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戦略的思考で直面する2つの「歴史的な課題」に挑む

DXで超少子高齢社会を乗り切り、「日本一暮らしやすい埼玉」を実現へ

DXで超少子高齢社会を乗り切り、「日本一暮らしやすい埼玉」を実現へ

※下記は自治体通信 Vol.56(2024年3月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

令和3年に「埼玉県デジタルトランスフォーメーション推進計画」を策定した埼玉県。知事就任2期目を迎えた大野氏のもと、現在、県をあげての変革に挑戦している。同氏によると、この挑戦の背景には、「埼玉県が直面する歴史的な課題へいかに対応するかという問題意識がある」という。歴史的な課題とはなにか。そしていかなる対応を考えているのか。埼玉県における今後の県政ビジョンを含めて、同氏に聞いた。

インタビュー
大野 元裕
埼玉県知事
大野 元裕おおの もとひろ
昭和38年11月、埼玉県生まれ。平成元年に国際大学国際関係学修士課程(中東地域研究専攻)を修了後、国際大学中東研究所非常勤研究員、外務省日本大使館専門調査員、財団法人中東調査会研究員などを務める。民間企業勤務、東京大学教養学部非常勤講師、防衛省防衛戦略委員会委員などを経て、平成22年に参議院議員(埼玉選挙区)に初当選。2期務め、防衛大臣政務官兼内閣府大臣政務官などを歴任。令和元年8月、第61代埼玉県知事に就任。現在2期目。

埼玉県が直面する、2つの「歴史的な課題」

―令和5年8月から知事就任2期目に入りました。この間の県政運営の成果を振り返ってください。

 1期目の4年間を振り返れば、県政運営に対する私の基本姿勢を、職員との相互理解のなかで、ある程度庁内へ浸透させることができたと思っています。その基本姿勢とは、直面する社会課題に対して、中長期的な視点で戦略的目標を設定し、その下に短期的な戦術、つまり個々の施策を体系的に位置づけていくというものです。コロナ禍への対応の経験から、その戦略的目標を示すことは、トップとしてもっとも重要な役割のひとつだと、より一層認識を深めたところです。

 2期目のスタートにあたっては、埼玉県が現在直面している2つの「歴史的な課題」について職員らと認識を共有し、諸政策における戦略的目標を設定していきます。

―歴史的な課題とはなんですか。

 1つは、「超少子高齢社会への対応」です。大正9年に国勢調査が始まって以降、埼玉県は47都道府県の中で唯一、人口減少を一度も経験してこなかった県でした。それが、令和4年に総務省が発表した人口推計で初めて減少に転じたのです。同時に、75歳以上の高齢者人口が全国でもっとも速いスピードで増加する見込みです。私は「高齢化はいいこと」だと思っており、みなさんが笑顔で長生きしてくれることは、すばらしいことですから、それ自体を課題とする表現は使いたくありません。中長期的視点で、その社会を支える労働生産力をいかに確保するかが課題だということです。

 もう1つは、激甚化、頻発化する自然災害やパンデミックなどへの「危機管理対応」です。先日の能登半島地震や先般のコロナ禍をみても、いつ、どこで、どのような危機が発生するかわからないという現実が突きつけられています。県政における課題はほかにも数々ありますが、なかでもこの2つの歴史的な課題に対応すべく、中長期的な戦略的目標を立てています。

「労働生産性の向上」こそが、超少子高齢社会への対応策

―具体的にどのような戦略的目標を立てているのですか。

 「超少子高齢社会への対応」を例にとれば、ここで課題となるのは、生産年齢人口の減少によって社会インフラや住民サービスを維持するための経済規模が保てないことです。ただし、近年の研究では経済成長におよぼす影響度は、「生産年齢人口の増加」よりも「労働生産性の向上」のほうが大きいとされています。そうであるならば、「労働生産性の向上」こそが、当県にとっての戦略的目標になります。この労働生産性向上への具体的施策と位置づけているのが「DXの推進」です。さらに、官民を問わず県をあげて推進していく具体的な方策として、県ではDXの3つのステップを設定しています。

―それはどういうものでしょう。

 第1ステップは、既存の業務や情報をデジタル化し、効率化を図ることです。これを「デジタイゼーション」と呼んでいます。たとえば、紙に印刷されていた資料をデジタルに置き換え、ペーパーレス化を図るといったことです。第2ステップは「デジタライゼーション」と呼び、業務プロセスそのものをデジタル化し、さらなる効率化や新たなビジネスを創出することと定義しています。具体的には、業務の自動化やデータ連携などが想起されます。

 そして第3ステップにおいて、デジタル技術で経営資源やビジネスモデルを変革することで新しい価値を創出し、競争優位性を確立します。これを「デジタルトランスフォーメーション(DX)」と呼んでいます。

DXを率先して推進する県庁、約60%の紙削減を実現

―第3ステップに到達して初めて、DXと呼べるのですね。

 そのとおりです。当県では、第2ステップまでを「デジタル化」、第3ステップを「DX」と区別し、デジタル化はDXを実現するための手段と位置づけています。DXの段階では、デジタルを前提にすべての政策を考え、抜本的に業務プロセスやビジネスモデルを変革していくことが必要となります。それは企業のみならず行政も同様で、たとえば県庁を建て直すといった場合も、「果たして県庁所在地は必要なのか」といった発想を持ち、そのもとで戦略、戦術のブレークダウンを図っていきます。

 埼玉県庁ではDXを率先して推進しています。第1ステップに関していえば、この4年間で、地域機関も含めた県庁全体で約60%の紙削減を実現しています。先行部局に至っては削減率はじつに98.7%に達しています。現在は第2ステップに突入しており、部局間のデータ連携や自動化技術の活用を通じた県民サービスの利便性向上に着手しています。

「海以外すべてを持っている」

―DX推進は、県の総合計画でもキーワードになっていますね。

 そうしています。令和4年度にスタートした総合計画は、私が知事になって初めて策定した「5か年計画」になります。そこでは、目指す将来像として「安心・安全の追究」「誰もが輝く社会」「持続可能な成長」の3つを掲げており、これらの実現に向けて12の針路と、その下に54の施策を配置しています。今回の総合計画の特徴は、計画の基本姿勢として全施策を横断的に貫く2つの視点を掲げていることです。それが「SDGs」と「デジタル化・DX」です。文字通り、県政の根幹にDX推進を据えている格好で、DXの進展はすなわち、総合計画全体の実現に寄与するものと捉えています。実際、令和4年度の数値が判明している78のKPIのうち、80%以上が計画策定時に比べて改善しているという結果が出ています。

―埼玉県における今後の県政ビジョンを教えてください。

 私は埼玉県を「海以外すべてを持っている」県と表現しています。実際、都市部もあれば、自然豊かな山間部もあります。また新幹線だけでも東北、上越、北陸の3路線が通る交通の利便性は、物流や地域産業の発展の背景になってきました。そうした魅力が、これまで唯一、人口減少を経験してこなかった所以です。各種の統計を見ても、「住みやすさ」「子育てしやすさ」では全国でもつねにトップクラスです。この本来の魅力を長きにわたって発揮し続けるためにも、いまは直面する「歴史的な課題」に立ち向かうこと。10年後、20年後を見据えた未来志向の施策を戦略的思考で着実に遂行し、総合計画が掲げる「日本一暮らしやすい埼玉」を実現していきます。

※台紙の文字は、アラビア語で「平和・平安」を意味する「サラーム」(編集部注)

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