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多極化時代の「国土の新拠点」となり「成長と分配の好循環」を実現する

北陸新幹線延伸で好機到来の福井県が描く長期ビジョン

多極化時代の「国土の新拠点」となり「成長と分配の好循環」を実現する

福井県知事 杉本 達治

※下記は自治体通信 Vol.40(2022年7月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。


これまで、住民の幸福度や子どもの学力、共働き率といった各種調査で全国トップクラスに位置してきた福井県。令和6年春の北陸新幹線の敦賀延伸まで2年を切った今、これを「100年に一度のチャンス」ととらえ、産業の高付加価値化や暮らしの質向上に力を入れている。中央と地方との新たな関係を模索しながら、「国土の新拠点」を目指して独自の存在感を発揮しようと挑戦する同県の取り組みについて、知事の杉本氏に話を聞いた。

北陸新幹線の延伸で、福井県は「国土の新拠点」に

―福井県は今、北陸新幹線の延伸で盛り上がりを見せていますね。

 福井県の活性化を促進するうえで、まさに「100年に一度のチャンス」だと受け止めています。この北陸新幹線の延伸を起爆剤とし、福井県に人や企業を呼び込み、都市と地方とのあいだで好循環をつくり出していくことは、コロナ収束後の福井県にとって最重要課題のひとつと位置づけています。

 もっとも、この北陸新幹線の延伸は、福井県だけではなく、将来における日本全体の国土計画を考えるうえでも、非常に重要な役割を果たす事業だと考えています。

―それはどういうことでしょう。

 今回のコロナ禍によって浮き彫りになったのは、特定の都市に人やモノを集めることのリスクだと私は思っています。そのリスクは、将来必ず発生すると言われている巨大地震を想定した場合においても同様で、今回のコロナ禍は大きな気づきになったと感じるのです。コロナ対応によって「新しい生活様式」や「オンラインによる働き方」が定着し始めたことは、人々が多極化や分散型国家を志向するきっかけにもなっています。北陸新幹線の延伸も、そうした価値観の転換に大きな役割を果たす事業と言えます。北陸新幹線が大阪まで全線開通すれば、東海道新幹線に加え、東京-大阪間のもう1つの大動脈が生まれるのです。まさに多極化、分散化を実現する重要な交通インフラとなり、福井県はそこで「国土の新拠点」としての役割を果たす必要があります。

国が目指す女性活躍社会が、いち早く実現されている県

―そうした時代に、福井県はどのような姿を目指すのですか。

 政府が新しい資本主義として、「成長と分配の好循環」を掲げているように、大都市圏と福井県とのあいだで人や経済が好循環を生み出していく姿を目指しています。北陸新幹線のほか、道路、港湾などの高速交通・物流ネットワークの整備は、その重要な条件になります。

 また、経済的な基盤づくりとして、安価な土地や労働力を目的にした従来の企業進出とは一線を画した、新しい産業の誘致・育成に力を入れています。それを我々は、「『ものづくり』から『価値づくり』への転換」と表現しています。福井県は、子どもの体力や学力の測定でいずれも全国トップクラスに位置しています。こうした人材力を活かして、新たな価値を生み出せる産業を育てることで、優秀な人材をさらに引き寄せ、大都市圏との格差を解消しながら、経済の好循環を生み出すことを目指しています。

―もともと、福井県には人材を引き寄せる魅力が多くありますね。

 ええ。「幸福度日本一*1」の県とされているのは象徴的ですね。たとえば、合計特殊出生率や女性の就業率の高さはいずれも全国トップクラスで、国が目指す女性活躍社会がいち早く実現されている県でもあります。その背景には、県の充実した子育て支援策があると指摘されますが、令和4年度にはこの子育て支援予算をさらに倍増させました。日本一幸福な子育て県「ふく育県」宣言を打ち出し、保育料無償化の拡大を進めるなど、全国のモデルになる子育て先進県を目指しています。こうしたモデルを全国に発信し、広げていくことも、多極化の時代の福井の重要な役割だと認識しています。

「県民主役」の方針を支える、2つの方法論

―これらの政策推進のうえで、大切にしていることはありますか。

 「県民主役」を県政運営のもっとも重要な方針に掲げています。それを体現する試みとして、私は就任後すぐに県民のみなさんとともに2040年の福井の目指す姿を描く「福井県長期ビジョン」を策定しています。その議論においては5,000人を超える県民のみなさんに参加していただきました。このビジョンは、現在の福井県の各種政策の指針になっています。

 また、これらのビジョンを実現していく2つの方法論として、「徹底現場主義」と「チームふくい」を実践しています。

―「徹底現場主義」とは、具体的にどのようなものでしょう。

 課題も解決のヒントもすべては現場にあるとの信念のもと、徹底的に現場にこだわり、対話を通じて県民の声を聴き、政策に反映させる姿勢を県庁全体で貫いています。この姿勢を職員一人ひとりがつねに意識できるよう、私が就任後最初に着手したのが「職員クレド」の策定でした。若手職員を中心に議論を重ね、まとめられた5つの行動規範から成っています(下図参照)。このクレドに基づき、現場にいる職員が自主性とオリジナリティをもって仕事にあたれるよう、予算措置の面でも新しい試みを実施しています。

―どういった試みですか。

 「政策トライアル枠予算」という実験的な予算措置で、年度の途中からでも各部局の判断で新たな施策を試行できるよう、全体として1億円を計上しています。従来の行政の欠点は動きの遅さにあり、課題が見つかっても、1年目で計画立案、2年目はモデル事業の実施、3年目に本格実施と解決に動き出すまでに数年を要する例も珍しくありません。いちいち上司の指示を待つのではなく、現場感覚を養った職員が主体的に行動を起こせる文化を育てるための仕組みです。

 このクレドにもあるとおり、現場で課題解決するうえで、「協働」の仕掛けは欠かせません。県民はもとより、市町や地域、民間企業やNPOといった多くの主体を巻き込むことが必要になります。それが、もうひとつの方法論である「チームふくい」を重視しているゆえんです。

絶好のタイミングで到来した、「100年に一度のチャンス」

―今後の県政ビジョンを聞かせてください。

 福井県はとても小さな県ですが、県民は勤勉でまじめ、地域のまとまりがあり、みんなが力を合わせて事にあたる性質から、まるで日本の縮図のような地域だと感じています。一方で、新しい夢やチャレンジを必要としている面もあります。先人たちが築いてきた福井の良さを未来につなぎながら、多くの人や活力を外から呼び込める開かれた社会を築いていかなければなりません。その意味では、この絶好のタイミングで到来した「100年に一度のチャンス」に、大きな可能性を感じています。

杉本 達治 (すぎもと たつじ) プロフィール
昭和37年、岐阜県生まれ。昭和61年、東京大学法学部を卒業し、自治省(現:総務省)に入省。総務大臣秘書官、自治行政局行政課企画官、内閣参事官(内閣官房副長官補付)、自治税務局市町村税課長などを歴任し、平成25年7月に福井県副知事に就任。その後、総務省消防庁国民保護・防災部長、総務省公務員部長を経て、平成30年11月に退官。平成31年4月、福井県知事に就任。現在、1期目。

*1:※幸福度日本一 : 「全47都道府県幸福度ランキング 2020年度版」( 一般財団法人日本総合研究所調べ)において、4回連続で日本一を獲得