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シビックプライドの醸成が、持続可能な行政運営の基盤になります

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社会課題解決に向けた最先端研究を市民参加型で推進

シビックプライドの醸成が、持続可能な行政運営の基盤になります

泉大津市長 南出 賢一

※下記は自治体通信 Vol.30(2021年6月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。


「都市に対する市民の誇り」と定義される「シビックプライド」。自治体にとっては、地方創生や地域ブランドの創出につながるキーワードとして、近年注目が高まっている概念だ。そのシビックプライドの醸成を、「アビリティタウン構想」という独自の取り組みを通じて進めているのが泉大津市(大阪府)。市長の南出氏に、その取り組み内容や、シビックプライドに対する考え方などについて聞いた。

「健康」「環境」「教育」で、最先端の研究を行うまちに

―泉大津市が掲げている「アビリティタウン構想」とは、どういった取り組みですか。

 持続可能な社会をつくっていくうえで欠かせない、「健康」「環境」「教育」の3分野において最先端の研究を行い、得られた成果を先進事例として全国へ発信していくまちづくり構想です。メインの取り組みとして、人や自然が本来もっている能力(アビリティ)を、最大限引き出すための研究を行います。平成29年に閉館した約4haの市民会館等跡地にその拠点となる施設を整備中で、供用開始は令和5年度を予定しています。私はこの構想を組み立てるなかで、専門知識をもったエキスパートたちの研究だけでなく、市民にも積極的にかかわってもらう「市民参加型」とすることにこだわりました。

―なぜ「市民参加型」にこだわったのですか。

 市民に「自分たちはこのまちづくり構想に、積極的にかかわっている」という実感をつかんでほしいと考えたからです。これはすなわち「シビックプライド」の醸成につながります。私はこのシビックプライドの醸成こそが、今後の行政運営でもっとも重要なキーワードになると考えているのです。

 日本の少子高齢化の流れを見た場合、泉大津市が今後、人口増加に転じることはかなり難しいでしょう。そのなかで、財政状況がますます苦しくなっても行政運営を持続可能なものにしていくには、市民一人ひとりの「行政参加」がどうしても必要になります。どんなに些細なことでもいいのです。「道のごみを1つ拾う」でもいい。市民のそういった「1歩」を促すのが、シビックプライドです。

小規模地方都市だが、地元への誇りを持ってほしい

―市民に地域づくりへの参画意識を持ってもらいたいと。

 そのとおりです。本市は、人口約7万4,000人の小規模地方都市です。特別知名度が高いわけでもなく、ほかの自治体と同じように、多くの若い世代が大学入学や就職をきっかけに、大都市圏へと移動してしまいます。それでも、「アビリティタウン構想という独自の取り組みをしている泉大津」「最先端の研究を行っている泉大津」という地元への誇りを、心のどこかに持ってもらいたいのです。

―「アビリティタウン構想」で、シビックプライドはどのように醸成されるのでしょう。

 この構想では、アビリティ増進に取り組む関連事業者を誘致し、大学や研究機関との連携を進めていきます。そのなかで、多岐にわたる社会課題の解決モデルを生み出す「リビングラボ*1」を構築します。ここを、たとえば健康増進や機能回復に効果があるとされながらも、科学的な効果検証にいたっていないサービスや商品を集め、実証事業を行う場にします。この取り組みに「自ら参画した」という経験は、シビックプライド醸成のきっかけになると考えています。

コロナ禍で市民が感じた誇り

―どのような内容の実証事業が行われますか。

 たとえば、3年ほど前から先行事例として市主導で進めている「あしゆびプロジェクト」があります。大学や医療機関と連携して考案した足指体操のプログラムで、足指の鍛錬で体幹を安定させ、「生涯寝たきりにならない、健康な体づくり」を目指すものです。市内の公立幼稚園や保育所、介護予防の自主サークルに実証事業で参加してもらっています。「現代の子どもの8割が足部に何らかの異常がある」という調査報告があり、この体操は、全国に発信できる可能性を秘めた「泉大津市発」の取り組みになると期待しています。

―全国に発信できれば、市民の大きな誇りにつながりますね。

 そう思います。本市は、国産毛布の90%以上を生産する「繊維のまち」です。コロナ禍でマスク不足が社会問題となっていたころ、いちはやく地元商工会議所と連携し、「泉大津市マスクプロジェクト」を立ち上げました。それまでマスクの生産実績がなかったなか、縫製技術や製造工場といったインフラを活用し、数週間で大量のマスクを生産できたのです。当時、「ものづくりの技術が結集した価値」としてマスコミにも取り上げられ、泉大津市の名前が知られるように。この経験を多くの市民が誇りに感じてくれたようです。そういった誇りを市民にもっと感じてもらえるようにするのが、「アビリティタウン構想」の狙いなのです。

気概を持った職員とともに、プロジェクトを成功させる

―「アビリティタウン構想」を推進するうえで、心がけていることはなんでしょう。

 私たち行政が強いリーダーシップを発揮し、市民参画の場をどんどん設けていくことです。そのために、4年後の大阪・関西万博に向けて推進される「TEAM EXPO 2025」に、自治体で唯一「共創パートナー」の認定を受けました。これは、「理想としたい未来社会を共に創り上げること」を目指す取り組みです。「共創パートナー」となることで、さまざまな実証事業ができる場としての「アビリティタウン構想」を全国に向けて紹介するきっかけをつかみたいと考えており、そのために今後、多くの参加事業者を募っていきます。

 この取り組みを成功させるには、市職員の活躍も欠かせません。本市は、人口が同規模の自治体とくらべて職員数が3割ほど少ないのです。ひとりの職員に多くの業務負担がかかっているなかでも、「アビリティタウン構想」という壮大なプロジェクトに着手するため、ICTを活用した業務効率化にも積極的に取り組んでくれています。気概を持った頼もしい職員となら、このプロジェクトは必ず成功できると確信しています。

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―今後の行政運営の方針を聞かせてください。

 「1人の100歩より、100人の1歩」の精神を大事にした行政運営を行っていきます。私の好きな言葉に「一燈照隅、万燈照国(いっとうしょうぐう、ばんとうしょうこく)」という言葉がありますが、最初は一隅を照らす小さな灯火でも、それが1万、10万、100万と増えれば、国中を明るく照らせるという意味です。この精神を大切に、多くのシビックプライドを持った市民と力を合わせ、「オール泉大津」で全国に誇れるまちにしていきます。

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南出 賢一 (みなみで けんいち) プロフィール
昭和54年、大阪府泉大津市生まれ。平成14年、関西学院大学商学部を卒業後、同年、株式会社ニチロ(現:マルハニチロ株式会社)へ入社。平成19年、泉大津市議会議員に初当選し、平成25年には泉大津市議会副議長に就任。平成28年、泉大津市長に初当選し、現在2期目。

*1:※リビングラボ:生活空間を研究開発の場に見立て、新しい社会的価値を生み出す市民参加型の共創活動