「公民連携」の成功事例を深掘り、全国から集結した首長が白熱議論

※下記は自治体通信 Vol.71(2026年1月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
山積する地域課題の解決には、「公民連携」による幅広いアイデアの収集と、そのアイデアを実行する「トップの決断」の2つが欠かせない。令和7年11月4日、東京都港区の明治記念館で開催された『首長会議2025』に、全国68自治体のトップが集結。公民連携の成功事例を深く知り、事例をどう活かすか、他の首長と白熱した議論を展開するなど、大きな盛り上がりを見せた。全国の自治体と、それを支援する民間企業の橋渡し役となってきた『自治体通信』が主催した、このイベントの模様をリポートする。

北海道から熊本まで68市町村、改革に前向きな首長が集結
「自治体の経営力を上げる」をコンセプトに平成26年9月に創刊された本誌『自治体通信』は、課題解決に取り組む自治体と、それをサポートする民間企業の取り組みを紹介する情報誌だ。全国の自治体に向けて「公民連携」の事例を創刊時から発信し続けており、本号で71号を数える。
とくに自治体職員に有益な情報を提供する誌面づくりに重きを置いてきた。加えて、公民連携のきっかけとなるオンラインセミナーを開催してきた。
優れた民間のアイデアを採用するにあたっても、自治体運営の改善に前向きな首長の判断があってこそ。多方面からの声に耳を傾け、柔軟に判断するトップがいることで、公民連携は順調に進むのだろう。
そこで今回、『首長会議』を初開催。首長同士の横のつながり、首長と自治体経営を支援する民間企業との接点を生み出し、自治体経営の課題解決に寄与するために、地方行政のトップが一堂に会した。会場となったのは、東京都港区の明治記念館だ。北海道から熊本まで全国68市町村の自治体改革に意欲的な首長が足を運び、会場の席を埋めた。
プロサッカーチームがけん引。スタジアムが核のまちおこし
メルカリ取締役President(会長)兼鹿島アントラーズ・エフ・シー代表取締役社長の小泉文明氏は「鹿島アントラーズが考えるスポーツビジネスと地域の将来像」と題して、スポーツチーム運営を起点としたまちおこし施策に、細かい点まで踏み込んで語った。
Jリーグのプロサッカーチームが、地元の行政や企業を巻き込み、地域密着で事業を展開する地元企業にも積極的に声を掛けてビジネスクラブを結成するなど、当事者の立場で密接に連携する仕組みを構築。スタジアムを地域のハブとして、医療、教育、災害対策、観光、企業支援と多面的な取り組みを推進している事例が紹介された。
京セラの與那嶺徳弘氏は「自治体の未来を支える 選挙DXの可能性」と題し、大阪府四條畷市が国内で8年ぶりに実施した電子投票で、自社の電子投開票システム『デジ選®』が採用された例をあげてプレゼンテーションした。
この『デジ選』は「年齢や性別を問わず、誰もが明確で簡単に投票できる公平な電子投開票」を目的に開発された。総務省の電子投票システムに関する技術的条件に全項目が適合し、従来の紙による選挙の無効票発生や開票作業の長時間化といった課題を解消し、公平で安心な選挙を実現する。有権者と自治体の双方にメリットを提供する。誰もが使いやすいUI/UXデザインで、経済産業省が後援する「2025年度グッドデザイン賞」を受賞している。
NECソリューションイノベータの川村武人氏が紹介したのは、北海道の道東エリアで隣接するバス会社5社と観光業を展開する地域事業者など計47社が連携して押し進めた「ひがし北海道での観光DXの取り組み」だ。地域の交通・体験・飲食が観光資源であるとあらためて定義するとともに、共通のデジタル基盤を活用して、ワンストップで情報を発信した。名所やグルメスポットの紹介にとどまらず、交通手段の予約まで同時にできる機能を実装し、使い勝手の良さから、観光客の背中を押した。その結果、地域に新しい観光需要を取り込み、地域一体型の広域観光事業モデルを構築して、観光集客と消費喚起に成功している。
この「行きたい場所」にアクセスする手段の予約までできる観光DXは「交通課題を抱える他地域での応用も見込める再現性のあるモデル」と評価され、『ツーリズムEXPOジャパン 第9回ジャパン・ツーリズム・アワード』で経済産業大臣賞を受賞している。
左 : 基調講演を行った鹿島アントラーズ・エフ・シーの小泉文明氏
中央 : 「選挙DX」の効果を紹介した京セラの與那嶺徳弘氏
右 : 「ひがし北海道での観光DXの取り組み」は『ジャパン・ツーリズム・アワード』で経済産業大臣賞を受賞した
地域課題の解決を支援した、「公民連携」事例を多数紹介
また公民連携の好事例として、民間企業3社による自治体経営の支援実績が披露された。
大丸松坂屋百貨店は、島根県江津市の伝統文化「石見神楽」をメタバース上で再現するプロジェクトを手掛けた。実際のイメージを伝える動画が、首長会議の会場でも共有された。限られた時期にしか公開されない伝統文化や芸能などを、その地域ならではの観光資産としてアピールできるため、地域の認知度を向上させるのに効果的な手法となりそうだ。
BABY JOBは、保育施設向けに紙おむつとおしりふきのサブスクリプションサービスを展開し、全国140以上の自治体と連携して公立保育施設への導入を拡大している。その広がりは、保護者の負担軽減と保育士の業務効率化につながり、子育て世帯の“時間貧困(=時間のなさ)"の解決に貢献する打ち手といえる。
DIGITALIOは、導入コスト無料で、1円分から発行できるデジタルギフトサービス「デジコ」を提供している。住民向けの給付金、アンケート謝礼、コンテスト受賞者への賞品など、幅広い活用法がある。デジタルでデータをやりとりするため、郵送作業や在庫管理の手間がなく、職員の業務負担が軽減されることも大きなメリットだ。
パネルディスカッションでは「これからの自治体経営」をテーマに、LIFULL代表取締役会長の井上高志氏、面白法人カヤック執行役員の佐藤純一氏が、モデレーターを務めたイシン代表取締役会長の明石智義の進行のもと、企業経営の視点から、自治体経営のあり方と、民間連携を成功させるための首長の役割について自説を披露した。
各セッションで、参加した首長が熱心に手帳やノートPCにメモを取ったり、スクリーンに映し出されたスライドをスマホで撮影したりする姿が会場の至るところで見られた。質疑応答に積極的に手をあげ、紹介された「公民連携」の成功事例を「どうすれば、自分たちの自治体に取り入れて、住民サービスに活かせるか。ぜひ考えたい」といった声もあがった。

左 : 公民連携の好事例として3社の取り組みが紹介された
右 : パネルディスカッションのテーマは「これからの自治体経営」
首長同士の意見交換が白熱。地域課題解決のヒントを探る
ひときわ熱を帯びた様子が伝わってきたのが、首長同士による意見交換会の時間だった。出席した首長が、事前アンケートで選んだ、それぞれ興味のあるテーマについて、5つのグループに分かれて話を掘り下げる場が設けられた。
設定されたテーマは「公民連携」「広域連携」「財源確保」「自治体DX」「組織運営」で、課題感を共有する首長同士が顔を合わせ、他自治体の話に真剣な面持ちで耳を傾け、議論を深めていた。円滑な対話をサポートするファシリテーターが各テーブルに配置され、流れに棹さす役割を果たすなか、直面している現実を検証し、解決のヒントを探るきっかけになったのではないだろうか。

第1部の終了後は、孔雀の間へと会場を移して、立食パーティ形式の交流会が開催された。この首長会議への参加をきっかけに交流が始まったり、関係性が深まったりしたケースもあるだろう。
「民間企業や、他首長とかかわる貴重な機会だった」「首長同士で真面目な意見交換ができる場として有意義な時間になった」といった声が、首長会議の終了後に集めたアンケートに寄せられたほか、自身のSNSに参加の感想を投稿している首長も多かった。
この首長会議は「公民連携」の成功事例を深掘りして詳しく知るとともに、地域課題の解決に日々向き合う自治体経営のトップ同士が心を通わせる絶好の機会になったといえそうだ。

第2部の交流会は、首長同士が親睦を深める場となり、大いに盛り上がった

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