆に予算執行を中止する方針を掲げています。この6月には、令和5年度における予算執行の査定を行い、29プロジェクト、約73億5,000万円分を執行中止すべきとの査定結果を公表しました。これは、将来の支出も合わせた総事業費でみると、約4,730億円分の予算削減に相当します。こうして確保された予算を、県の発展にとってより重要と判断できる分野へ集中的に振り向けていきます。

―どういった分野ですか。

 重要性の高いインフラ整備は進めるべきであり、その代表が道路整備だと考えています。国の統計によると、国道と県道を合わせた奈良県の一般道路の整備率*は約32%で、都道府県別にみると第47位と全国最下位にあります。なかでも、京都府と奈良県、和歌山県をつなぐ主要幹線である京奈和自動車道は、奈良県の一部区間のみ事業が遅れており、これが県内外をつなぐ交通アクセスの足枷となっています。県の立場から、全線開通の早期実現を目指していきます。

 それ以外にも、県民目線に立った予算執行を行うため、事業については「6つの視点」で見極めていくことを私は宣言しています。

―「6つの視点」とは、なんでしょう。

 まずは、当然ながら事業の「必要性」です。どのような福祉の増進や利益をもたらすのか。それを精査したうえで、「費用対効果」が見合っているか。そして、その事業は、県民や企業へ「公平」に便益が行き渡るか。法律や条例といった規範に従って「公正」と言えるか。また、不正は見えないところで生じますので、適切な情報公開や情報提供を通じた「透明性」は確保されているか。さらに、事業の発注にあたっては、「競争性」を確保できているか。この「6つの視点」で、徹底した行財政改革を進めていきます。

*整備率 : 国土交通省『道路統計年報2021』(令和2年3月31日時点)

県民との約束として掲げた、果たすべき「3つの責任」

―行財政改革の先に描く、県政ビジョンを教えてください。

 私が就任にあたって、県民のみなさんに約束したのは、「3つの責任」を果たすことです。1つ目は、「県民や事業者の安心と暮らしへの責任」です。まずは今、この地で暮らす県民や事業者が、安心して生活ができることはもっとも重要なことです。歯止めのかからない物価高騰への対策や、県民の生命・財産を守るための災害対策などは力強く進めます。こうした県民の今に対する責任と同時に掲げているのが、「奈良県の子ども、若者の未来への責任」です。子ども医療費助成の拡充や高校授業料の無償化などを通じて、未来を担う子どもたちが「奈良県に生まれてよかった」と感じ、将来にわたって残りたいと思えるような奈良県にしていきたいのです。

―その実現のために、何が必要になりますか。

 3つ目の責任として掲げた「豊かで活力ある奈良県を創る責任」を果たすことだと考えています。観光地としての魅力を向上させ、主力の観光産業にさらなる活力をもたせることが必要です。また、奈良先端科学技術大学院大学という全国に4つしかない国立の大学院大学や、女子大学として初めて工学部ができた国立奈良女子大学を有する当県として、その研究成果を活かした産学官連携やスタートアップ支援などを促進させます。これらの施策によって、県内に魅力ある職場をつくっていきます。

信頼関係を構築するために、心がける「3F」

―県政運営において、心がけていることはありますか。

 市長を経験した私から見ても、知事の権限は強大です。それゆえに大胆な改革ができる反面、判断が独りよがりになってしまっては危険も大きいです。県職員や民間の人々と信頼関係を構築し、優れたアイデアを広く集められなければならないと考えています。信頼関係や優れたアイデアは、良いコミュニケーションから生まれるものです。そのためには、私が「3F」と命名している、「フラット」な関係性の中で「フランク」かつ「フレンドリー」に話せる知事であることを心がけています。

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