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過疎化が進む山あいの自治体が追求する人口減少時代の行政とは

地域が育てた「魅力」に目を向け、「今あるもの」を活かす視点が必要に

地域が育てた「魅力」に目を向け、「今あるもの」を活かす視点が必要に

※下記は自治体通信 Vol.50(2023年6月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

昨年11月、「スポーツを活用したまちづくり」に取り組む自治体として、スポーツ庁長官から表彰を受けた三好市(徳島県)。同市の「アウトドアスポーツのまちづくり計画」は、山深い同市の自然環境を活かしたものだ。市長の高井氏は、「かつては不便の象徴だった険しい自然環境が、貴重な観光資源とみなされる時代。今ある地域資源を活かす視点は、行政全体の重要なキーワード」だと語る。「今あるもの」を大事にする「持続可能な市政」を掲げる同氏に、今後の市政ビジョンなどを聞いた。

インタビュー
高井 美穂
三好市長
高井 美穂たかい みほ
昭和46年、徳島県三好郡三野町(現:三好市)生まれ。平成6年に早稲田大学第一文学部を卒業し、株式会社ダイエーに入社。平成15年、衆議院選挙で初当選し、3期務める。その間、文部科学大臣政務官、文部科学副大臣などを歴任する。平成27年、徳島県議会議員に初当選し、防災対策特別委員会、総務委員会の各委員長などを務める。令和3年に三好市長選挙で当選。現在1期目。

海外からの訪日客が、環境の魅力をいち早く評価

―三好市をめぐっては、「アウトドアスポーツのまちづくり計画」が注目されていますね。

 「日本三大秘境」のひとつとされる当市では、急峻な地形と吉野川の急流という独特の自然環境を活かし、近年はラフティングやウェイクボードといったウォータースポーツの世界大会が開催されるようになっています。このレガシーを活かし、各種競技会の開催や競技者の育成も図りながら観光コンテンツとしての認知や魅力を高め、関係人口拡大につなげていくというのが計画の概要です。

 これらのウォータースポーツは、もともと地元の文化にはなかったものでした。それどころか、当市の農業が「急傾斜地農法」として世界農業遺産に選ばれていることが示しているように、その自然の制約は厳しく、そこで生活する人々にとって豊かな自然とは、不便さの象徴でもあるわけです。

―その自然がかけがえのない地域資源になっているわけですね。

 ええ。そこには、時代の変化や価値観の転換が大きく働いていると感じます。高度成長期には、人を呼び込むための大規模開発が各地で流行しましたが、この地域は自然の険しさゆえに開発を免れてきました。その結果として「秘境」と呼ばれる観光資源が守られ、その魅力を訪れる人々が高く評価してくれるようになったのです。現在、ウォータースポーツの世界大会が開かれるまでになったのも、もともとは海外からの訪日客がこの環境の魅力をいち早く評価してくれたことが端緒になっています。

山間の過疎地に共通する、3つの難題

―海外の人々によって、逆に魅力に気づかされたと。

 そうなんです。今のような人口減少の時代、経済が縮小していく時代には、無いものねだりをしてもダメで、「今あるもの」の良さを活かしていくことが大事なんだと思うのです。「うちには何もない」という感覚は間違いで、単にあるものの「良さ」がわかっていないだけかもしれない。与えられた環境を存分に活かし、持続可能性を追求していくことがこれからの行政には求められており、「アウトドアスポーツのまちづくり」は、そのひとつの好例だと思っています。

―「持続可能性の追求」という視点では現在、三好市はどのような施策を進めているのでしょう。

 山間の過疎地は全国どこでも同じ難題を抱えていると思います。「人口減少対策」と「防災対策」、それに現在は落ち着きつつある「感染症対策」を加えた3つです。そこは当市も例外ではありません。感染症対策についてはこの間、国や県との連携のもと、限られた職員が通常業務の傍らで臨機応変にチームを組み、ワクチン接種や事業者向け支援を大きなトラブルなく進められました。

 一方、人口減少対策に関しては、移住促進よりも、まずは関係人口の拡大こそが大事だと考えています。日本全体で人口が減少しているなか、自治体間で移住者を過度に奪い合っても仕方がないとも思うからです。その意味では、先ほどの「アウトドアスポーツのまちづくり」はひとつの政策の柱です。また、市中心部の再開発をともなった「にぎわいづくり」は、就任以来の最重要課題と位置づけて進めてきました。

全国的にも珍しい合築施設は、持続可能性を追求した結果

―詳しく教えてください。

 当市では現在、市中心部にある2つの遊休地に、にぎわい創出の拠点となるべき公共施設の整備を計画しています。1つは、地元の県立池田高校の総合寄宿舎を主体とする施設です。かつて甲子園を沸かせた「やまびこ打線」の池田高校は、今も変わらず地域の誇りであり、まさに校歌にもある「われらが池高」の通り、地域が育ててきた貴重な資産です。少子化が進み野球人口も減っているとはいえ、遠方から名門野球部を目指す生徒や、特色のある教育に魅力を感じ入学する生徒が多くいます。総合寄宿舎の建設は、まち全体で高校生を歓迎したいという気持ちの表れであり、高校生にまちのにぎわいを担ってほしいとの想いも込められています。

 計画では、この施設の1階部分を地域住民が利用できる会議室や生涯学習スペースにした「合築施設」とすることを決めています。四方に急峻な山が迫る土地柄のため、合築施設には土地の有効活用や施設の活用度向上という効果がありますが、そこにはもう1つの効果も見込んでいます。

―その効果とはなんですか。

 県と市による事業費の共同負担です。県との協議を重ね、事業費は面積案分を基本とし、2~3階の県立の総合寄宿舎は県が、1階部分を市が負担する県市合築施設とすることを決めたのです。県と市による合築施設の共同建設というのは全国的にも珍しいケースだと思いますが、これも「持続可能性」を追求した施策の一環です。

 もう1つの遊休地には、図書館や公民館、多目的ホールを備えた新しい施設の整備を進めています。中央構造線がまちを走り、全国有数の地すべり地域を抱える当市の防災減災対策を考え、この施設には地域防災の拠点機能を持たせる計画です。冒頭で指摘した3つの難題のうちの「防災対策」の一環で、安全・安心な暮らしに寄与する施設として計画を進めています。

今いる人を大切に「最小不幸社会」を目指す

―これらの施策の先に、どのような市政ビジョンを描いていますか。

 今あるもの、今いる人を大切にし、その「良さ」を引き出していく一方で、困っている人をできるだけ少なくする、いわば「最小不幸社会」を目指したいと思っています。それが、まち全体の幸福度を上げる方法だと思っています。「幸せな人が多いまち」であれば、人を呼び寄せますし、進学や就職でいちど外へ出る高校生たちにも、「いずれ帰ってきたい」と思ってもらえるはずです。平家の落人伝説が伝わる山深いこの地域はもともと、厳しい自然と共生していくために、老若男女問わずすべての人が必要とされ、活躍する場を持てる土地柄でした。この人々の気質もこの地域のかけがえのない魅力です。こうしたここにしかない魅力を発信し、関係人口を創出していきながら、持続可能な行政で三好市を存続させていく、それこそが私の使命だと考えています。

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