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市民はステークホルダー。だからこそできないことは「NO」とはっきりいいます

市民はステークホルダー。だからこそできないことは「NO」とはっきりいいます

千葉県千葉市 の取り組み

千葉市で戦後初となる民間出身の首長が取り組む行政の姿

市民はステークホルダー。だからこそできないことは「NO」とはっきりいいます

千葉市長 熊谷 俊人

平成21年、31歳4ヵ月で現役としては全国最年少(当時)、政令市長としては史上最年少で千葉市長となった熊谷氏。同市としては戦後初の民間出身首長としても注目を集めた。以降、「稼ぐ」ための施策やTwitterを活用した情報発信など、独自の取り組みを進めている。同氏に、そうした取り組みの詳細を聞いた。

※下記は自治体通信 Vol.11(2018年2月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

民間投資で補うことで施設の利活用を推進

―「自治体は稼ぐ必要がある」という考えにもとづいた、千葉市独自の取り組みを教えてください。

 わかりやすいのは、千葉ロッテマリーンズの本拠地である『千葉マリンスタジアム』のネーミングライツの事例ですが、近年は公園の利活用を進めています。

 たとえば、合宿施設と市内初のオートキャンプ場、多目的広場などで構成された『昭和の森フォレストビレッジ』。もともと昭和の森という大規模な公園内に、市営のユースホステルがあったんです。ただ、いまの時代にユースホステルの運営は難しい。「なくそうか」という話も出ましたが、取り壊すだけでもお金がかかる。そこで開発・運営を委託する事業者を募ったところ、宿泊施設のリノベーションを手がける事業者が手をあげてくれて。平成26年にオープンし、いまでは合宿目的で首都圏から多くの人を呼び込む施設に。年間4000万円かかっていた指定管理委託料が不要になるほか、年間315万円の使用料も入るようになりました。

 また、『稲毛海浜公園』の取り組みも印象的です。

―どんな取り組みですか。

 その公園には砂浜があるんですが、千葉市に砂浜があることはあまり市外の人に知られていませんでした。なぜなら分厚い木々に森のように囲まれているので、市街地から砂浜が見えなかったんです。これを活用しようと、第一弾として公園区域の一部を使って施設の整備と運営を行う事業者を公募。そして平成28年、結婚式もできるホール場やレストランなどが併設する複合施設『ザ・サーフ オーシャンテラス』がオープンしました。大変好評で、いまだに昼の時間は予約でいっぱいだそうです。

 そこで今後は、稲毛海浜公園全体を民間とのコラボでリニューアルすることになり、最近になって事業者も決まりました。温浴施設などを備えた、都市型ビーチリゾートが完成する予定です。これにより今後20年間で約38億円の指定管理委託料がなくなるほか、約10億円の使用料が入るので計約48億円の財政効果が見こめます。

 また平成30年3月には、『泉自然公園』内でアスレチック型アトラクションが誕生する予定。これも民間企業との取り組みです。

独占しているからこそ活用しているかの見極めを

―なぜそのような取り組みに注力しているのでしょうか。

 大前提として、財政再建が目的というのがあります。そのうえでよくよく考えると、行政はある種独占ビジネスなんですね。先ほどのような公園など、行政でしかもちえない施設が市内に山ほどある。独占しているからこそ、有効活用できているかをしっかり確認したほうがいいと。

 もちろん、行政が担当したほうがいい領域はたくさんありますが、そうではないものもある。そういうところは「稼ぐ」という要素を取り入れつつ、民間投資で補う。そして、行政にしかできない領域にリソースを傾斜配分したほうがいいと考えているのです。

―ほかに取り組んでいるものはありますか。

 今度、『千葉競輪場』も民間投資によって、250mで競輪が行われる屋内多目的アリーナに生まれ変わります。独占という観点では、施設だけでなく法令系もいわば独占。そのため、国家戦略特区によるドローンの活用など、規制緩和の取り組みも行っています。『レッドブル・エアレース』のような、日本では誰もできると思っていなかったイベントもチャレンジして招致しました。

 安全面や適切かどうかなどを行政としてしっかり判断しつつ、全国でも話のわかる自治体として浸透させる。そうしていろんな民間案件をもちこんでもらい、選りすぐりの案件を選んで、市民に還元する。それが大きな戦略です。

SNSを通じて納得感をもってもらう

―熊谷さんはTwitterなどSNSを積極的に活用しています。その意図はなんでしょう。

 市民に納得感をもってもらうことです。いま国民の多くは「望んでいないのに税金を取られて、ブラックボックスのなかで使われている」といったイメージをもっていると思うんです。そのため、われわれが税金をどういう考えのもとで使っているのかをきちんと示していく必要があると考えているのです。もちろん市民との対話も行っていますが、SNSのほうがより広範囲に伝わりますから。

―実際に理解をえられた事例があれば教えてください。

 子ども向け医療費の助成拡大を行った事例があります。以前の千葉市は、小学校3年生まで一律300円が自己負担でした。この事実だけをとらえるとTwitter上で「なぜゼロにしてくれないんだ」という意見も出てくるわけです。そこで「300円を無料化すると年間3億円以上かかるんです」とツイートすると、初めてお金の流れを理解してもらうことができました。さらに、「自己負担額300円のまま、もしその3億円を使うとしたら助成対象を小学6年生にまで引き上げられる」と伝えると、多くの人が「そのほうがいい」と。

 さらにもっと踏みこんで「自己負担額を500円にすると、中学3年生まで引き上げられる」と伝えると、「自己負担額をゼロにしてくれ」といってた人が「自己負担額を上げてくれ」という意見に変わったんです。その後、実際に大規模なアンケートを実施。みなさんの意見を聞いた結果、いまの千葉市は「自己負担額500円で中学3年生まで助成の対象」という制度で運営しています。

目の前の市民はもちろん未来の市民とも向きあう

―こうしたさまざまな取り組みを行っていくうえで重視していることはありますか。

 まずひとつは、未来視点をもつことですね。行政の仕事は結果が出るのにすごく時間がかかります。ですから、われわれは現在の市民に向けた仕事をするのは当然のこと、一方で「10年、20年後の市民に向けた仕事をしている」という感覚をもつべきだと思っています。そうすると、未来から逆算して現状をみつめることができ、なにをすべきで、なにをやめないといけないかが判断できますから。

 ふたつめは、市民を部外者にしないということです。Twitter事例のように、できるだけ市民に行政を自分ごととしてとらえてもらう。そうすることで、市民をステークホルダーに変えることが重要です。だからこそ私は市民の意見に対して、できないことは「NO」と理由を含めてはっきりいいます。そうすれば、より深い理解がえられますから。

熊谷 俊人(くまがい としひと)プロフィール

昭和53年生まれ、神戸市出身。平成13年に早稲田大学政治経済学部を卒業後、NTTコミュニケーションズ株式会社に入社。平成18年にNPO法人政策学校「一新塾」に第18期生として入塾。平成19年、千葉市議選に稲毛区から出馬しトップ当選を果たす。平成21年、31歳4ヵ月で現役としては全国最年少(当時)、政令市長としては史上最年少で千葉市長に就任。現在は3期目。

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