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“10年の経験”から見えた「公共木造化」推進の4要素

    “10年の経験”から見えた「公共木造化」推進の4要素

    【自治体通信Online 寄稿記事】従来工法より低コスト~杉戸町の「公共施設木造化」実践ノウハウ⑥(杉戸町職員・渡辺 景己)

    公共施設の木造化は従来工法と比べてコストが高い―。こうした“常識”を独自の手法で覆し、注目されている杉戸町(埼玉)。その“実践ノウハウ”を公共木造化を推進している同町職員の渡辺 景己さん(建築課 主幹)に公開してもらう本連載の第6回は、公共施設の木造化を積極推進するうえで持つべき視点や考え方、自治体の課題などについて。10年間の経験に基づいた“木造化の壁”を乗り越える方法を具体的に提示してもらいます。
    【目次】
    ■ 「設計者の考え方」で低コストな木造化が可能
    ■ 「官学連携」も効果的な方法
    ■ 「木造の特徴を熟知した設計者」と組む
    ■ 自治体内部の理解も不可欠

    「設計者の考え方」で低コストな木造化が可能

    今回は杉戸町が木促法(公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律)の施行(平成22年)とともに進めてきた公共施設の木造化について、約10年間の事例を通して見えてきたポイントをお伝えしたいと思います。

    公共施設に木造を採用すると高い―。特に「地域材を使用した木造の公共施設は高い」という声がさまざまな方から聞かれます。

    杉戸町も6つの施設建設を通して確かに高くなってしまった施設もあります。高くなってしまった施設と安く建設できた施設の違いは考え方の違いです。

    特に大事なのは、設計者の考え方です。設計者の考え方で施工費や部材はいくらでも調整が可能です。杉戸町では職員設計を通してその辺りを実感することができました(下の一覧参照)

    建築する施設の主眼がどこに置かれているのか、発注者とよく調整して進めることで例え木造であってもコスト高は回避できると思います。
    (参照記事:林業なき“まち”が証明した「公共木造は低コスト」)

    ~杉戸町の公共木造施設一覧~(2020年11月現在)

    凡例:①施設名、②1平米当たり単価(単位:円)、③設計者

    上写真左:①中央幼稚園 管理棟遊戯棟、②209,525、③職員設計
     同中 :①泉保育園、②252,044、③職員設計
     同左 :①すぎと幼稚園・保育園、②355,344、③外注設計

    上写真左:①流灯ふれあい館(お祭り施設)、②159,686、③職員設計
     同中 :①中央幼稚園 保育棟、②203,731、③職員設計
     同左 :①役場屋外喫煙所、②161,523、③大学設計(施工も)

    「官学連携」も効果的な方法

    そして公共木造の未経験自治体は小さい施設から始めてみるのもひとつの方法だと思います。各課調整が少なく、木材調達も容易です。具体的な例で挙げると公園のトイレや東屋、バスの待合所などの小規模施設です。

    杉戸町でも昨年受動喫煙防止法の施行を受けて役場敷地内に8平方メートルの喫煙専用施設(2019年10月竣工)を木造で建設しました(内外装は不燃材で施工)。

    ※但し、施設規模が大きくなると法規制が変わりますので次の案件に取り掛かる時にそこは注意して下さい。

     
    また、官学連携で実施するのもひとつの手法だと思います。

    杉戸町の隣町に建築学科のある日本工業大学があります。大学は専門分野の研究機関であり知識の宝庫であります。その大学と連携することにより事例の少ない公共木造への新たな道が切り開かれたりします。

    杉戸町の場合、杉戸宿開宿400年記念で復元した杉戸宿高札場(すぎとじゅくこうさつば、2016年10月完成)や流灯ふれあい館(2018年3月竣工)、先ほど紹介した屋外喫煙所は、日本工業大学建築学科の協力を得て構造物及び施設の建設を行いました(下の囲み記事参照)

    ~杉戸町が官学連携で実施した木造プロジェクト~
    杉戸町役場屋外喫煙所と建設した学生たち(上写真左)、流灯ふれあい館の塗装作業を行う大学生(同中)、杉戸宿高札場の完成記念式典(同右)。高札場とは幕府が決めた法令や公定運賃を木の板札に書き、高く掲げておく場所。

    「木造の特徴を熟知した設計者」と組む

    設計者選定について、公共木造プロジェクトは現在黎明期にあります。そのため少し特殊な施設設計が必要であるということを発注者及び設計者は認識する必要があります。

    設計業務報酬基準の最新版である国土交通省告示第98号は、1,000平方メートル以上の木造設計を他構造の設計より割り増しする算定式になっています。これは中大規模木造設計が他構造より手間の掛かる設計であることの現れです。

    それでも、大変だからと回避していれば持続的な環境社会は実現できません。木造の特徴を熟知した設計者と施設の木造化・木質化を進めて行くべきです。

    そう言った意味では、設計プロポーザルという選定方法は、設計者の考え方をプレゼン資料で見たり、ヒアリングで聞いたりすることができる選定方法なので有効な手段のひとつだと思います。
    (参照記事:「担当者の役割」と「プロポーザルの注意点」)

    今後、過去の木造設計の実績や経験などが目に見える形で設計者ごとに表したりすることができれば比較的中小規模の公共木造施設設計に競争入札を取り入れても現在よりは熟知した設計者に発注することが可能になってくるのではないでしょうか。

    自治体内部の理解も不可欠

    また、木造公共施設を普及させるために積極的に動いている部署は、国は林野庁や国土交通省の木材利用部局であり、都道府県では農林部局です。どうしても森林の有効活用や木材利用の観点から動いている部署と公共施設を建設する営繕部署、さらには施設を保有している部署との温度差が否めません。

    そして最近、各自治体で確認されているのが公共施設建設担当部局に相談が来る時点ですでに構造が決まっている、というパターンです。すでに他構造で決定している構造を木造に変更するだけで、ひとつの大きな労力が必要になります。

    公共施設を建設する部署の建築系技術職の方に木材の知識と木造施設建設のノウハウを持たせることが重要であると同時に、施設保有課に選択肢として木造を理解してもらうことが重要です。

    発注課(営繕担当部局)は「環境に良い」「工夫すれば建設費が安い」「工夫すれば耐久性がある」ということを正しく理解して関係部署を納得させることができる公共木造のキーパーソンを育成する必要があります。

    (続く)

    自治体通信への取材のご依頼はこちら

    本連載「従来工法より低コスト~杉戸町の『公共施設木造化』実践ノウハウ」のバックナンバー
    第1回:林業なき“まち”が証明した「公共木造は低コスト」
    第2回:低価格な「“国産”一般流通材」を使うコツ~前編
    第3回:低価格な「“国産”一般流通材」を使うコツ~後編
    第4回:全体の7割を越える「木構造部分」以外のコストカット法
    第5回:「担当者の役割」と「プロポーザルの注意点」

    渡辺 景己(わたなべ かげき)さんのプロフィール

    前橋工科大学建築学科卒。鶴ヶ島市(埼玉)職員を経て、前橋工科大学に入学し建築を学び、杉戸町(同)の職員に。現在、建築課主幹。一級建築士、一級管工事施工管理技士、第二種電気工事士など建築系の幅広い資格を取得。木造については設計・施工ともに経験があり、埼玉県木造建築技術アドバイザーとして他自治体への講師も務める。

    <連絡先>
    電話: 0480-33-1111 (杉戸町役場)

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