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役所? 首長? 住民?「自治体の経営者」は誰だ《前編》

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【自治体通信Online 寄稿記事】
我らはまちのエバンジェリスト #2(福岡市 職員・今村 寛)

“これからの公務員の流儀”を自治体財政のプロで「対話」のスペシャリスト、福岡市職員の今村 寛さん(教育委員会 総務部長)が探る本連載。今回と次回の2回にわけて、自治体運営の本質である財政の問題が住民に理解されにくい原因と対策を考えます。皆さんは財政のことをどのくらい市民に語ることができますか?

会計年度独立の原則

自治体運営のことを市民に知ってもらい、理解してもらい、共感してもらい、自治体と市民との「対話」の橋を架ける“まちのエバンジェリスト(伝道師)”を目指しましょう、と前回書きました。
(参照:その道のプロとして)

よりよい自治体運営のためには、市民の行政運営リテラシー向上を図ることもまた私たち公務員の職務、職責であり、そのために自治体職員は、自治体運営の「なかの人」としてそのイロハを理解し、市民がわかる言葉で語ることができなければいけません。

では、例えば「財政」のことを、皆さん、どのくらい市民に語ることができますか?

地方自治法第208条第2項には「各会計年度における歳出は、その年度の歳入をもつてこれに充てなければならない。」とあり、原則としてある年度に必要な支出の財源は、同じ年度内の収入で賄うことになっていいます。

これを「会計年度独立の原則」と呼ぶのですが、自治体職員の多くはこの原則を単に「年度をまたがって予算執行することができない」という決まり事と理解していることでしょう。

しかし、なぜこのようなルールがあり、それを守らないといけないのでしょうか。

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年度内牧場の牛が増えても次年度牧場には行けない…

憲法に定める「財政民主主義」

会計年度独立の原則は、憲法第83条から第86条に定める「財政民主主義」の思想を具現化したものだと私は捉えています。

財政民主主義とは、国家が財政活動(支出や課税)を行う際は、国民の代表で構成される国会での議決が必要であるという考え方で、これに基づいて、国及び地方自治体は単年度予算主義を採用し、年度ごとに国民、市民から徴収する税金の額とその使途を国民、市民の代表に問いかけ、賛同を得ています。

債務負担行為や繰越など、年度を超えて支出することをあらかじめ決定することが例外とされているのは、将来の国民、市民の持つ予算編成権に対する越権、侵害行為となるからであり、将来にわたって負債を負う「借金」の使途が限定的なこともこの考えに基づいているのです。

私たちには、現在の自分たちへの行政サービスのために過去の資産を食いつぶす権利も、将来の市民が収める税金を先食いする権利もありません。

私たちは原則として、年度の収入で賄えないほどの臨時的なものを除いて、現在の自分たちが収める税金の範囲でしか行政サービスを受けられない、それが「財政民主主義」に基づく「会計年度独立の原則」なのです。

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「財政民主主義」のイメージ

借金していいのはどんなとき

このため、自治体の財政運営においては、黒字の確保ではなく収支の均衡が至上命題なのですが、そのことはあまり知られていません。

民間企業は単年度で赤字になってもすぐには倒産しませんが、それは年度で赤字になったとしても、資金ショートが起こらないように“つなぎの融資”を受けることができるからです。

ところが自治体は、赤字を埋める借金ができません。

国は、必要な支出の額に対して収入が足りないとき、収入と支出のギャップを埋めるために「赤字国債」を発行することができますが、地方自治体では赤字を埋めるための借金は認められていません。

例外的に、地方自治体は原則として、道路や公園、学校などの社会資本整備のために借金をすることができます。

これは、将来にわたって長く使い続ける社会資本の整備費用について、整備を行う時期の市民だけで負担するのではなく、その社会資本の便益を受ける将来の市民にも負担することで世代間の公平を図る、との考え方によるものです。

地方自治体の借金は、将来の市民が使う社会資本をあらかじめ整備する投資。整備するお金が貯まるまで待っていては、それまで不便な状態が続き、まちの成長を阻害することになります。将来を見越して、住みやすいまち、働きやすいまちを創るために借金をすることは決して悪いことではありません。

大事なのは将来の市民に遺す資産とそれによって負うことになる負担のそれぞれが、本当に将来の市民が望むものか、その負担を受け入れることができるものか、そしてきちんと負担できる額か、が重要なのです。

(「役所? 首長? 住民?『自治体の経営者』は誰だ《後編》」に続く)

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今村 寛(いまむら ひろし)さんのプロフィール

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福岡市 教育委員会 総務部長
1991年福岡市役所入庁。2012年より福岡市職員有志による『「明日晴れるかな」福岡市のこれからを考えるオフサイトミーティング』を主宰し、約9年間で200回以上開催。職場や立場を離れた自由な対話の場づくりを進めている。
また、2012年から4年間務めた財政調整課長の経験を元に、地方自治体の財政運営について自治体職員や市民向けに語る「出張財政出前講座」を出講。「ビルド&スクラップ型財政の伝道師」として全国を飛び回る。
好きなものは妻とハワイと美味しいもの。2021年より現職。
著書に『自治体の“台所”事情~“財政が厳しい”ってどういうこと?』(ぎょうせい)、『「対話」で変える公務員の仕事~自治体職員の「対話力」が未来を拓く』(公職研)がある。財政担当者としての経験をもとに役所や公務員について情報発信するnote「自治体財政よもやま話」を更新中。