「実体を伝えることがイメージアップに」川崎市シティプロモーション推進室の戦略

【自治体通信Online 寄稿連載】成功するシティプロモーション、失敗するシティプロモーション④(関東学院大学准教授・牧瀬 稔)
2015年3月に「シティプロモーション戦略プラン」を策定し、さまざまな施策や取り組みを進めている「川崎市シティプロモーション推進室」の戦略について、同推進室の柴山巌室長と両角美香さんに取材しました。シティプロモーションやシビックプライドのターゲットでもある “若者世代”の視点で検証するため、本連載の執筆者である関東学院大学法学部の牧瀬稔准教授のゼミ生である旭流星さん(法学部法学科3年)、高橋夏美さん(法学部地域創生学科3年)、寺山達規さん(同3年)、内田沙羅さん(同2年)、草彅未丸さん(同2年)の5名が聞き、牧瀬准教授が監修しました。
【目次】
■ 川崎市流シティプロモーションとは
■ “スタッフプライド”
■ 民間企業と協働して盛り上げる
■ まちへの愛着を高めたい
川崎市流シティプロモーションとは
―川崎市の考えるシティプロモーションとは何ですか?
通常、地方自治体のシティプロモーションの目的は人口増加、定住促進などが挙げられますが、川崎市の考えるシティプロモーションは、川崎市のもつさまざまな魅力を発信し、良好なイメージ形成に繋げることです。川崎市に対してのマイナスイメージを改善し、今の実体に合った良好なイメージを持ってもらうことが目的です。
―川崎市のシティプロモーション取り組みを教えてください。
川崎市は人口増加が続いており、人口減少社会の中、他都市と比べて人口増加の点では「勝ち組」であると言えます。そういうことから、川崎市では自由度が高いプロモーションに取り組んでいます。
また、他の都市と比べるのではなく、川崎市の先進性や、都市部にありながら住みやすい環境などのポテンシャルをみせるプロモーションをしています。

“スタッフプライド”
―シティプロモーションの効果って何でしょうか?
平成30年度に行われた川崎市の市内、市外に対しての都市イメージ調査では、前年よりも概ねイメージアップに繋げることができています。一方、シビックプライドである愛着や誇りは微減しています。
川崎市は、シビックプライドを向上させる取り組みのひとつとして、ブランドメッセージの周知を行っています。地道なキャンペーンの結果、認知度は66.1%と非常に高いです。ブランドメッセージロゴの赤、緑、青は光の三原色となっており、他の色に変えることも許容し、多様性や可能性を表しています(下左写真参照)。
ブランドメッセージの活用やプロモーションをPRだけではなく、市民を巻き込んだイベントなどでの活動も含まれると解して、さまざまな策を打っていきたいと考えています。
―シティプロモーションを行う上で重要なことって何でしょうか。
PRというのは、実体がしっかりとしていなければならないと考えています。ですから、川崎市のシティプロモーションでは、「優れた環境施策と研究開発機関が多い先進都市」という市のポテンシャル(実体)を伝えることが重要だと考えています(下右写真およびコラム参照)。
誇大宣伝や実体とは異なるPRをしてしまうと、市民等からの信頼を得ることはできず、シビックプライドの向上は見込めません。
また、PRをする職員も愛着や誇りがなければ、まちの良さを市民に伝えることは難しいです。そのため職員の“スタッフプライド”をさらに高める必要があると考えています。

KING SKYFRONTは川崎市に数多く立地する研究機関のひとつで、国家戦略特区、国際戦略総合特区、特定都市再生緊急整備地域に指定されている「最先端の研究機関が集まっている場所」。約40haに及ぶエリアでは健康、医療、福祉、環境などの社会課題解決を目指した研究開発が進められている。現在、国や東京都など関係機関と連携、協力を図りながら、KING SKYFRONTと羽田空港跡地地区をつなぐ羽田連絡道路(仮称)が2020年までの完成を目指して建設されており、完成後は一体的な成長戦略拠点の形成を支えるインフラとして期待されている。また、多摩川両岸を結ぶ首都圏の広域的なネットワークを担う国道357号多摩川トンネルの取り組みも推進されている。
民間企業と協働して盛り上げる
―シティプロモーションを行うにあたり、参考にした自治体や企業はありますか。
特にこれっていうものはありませんが、他都市手法については、日々確認はしています。
川崎市の独自性のある最近の特筆すべき取り組みのひとつとして、等々力陸上競技場をロッテのアイス「爽」のCM撮影ロケ地として提供したことがあります。「全力で爽ハッピー」をコンセプトに広瀬すずさんを部長とし、川崎市出身のスリーピースロックバンドSHISHAMOや公募で集めた10代の若者1000人が部員として参加しました。
企業と協働する事により、川崎市は広告費はかけずに市のPRができます。さらに、たくさんの若者が川崎の地で思い出をつくり、川崎に対して良いイメージを持ってもらえたはず。それも何よりのプロモーションになったと思います。
―シティプロモーションのメリット、デメリットは何ですか。
メリットとしては、既に紹介した目標を達成することに加え、優れた技術や能力を持つ企業誘致などにも繋がるものと考えます。
デメリットは、特にないと思います。前述しましたが、注意すべきことは実体にあったPRが大切です。近年の自治体PRに関する“炎上対策”も真摯に考えなければいけないと思っています。シティプロモーションの取り組みが、当該自治体の炎上や批判につながっては何もならないと考えます。
まちへの愛着を高めたい
―シティプロモーションにおける学生の重要度はどの程度ありますか。
川崎市内には、明治大学、専修大学、日本女子大学、和光大学などのキャンパスがあり、慶応義塾大学もタウンキャンパスを新川崎と殿町の2ヵ所に設置しています。多くの学生にも住んでいただいており、大学を卒業した後も川崎に住み続けてもらえるような学生に向けたPRも重要だと考えています。
自治体へ与える好影響も考慮し、川崎市では大学連携施策にも力を入れています。人口減少社会において、学生など若い世代をどう囲い込むかは、各自治体にとって最重要施策のひとつです。
―学生の立場でもシティプロモーションにかかわれますか。
できます。例えば、地域産物を取り上げるなど、地域に着目にした研究活動を行ってくれたらうれしいですね。個別にSNSで地域の魅力などを発信することも立派なシティプロモーションです。
ただし、学生自身もまちへの愛着が高くないと、シティプロモーションを本気で行うことは難しいと思います。ですから、地域住民のシビックブライドを高めることも、シティプロモーションには大きく繋がって行くと思います。
―シティプロモーションのやりがいについて教えてください。
やりがいは大いにあります。みなさんの持つイメージと実体とのギャップをなんとか埋めたいです。
環境や研究開発など、川崎市は先進都市で、東京に隣接した都市でありながら緑も多く、住みやすいまちだと自負しています。各部署やメディアなどとのやりとりは日々刺激があるし、熱い気持ちでやっています。

インタビュー後記
川崎市シティプロモーション推進室の皆様、ありがとうございました。川崎市のシティプロモーションを通じて、私たち牧瀬ゼミ生が得られた知見は次の5点です。
①まちの実態に合わせたシティプロモーションが必要。身の丈にあったシティプロモーションの展開が成功の秘訣。
②シティプロモーションの推進は、実はシビックプライドの向上に繋がるとは限らない。分けて考えることが大切。
③オウンドメディアだけに依存するのではなく(オウンドメディアに過度の期待をするのではなく)、具体的な外部との「協働」が重要。
④市民にリアルに体験してもらうことが、シビックプライドの向上に繋がる。
⑤職員はスタッフプライド、学生はシビックプライドがなければ、シティプロモーションを成功に軌道に乗せることは難しい。 ※それぞれの「学生の視点」はコチラ。
本連載のバックナンバー
第1回 「負の連鎖」がシティプロモーションを失敗させる
第2回 成功しないシティプロモーションの共通項
第3回 「基本」を押さえれば成果は出てくる

牧瀬 稔(まきせ みのる)さんのプロフィール
法政大学大学院人間社会研究科博士課程修了。民間シンクタンク、横須賀市都市政策研究所(横須賀市役所)、公益財団法人 日本都市センター研究室(総務省外郭団体)、一般財団法人 地域開発研究所(国土交通省外郭団体)を経て、2017年4月より関東学院大学法学部地域創生学科准教授。現在、社会情報大学院大学特任教授、東京大学高齢社会研究機構客員研究員、沖縄大学地域研究所特別研究員等を兼ねる。
北上市、中野市、日光市、戸田市、春日部市、東大和市、新宿区、東大阪市、西条市などの政策アドバイザー、厚木市自治基本条例推進委員会委員(会長)、相模原市緑区区民会議委員(会長)、厚生労働省「地域包括マッチング事業」委員会委員、スポーツ庁参事官付技術審査委員会技術審査専門員などを歴任。
「シティプロモーションとシビックプライド事業の実践」(東京法令出版)、「共感される政策をデザインする」(同)、「地域創生を成功させた20の方法」(秀和システム)など、自治体関連の著書多数。
牧瀬稔研究室 https://makise.biz/
学生の視点





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