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若手町長が挑む「環境の力」を活かしたまちづくり

子どもたちの世代にも、持続して発展する町を残したい

子どもたちの世代にも、持続して発展する町を残したい

若手町長が挑む「環境の力」を活かしたまちづくり

子どもたちの世代にも、持続して発展する町を残したい

津南町長 桑原 悠

※下記は自治体通信 Vol.36(2022年3月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。


「地域に活力を取り戻したい」との住民の願いを背に、若い力が地方政治に新風を吹き込み、革新的な取り組みで成果を上げている自治体がある。当選した平成30年当時、全国最年少町長として注目された桑原氏が町長を務める津南町(新潟県)もそうした自治体のひとつだ。山あいの小さな自治体に秘められたポテンシャルの高さを活かし、持続可能なまちづくりをめざす津南町の挑戦とは。同氏に詳しく話を聞いた。

町の財政を圧迫する、町立病院の経営問題に着手

―全国最年少町長として注目のなかでの就任以来、桑原さんは「持続可能な町」というキーワードをたびたび発信してきました。

 はい。それは、私が町長選に出馬した最大の動機でもありました。私が生まれ育った津南町は、豪雪地帯であることから豊富な水資源に恵まれており、国の農地開発事業の後押しもあって古くから農業が盛んな地域です。しかも新潟県内では珍しく米よりも野菜の出荷額が高く、バランスのとれた農業構造を誇ります。その結果、食料自給率は332.5%*1と県内トップ、全国でも有数の高さを誇ります。また、水資源を利用した水力発電も盛んで、再生可能エネルギー自給率は90%を超えています。まさに、食料もエネルギーも自給できる強みをもっているんです。

 一方で、町が抱える課題も多く、自分の子どもたちがこの先、楽しく希望をもって住み続けられるのか、という危機感がありました。

―どのような課題ですか。

 人口減少と財政健全化の問題が、重い課題です。人口問題に関しては、私の大学時代の恩師である増田寛也先生が座長を務めた日本創成会議により、「消滅可能性都市」の指摘を受けました。実際、近年は町の産業の後継者問題も顕在化しています。そうした影響から、町の財政の持続可能性にも大きな課題が生じていました。財政事情をめぐっては、最大の懸案が町立津南病院の経営問題でした。病院事業は毎年5億円の赤字を一般会計から補てんする形で維持する状態が恒常化しており、町の財政を大きく圧迫していたのです。私は町長就任にあたり、町立津南病院の「経営改善」を最優先課題のひとつと位置づけました。

コストカットよりも、いかに収入を増やすか

―この間、どういった取り組みをしてきたのでしょう。

 まずは、外部の知恵を活用することが重要と考え奔走するなかで、当時九州経済連合会会長の麻生泰さんとの縁をいただきました。麻生さんは福岡県にある飯塚病院を経営されており、その知見を津南病院でも活かせないかと考え、協力を仰ぐためお会いしに行きました。麻生さんは「すごく真剣な目をしているから」と協力してくれ、まずは現状分析と病院職員の意識改善から着手することに。この動きに触発され、院長を中心に病院職員たちの自発的な改善活動も動き出しました。

 議論を重ねながら、今回の改善の主眼を「町民ニーズに応える病院へと変わること」に置き、いかに収入を増やすかを考えました。

―通常、病院改革では運営の効率化により、いかにコストカットを図るかが優先されがちですが。

 それも重要なのですが、国保のデータで町民の医療費支出を分析したところ、域外の病院に通っている町民も思いのほか多いことがわかりました。「信頼されるかかりつけ医にならなければ」との院長の想いもあり、町民ニーズに応えられる診療体制を整備できれば、収益改善への道筋ができると考えたのです。そこで、地域包括ケア病床を開設したほか、整形外科医の常勤化、総合診療内科の新設、生活習慣病外来の設置など、病院の特色化に努めてきました。

 こうした取り組みの結果、経営改革に着手して3年目の今年度は、収支が約2億円改善される見込みです。小さな町ですので、この結果が町の財政に与える影響はとても大きいものです。町の医療機能維持にめどがついただけではなく、将来への投資といった積極的な予算を組む余力も少しずつ生まれてきました。

職員が自発的に考え、動き出せる環境づくりを

―積極的な予算とは具体的にどういったものですか。

 津南町がもつ「環境の力」を活かして、知名度を上げていく取り組みをいくつか進めています。たとえば、町の基幹産業である農業の振興策として、「津南町農業振興基金」を立ち上げました。未整備地区の農地整備を進める際に、農家の経済的な負担軽減に活用していく方針です。農業経営の法人化も進めてきており、8つの農業法人が新たに立ち上がり、30~40代の若手農業経営者が生まれています。今後、さらに農業の担い手育成や新たな雇用創出が本格化していけば、「持続可能な町」の実現に向けた重要な一歩になると期待しています。

 さらに、今年4月には「観光地域づくり法人」を設立し、観光と農業、商工業との連携で地域経済に好循環をもたらすための取り組みも始めます。

―外部への発信力が問われますね。そこは町長の役割ですか。

 役場をあげて、総合力で取り組んでいきたいと考えています。組織やトップのあり方にはさまざまな考え方がありますが、私は就任以来、職員が自発的に考え、動き出せるような環境づくりを心がけてきました。社会課題は複雑化し、役場の仕事は高度に専門分化されていますので、それらが有機的につながることで、初めて組織としての力が発揮できると考えているからです。令和3年初頭に庁内横断の「移住・定住プロジェクト」を立ち上げた背景も、人口減少対策という現実的な課題感とともに、庁内の若手職員が自発的に施策立案に参画できる場をつくりたいという想いがありました。職員はこの間、議論を重ね、政策提言にまでこぎつけてくれましたので、その実現に向けて来年度予算に計画を組み込む予定です。政策で注目され、発信力が高まるようリーダーシップをとっていきたいと思います。

その価値を全国にアピールし、町の知名度を高めたい

―最後に今後の町政ビジョンを聞かせてください。

 もともと有している「環境の力」を活かした「持続可能な町」という津南町のあり方は、2050年脱炭素社会の時代に向かって再評価される、とても重要な価値だと思っています。その価値を活かした取り組みで、「津南町」の知名度を少しでも高めていきたいですね。

 一方で、真の持続可能性を追求するならば、やるべきことは山積しています。農業以外の全産業での担い手育成も課題ですし、人口減少対策として子育て環境の充実は急務です。これらの課題には、若さと行動力で正面から立ち向かえば、きっと子どもたちの世代にも持続して発展する町を残していけると信じています。

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桑原 悠 (くわばら はるか) プロフィール
昭和61年、新潟県中魚沼郡津南町生まれ。東京大学公共政策大学院在学中、平成23年10月に25歳で津南町議会議員選挙に当選。平成27年11月からは津南町議会副議長を務める。町議会議員2期目の途中で町長選に出馬し、当選。平成30年7月より中魚沼郡津南町長に就任。当時、全国最年少町長として注目を集める。現在1期目。2児の母として、町政と育児との両立を果たしている。

*1:※令和3年3月時点、農林水産省公表の地域食料自給率ソフトにてカロリーベースで算出

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