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「知名度ゼロ」だから新たな観光資源になる

    「知名度ゼロ」だから新たな観光資源になる

    【自治体通信Online 寄稿連載】小さな自治体の大胆インバウンド戦略②(みなかみ町職員・阿部 真行)

    取り組み開始から5年で台湾からのインバウンドが10倍増―。みなかみ町(群馬県)職員の阿部真行さんが実施した“インバウンド施策”の秘密を公開してもらう本連載の第2回は「台湾現地の旅行会社との協力体制をどのように構築したか」について。最初は“大きな壁”に跳ね返されたそうです。
     
    【目次】
    ■ 最初は“つれない反応”(泣)
    ■ ピンチをチャンスに変えた“逆転の発想”
    ■ 現地市場の“気質”を知る
    ■ 強みは「知られていない」こと!?
    ■ マーケットインの戦略が響く

    最初は“つれない反応”(泣)

    「草津温泉は知っているけど、群馬県は聞いたことがない」
    「伊香保温泉は聞いたことがあるけど、みなかみ町なんて知らない」

    2013年頃、台湾インバウンドを始めた当初の現地での多くの反応です。

    前回の連載で紹介させていただいたように、私は台湾との交流事業を推進するために台南へ渡り、そのうちの主要業務がみなかみ町へのインバウンド促進でした。
    (連載第1回「たった5年で台湾インバウンドを10倍超に増やした “前例のない方法」参照)

    町のPRをするために台南市政府(台湾の市政府は市役所に相当 ※編集部註)に紹介を頼んで現地の旅行会社訪問をしたこともあったのですが、冒頭のような反応が多く、また私の話を聞いてくれても実際のツアーに町を組み込んでもらえるところまではとても不可能といった感触でした。

    ピンチをチャンスに変えた“逆転の発想”

    しかし、途中で気づいたのですが、それらの訪問先は現地でも名前の通っている旅行会社、たとえて言うと日本のJTBや日本旅行といった所謂大手だったのです。

    台南市政府としては「日本からわざわざ来た阿部が観光PRをしたがっているのだから」と好意で有名な会社を紹介してくれていたのです。

    しかし、大きな会社であればある程、社内システムも複雑になり簡単に動きません。何より扱う顧客数も多いので、今まで聞いたことのないみなかみ町をコースに組み入れるリスクを取るはずがありません。   

    そこで今までのやり方とちょっと発想を変えて、「大会社ではなくて小規模会社、出来ればあまり景気のよくない会社」を探して接触を始めました。

    現地市場の“気質”を知る

    『小さな会社なら社長決断で動きも早いし、景気がよくない会社であれば知名度のない観光地に賭けてくれるだろう』。こんな漠然とした確信がありました。 

    ここら辺はみなかみ町が台南市と交流を開始した経緯に似ています(笑)。

    台湾の諺に「鶏口牛後」(Jīkǒu niú hòu=大きなものの末端ではなく、小さい中でも先頭にいる方が良いとの意味)がありますが、台湾人は日本人よりもその傾向が強く独立心が強いように感じます。

    働き方にもそれがよく表れており、ひとつの会社に長く勤めるよりは「自分が社長になった方がいい」と外に出て会社を興す人が多く、台湾ではどんな街にも小規模会社や店舗・屋台などが無数にあります。

    観光業も例に洩れず、190万人の台南市内に220社もの旅行会社が存在するのです。

    一番はじめに筆者(左)の話を聞いてくれた台南の旅行会社「欣隆旅行社」の施国隆社長(右)
    一番はじめに筆者(左)の話を聞いてくれた台南の旅行会社「欣隆旅行社」の施国隆社長(右)

    強みは「知られていない」こと!?

    当時はみなかみ町の位置と交通を説明するところから始まりましたが、いまでは「府城世家・群馬県水上町連盟」というみなかみ町のインバウンドに協力してくれるグループがつくられるまでになりました。ここの会員は、それぞれが小さな旅行会社の集まりです。

    規模が小さい会社の特徴は、その分動きが速いことです。競争力を持つために常に他社と違った独自の観光情報を探していて、大手が始めてからでは競争に勝てないので、多少リスクがあっても動いてくれます。

    また「特別」「限定」「創意」といった、他者とは違うものを好む台湾人の嗜好にもうまく合って、
    知名度ゼロのみなかみ町を「新たな観光資源」に変換できたのです。

    マーケットインの戦略が響く

    しかし、新しい観光資源とは言え、誰もみなかみ町を知らないのは変わらないのでそれでは売りにくい。そこでインパクトを持たせる為に考えたのが「東京から近い〇〇秘境」というフレーズです(後ほど説明しますが、〇〇にはその時々に合わせたフレーズが入ります)。

    「秘境」という言葉からは誰も行ったことのない場所という連想が出来るし、「東京から近い」ことは旅行社にとってコース造成がしやすいからです。

    このフレーズで旅行商品を販売したときには、実際に町関係者から「ウチの町は秘境ではない」と注意を受けたこともあります(^^;)。

    ご指摘の通りなのですが、マーケットインの発想で、とにかく台湾人に響く「特別感」を強調したかったのです。ありがたいことに、そうした真意について町の関係各位のみなさんからご理解をちょうだいすることができました。

    「新しいもの、特色があるものを好む」という台湾人のマインドに合わせたマーケットインの発想で町をPR(左はみなかみ町のゆるキャラ「おいでちゃん」、中央は群馬県のゆるキャラ「ぐんまちゃん」)
    「新しいもの、特色があるものを好む」という台湾人のマインドに合わせたマーケットインの発想で町をPR(左はみなかみ町のゆるキャラ「おいでちゃん」、中央は群馬県のゆるキャラ「ぐんまちゃん」)

    このように「東京から近い雪国秘境」「東京から近い温泉秘境」というフレーズを使い、小さい旅行会社と組んでみなかみ町ツアーを販売開始することが出来ました。台南で開催された旅行展では「離東京最近的雪国秘境群馬県水上町」(和訳:「東京から最も近い雪国秘境 群馬県みなかみ町」)というフレーズでPRし、大きな手応えをえることができました。

    (第3回「『儲けてもらう仕組み』をつくる」に続く)

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    本連載「小さな自治体の大胆インバウンド戦略」バックナンバー
    第1回 「たった5年で台湾インバウンドを10倍超に増やした “前例のない方法」

    阿部 真行(あべ まさゆき)さんのプロフィール

    大東文化大学外国語学部卒、高校講師などを経て、2005年からみなかみ町(群馬県)の職員に。2013年6月から台南市へ渡る。現地での役職は「みなかみ町台湾事務局長」。台南市政府の「台南市政府対日事務相談顧問」も務める。日台双方の国家資格などを取得し、インバウンドを主とした交流を推進中。現地大学でも講師を務める。著書に「台湾・台南そして安平!」(上毛新聞社)。

    <連絡先>
    電話: 0278-62-0401 (みなかみ町観光協会)

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