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林業なき“まち”が証明した「公共木造は低コスト」

【自治体通信Online 寄稿記事】従来工法より低コスト~杉戸町の「公共施設木造化」実践ノウハウ①(杉戸町職員・渡辺 景己)

林業なき“まち”が証明した「公共木造は低コスト」

2020年度から倍増の400億円、24年度から全額の600億円が地方自治体に配分される「森林環境譲与税」。税の趣旨にかなう使途ついて、各自治体ではさまざまな事業策定や取り組みが推進されています。そうしたなか、地域に林業が存在しないにもかかわらず、杉戸町(埼玉)では公共施設の木造化を約10年前から積極推進しています。その理由は「従来工法より安く、さまざまなメリットもあるから」という、“木造は高コスト”という固定観念と相反するもの。どのようにして低コスト化をはかっているのか。公共施設木造化を自ら町に提案し、事業推進している杉戸町職員の渡辺 景己さん(建築課 主幹)に「どの自治体でも実践できる木造化ノウハウ」を公開してもらいます。

【目次】
■ 新築公共施設の木造化率が85%!
■ 木造化を積極推進する理由
■ 低コスト+地元事業者も潤う
■ SDGs達成のための重要施策のひとつ

新築公共施設の木造化率が85%!

杉戸町は、埼玉県の東部にある人口4万5,000人弱の町です。古くは日光街道の宿場町として栄えました(下写真参照)。都心から真北に約40㎞程度の場所に位置することから、戦後、東京のベットタウンとして東武鉄道の駅を中心に発展し、市街化区域を形成してきました。

市街化区域の周辺には田園地帯が広がる町です。地勢は利根川の旧河川である「大落古利根(おおおとし ふるとね)川」や「江戸川」に挟まれた平坦な地域にあり、河川流域で言う川下にあたる町です(下地図参照)。そのことから水田の多い地帯であり、木造建築の主材料になる木材産業や林業の盛んな地域ではありません。

そうした杉戸町では、平成21年度に着手した幼稚園の建替え設計業務をきっかけに、公共施設の木造化に取り組んで来ました。

その内訳は、幼稚園・保育園系の子育て支援施設が4施設、倉庫・イベント系施設が1施設、喫煙所が1施設。また、他構造の新築として鉄骨造の防災倉庫(内装には木製棚採用)を新設しています。平成22年度以降に町は、新築7物件中の6物件を木造で実施しており、木造化率は実に85%になります。

宿場町の面影が残る杉戸町内の古民家(上)と埼玉県と杉戸町(赤丸の緑色部分)の位置
宿場町の面影が残る杉戸町内の古民家(上)と埼玉県と杉戸町(赤丸の緑色部分)の位置

木造化を積極推進する理由

山も木もない杉戸町で公共施設の建替えになぜ木造を採用したかと言うと以下の理由からです。

①新法の制定
当時国が「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」(以下、木促法)という公共施設の木造化を推進するための法律制定に向けて動いているという情報が入っていました

②県の指針
杉戸町がある埼玉県は、県の指針として平成16年から公共施設の木造化を推進する運用を始めていました

③木造技術者の育成
埼玉県は同年から公共施設の木造化が進むように木造技術者の育成研修も行っていました

④町の認識
杉戸町職員はいち早く県の育成研修に参加し公共木造の必要性を理解していました

以上のことから前述した幼稚園設計を翌年の平成22年度には最初の案件として工事着手し、同年度末には完成しました。

木促法の成立直後に木の温もりのある低コスト事例が完成したことでベースができ、杉戸町は令和元年度までに6つのさまざまな木造公共施設の実績を積むことができました(下写真とコラム参照)

杉戸町では、平成22年度に竣工した幼稚園(写真①)を皮切りに平成23年度には、保育園と児童館・子育て支援センター併設施設(写真②)、平成27年度には幼稚園・保育園の複合施設(写真③)、平成29年度には倉庫兼イベント施設(写真④)、平成30年度には幼稚園(写真⑤)、令和元年度には喫煙所(写真⑥)を木造で完成。

低コスト+地元事業者も潤う

「公共木造は鉄筋コンクリート造や鉄骨造よりも高い」とよく言われます。確かにそのような事例も多数存在します。

しかし、下表からも確認出来る通り杉戸町は創意工夫により他構造よりも安い公共木造を実現してきた事例もあります。その全ての物件に共通の効果は出ていませんが、低コスト化を心掛けています。

少子高齢化による生産年齢の減少により右肩上がりの経済成長は今後望めません。限られた財源の中で、いかに工夫して安くていい物を作るか心掛けています(その辺の工夫に関しては次回以降に触れていきたいと思います)。

杉戸町公共木造施設6事例のコスト比較(※太字の「職員設計」はメインが職員による設計)
杉戸町公共木造施設6事例のコスト比較(※太字の「職員設計」はメインが職員による設計)

また、木造は昔から地域に根付いた構法であるため、地元の工務店や大工さんが活躍出来る機会が増えるというメリットがあります。

さらに、数値的に表れていませんが、内装に木を使用すると木の温もりや木の香りから木造施設は施設利用者に対して癒し効果があると言われています。他構造とのマウスの生存実験や冬のインフルエンザの罹患者数など、明確な根拠は示されてはいませんが効果が出ている成果もあります。

SDGs達成のための重要施策のひとつ

木促法の制定前後は、公共施設を木造化することによる国等からの補助制度が豊富であったことから、自治体が自己負担を少なくする目的で公共施設の木造化を図る例もありました。また、山間部の市町村は地場の基幹産業として林業や製材業があるため、地域振興策として木造化に取り組む自治体もありました。

しかし、それらの目的のためだけに木造化を進めると補助メニューがなくなった時や元々公共施設の総数が少ない山間部での建替え需要が一巡した時に木造化はストップしてしまいます。

そのような考え方のみではなく、公共施設に木造を採用する意義は、日本の森林資源の有効活用、木材利用による循環型環境社会の実現、木造化による二酸化炭素の排出量の削減、流通建材を活用した低コスト木造による自治体財政への負担軽減などメリットは多岐に渡ると考えます。

それらを踏まえて、公共施設の木造化はSDGsを達成させるための重要な政策のひとつだと思います。

そして杉戸町の場合は山間部の市町村ではないため、木造の地域材利用による林業等の地場産業の活性化効果は少ないのですが、埼玉県という県域で考えた場合、JR八高線より西側の県西部3分の1は山間部になりますので、県産材を使用することにより県内産業の活性化という視点では地場産業の活用化(地産地消)が図られています。

公共施設の木造化は地域と日本全体に数々のメリットをもたらす(写真は平成26年の埼玉県秩父市旧大滝村視察時に渡辺主幹が撮影)
公共施設の木造化は地域と日本全体に数々のメリットをもたらす(写真は平成26年の埼玉県秩父市旧大滝村視察時に渡辺主幹が撮影)

ただし、1市町村で取り組んでいて効果が出てくるものではありません。都市部は人口が集中しているため公共施設の絶対数は多いです。しかし、防耐火規制の厳しさや地場産業でないことから公共施設の木造化は低いのが現状です。

この都市部において、比較的取り組みやすい一定規模以下の施設に木造化を行うことが効果は大きいです。都市部も含めて日本全体で進めて行くことで初めて効果的な政策になってくると思います。

(続く)

渡辺 景己(わたなべ かげき)さんのプロフィール

前橋工科大学建築学科卒。鶴ヶ島市(埼玉)職員を経て、前橋工科大学に入学し建築を学び、杉戸町(同)の職員に。現在、建築課主幹。一級建築士、一級管工事施工管理技士、第二種電気工事士など建築系の幅広い資格を取得。木造については設計・施工ともに経験があり、埼玉県木造建築技術アドバイザーとして他自治体への講師も務める。

<連絡先>
電話: 0480-33-1111 (杉戸町役場)

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