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「担当者の役割」と「プロポーザルの注意点」

    「担当者の役割」と「プロポーザルの注意点」

    【自治体通信Online 寄稿記事】従来工法より低コスト~杉戸町の「公共施設木造化」実践ノウハウ⑤(杉戸町職員・渡辺 景己)

    公共施設の木造化は従来工法と比べてコストが高い―。こうした“常識”を独自の手法で覆し、注目されている杉戸町(埼玉)。その“実践ノウハウ”を公共木造化を推進している同町職員の渡辺 景己さん(建築課 主幹)に公開してもらう本連載の第5回は「庁内外との調整の進め方」について。木造化プロジェクトを円滑に推進するためのポイントを解説してもらいます。
    【目次】
    ■ 「キーパーソン」の重要な役割
    ■ 大規模施設では「プロポーザル」も
    ■ 「まかせられる設計者」を見抜く

    「キーパーソン」の重要な役割

    一般論として、よく「行政は縦割りだ」と言われます。これは国や県、市町村のいずれかの組織に限って言われることではなく、すべての公務員組織に当てはまります。

    この縦割り行政に横串を入れて横の連携を取らないと進まないのが木造公共施設の設計、施工です。

    なぜ、横串を入れないといけないのか。それは木造公共施設がいろいろな部署に跨り、それぞれの担当者と調整を行い、進めなくてはならないプロジェクトだからです。

    木造公共施設を進めるにあたり、関わってくる代表的な部署をここで紹介します。下に掲げる担当者等との合意形成が必要になります。

    ①政策課~中大規模木造は、ほとんどの自治体で新たに始める場合が多い。木造にする規模・用途等を政策課と調整し方針・政策を決定
    ②財政課~予算を管轄
    ③施設管理課~施設を管理
    ④農林課~地域材等木材を管轄
    ⑤営繕課~施設建設を担当
    ⑥首長(または秘書課)

    これらの部署等と調整し、課題解決をしながら進めなくてはいけないため、各自治体組織には部署横断的に調整役を担うことができる“公共木造のキーパーソン”が必要だと言われます。

    木造公共施設を推し進めている自治体に多く見られるケースがふたつあります。ひとつは首長の強力なリーダーシップによる木造公共施設の推進です。もうひとつは、公共木造のキーパーソンが機能している自治体です。

    前者のように首長の命令により各部署が連携して動く場合は、各部署でいろいろな意見は出ますが。比較的スムーズに進みます。

    後者のようにキーパーソンが部署横断的に調整役を担う場合は、キーパーソンの調整能力次第で条件が整わないと機能不全を起こしてしまいます。その結果、途中で他構造に方針転換してしまう可能性が高いのが木造公共施設建設プロジェクトの特徴です。

    キーパーソンは、対外的にも木材関係者・設計事務所・施工者との調整が必要不可欠です。そのため、木材に関する知識と木造建築に関する知識の両方が必要不可欠になってきます(下図参照)

    キーパーソンにとっては、多岐に渡る業務のため、たいへん手間の掛かる業務です。それでも木造公共施設を増やすということは、地球規模的な環境問題に貢献するプロジェクトであるため、やりがいをもって進めて欲しいものです。

    木造プロジェクトのネットワーク図
    木造プロジェクトのネットワーク図

    大規模施設では「プロポーザル」も

    現在、設計発注に関しては、大きく分けて3つの設計者選定方法があります。まず、価格の大小で設計者を選定する「競争入札(指名競争入札、一般競争入札)」。次に、設計者の良し悪しで設計者を選定する「設計プロポーザル」。最後に、設計案の良し悪しで設計者を選定する「設計コンペ」。この3つです(下図参照)

    杉戸町では、木促法施行から昨年度までに建築確認が必要な木造の公共施設を5施設手掛けてきました。一番初めに実施した木造幼稚園(中央幼稚園管理棟遊戯棟)は平屋建て約450平方メートルでした。

    設計の発注方法について、意匠設計については職員設計を上層部に提案して採択を受けたため、そのまま職員設計で実施させてもらいました。木構造と建築設備については、専門性が高いため分離発注による入札を行い、外部委託を行いました。

    杉戸町における入札規定では、一定額以上の設計委託は全て指名競争入札になりますのでその方法で実施してきました。

    一番初めに実施した木造幼稚園「中央幼稚園」の管理棟(左)と遊戯棟遊戯室(右)
    一番初めに実施した木造幼稚園「中央幼稚園」の管理棟(左)と遊戯棟遊戯室(右)

    1事例目以降は、ベースができたため、2事例目(泉保育園、約1,300平方メートル)、4事例目(流灯ふれあい館、約340平方メートル、お祭り等施設)、5事例目(中央幼稚園保育棟、約600平方メートル)の施設も1事例目と同様に意匠設計は職員で実施し、構造設計と設備設計を指名競争入札で実施するという方法を取ってきました。

    2事例目の「泉保育園」の玄関ホール
    2事例目の「泉保育園」の玄関ホール
    4事例目の「流灯ふれあい館」の外観
    4事例目の「流灯ふれあい館」の外観
    5事例目の「中央幼稚園」の保育棟
    5事例目の「中央幼稚園」の保育棟

    3事例目に実施した2,000平方メートルを超える幼稚園と保育園の複合施設(すぎと幼稚園保育園)は、設計プロポーザルにて発注させてもらいました。

    プロポーザル方式を採用した3事例目のすぎと幼稚園保育園(左は外観、右は遊戯室)
    プロポーザル方式を採用した3事例目のすぎと幼稚園保育園(左は外観、右は遊戯室)

    先ほどもお話しした通り、町の設計者選定方法は通常の場合は指名競争入札です。しかし、3事例目のすぎと幼稚園保育園の案件は施設規模が木造公共施設にしては過去最大規模であり、職員設計するにしても人員的な不足が予想される大きさでした。指名競争入札を実施するにしても金額の大小のみの判断で中大規模木造公共施設の設計ができるのかという不安要素がありました。

    そこで林野庁の補助事業として実施していた一般社団法人 木を活かす建築推進協議会の「木造公共建築物の整備に係る設計段階からの技術支援」という制度に申込み、支援を受けることになりました。その中で設計プロポーザル発注の助言を頂き、町内部の検討委員会で了解を頂き実施することになりました。

    「まかせられる設計者」を見抜く

    プロポーザルを実施する場合に注意することですが、コンペとは違い企画書に添付される設計案は提案のひとつであり、その案を選定しているのではありません。評価対象はあくまでも設計者であるということです。

    そして、プロポーザル方式は目的ではありません。木造公共施設を設計できる優良設計事務所を選ぶための手段であります。その点は注意してほしいことのひとつです。

    また、なかには“プロポーザル慣れ”をしていてプロポーザル対策に時間をかけて挑戦してくる方もいます。そのような中で、対策重視の会社なのか、対策が今後の設計業務に反映できる会社なのかを見抜いてほしいです。

    杉戸町ではプロポーザルを実施するにあたり、記名参加方式の建設予定地の公開や木造公共施設をテーマにしたプロポーザル講演会を実施しました。このようなことを実施するだけでもプロポーザルに参加している設計者の今回の事業に対する熱意や意欲を感じ取ることができます

    建設予定地公開周知文(左)とプロポーザル講演会の様子(右)
    建設予定地公開周知文(左)とプロポーザル講演会の様子(右)

    ところで、公共施設の木造化に取り組んでいる多くの自治体では、建築技術系の職員が在籍している営繕や施設管理の部署よりも農林関係の課が中心になっているケースが多数です。「木材の利用促進」を目的にしているからで、山林を多く抱えている山間部の市町村ほど積極的に取り組んでいます。

    しかし、杉戸町の場合は山間部でもなく、大規模な製材工場などもありません。林業がないため林業管轄の部署もありません(森林環境税は農業振興課が管轄)。それでも環境に良い構法である点を考慮して公共施設木造化を積極的に推進しています。これは、庁内調整や設計発注でさまざまな取り組みや工夫をすれば、林業という地場産業がない自治体であっても公共施設の木造化を積極推進できることを示唆しているように思います。

    (続く)

    自治体通信への取材のご依頼はこちら

    本連載「従来工法より低コスト~杉戸町の『公共施設木造化』実践ノウハウ」のバックナンバー
    第1回:林業なき“まち”が証明した「公共木造は低コスト」
    第2回:低価格な「“国産”一般流通材」を使うコツ~前編
    第3回:低価格な「“国産”一般流通材」を使うコツ~後編
    第4回:全体の7割を越える「木構造部分」以外のコストカット法

    渡辺 景己(わたなべ かげき)さんのプロフィール

    前橋工科大学建築学科卒。鶴ヶ島市(埼玉)職員を経て、前橋工科大学に入学し建築を学び、杉戸町(同)の職員に。現在、建築課主幹。一級建築士、一級管工事施工管理技士、第二種電気工事士など建築系の幅広い資格を取得。木造については設計・施工ともに経験があり、埼玉県木造建築技術アドバイザーとして他自治体への講師も務める。

    <連絡先>
    電話: 0480-33-1111 (杉戸町役場)

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