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先進事例2024.04.19
産業振興策の方法論

持続可能な未来のための、地域資源を活かした産業振興策とは

[提供] 株式会社キャンパスクリエイト
持続可能な未来のための、地域資源を活かした産業振興策とは
この記事の配信元
株式会社キャンパスクリエイト
株式会社キャンパスクリエイト

※下記は自治体通信 Vol.57(2024年4月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

あらゆる自治体が、それぞれの資源を活かした、実効性のある産業振興や地域活性化を模索している。しかし、強みを持つ資源とは何か、それをどう活かすべきか。その方法論を見出すのは簡単ではない。そうしたなか、東京都では、開発プロモーターとの協働により、有望なスタートアップ企業や先進技術の集積といった資源を活かし、持続可能な未来へつなげる産業振興策を進めている。

東京都の取り組み
次世代通信による「技術革新」で、日本のグローバルな成長を牽引する
インタビュー
東京都
産業労働局 商工部 創業支援課

東京が持つポテンシャルを、最大限に活かす産業振興策

 東京都では、持続可能な新しい社会の実現を目指し、「『未来の東京』戦略 version up 2024」を今年1月に策定しています。そこでは、東京からイノベーションを巻き起こし、日本のグローバルな成長を牽引することを掲げています。また、東京は、高度な技術を持った企業、大学・研究機関などが集まる、人・知・技術・産業・情報・ネットワークの集積地です。そのポテンシャルを最大限活かして現在実施しているイノベーション創出策の1つが、「次世代通信技術活用型スタートアップ支援事業」です。事業を通じて、都民のQOL向上に寄与する有益なサービスを創出するとともに、各スタートアップ企業の企業価値向上を目指しています。

 本事業では、東京都と協働して支援を行う事業者を開発プロモーターとして募集・選定し、スタートアップ企業に対し多角的な支援を行います。開発プロモーターの選定にあたっては、スタートアップ支援に関するノウハウ・スキルなどのアクセラレーション力、最新の次世代通信技術に対する技術理解力、さらには外部事業者との連携力などを評価しています。そのうちの1社であるキャンパスクリエイト社は、広域TLO*として、全国の大学等研究機関とのネットワークを持ち、これまでに多くのオープンイノベーションを創出してきた実績などを評価しました。

 同社が支援先スタートアップの1社として選定したavatarin社は、ローカル5Gを活用したビジネス展開を目指した実証実験を、八丈島空港で行いました。そこでは、観光をはじめとした新たなビジネス展開の可能性が示されています。この実証実験で得られた成果が、「未来の東京」戦略が目指すイノベーションの創出、さらには都民のQOL向上や島しょの振興にもつながることが期待されます。

*TLO : 大学の研究者の研究成果を企業へ技術移転する機関

実証実験報告
「ローカル5G×アバターロボット」が、産業振興に「新たな視点」をもたらす

avatarin社は、東京都の「次世代通信技術活用型スタートアップ支援事業」において、東京・八丈島空港でローカル5Gを活用した実証実験を行った。同社の筒氏によると、今回の実証実験のテーマは「未来の移動サービス」の検証だという。その先に広がる可能性とは。ここでは、ローカル5Gを監修した東京大学大学院工学系研究科 教授の中尾氏と筒氏の2人に、実証実験の内容や得られた成果などを聞いた。

インタビュー
筒 雅博
avatarin株式会社
ソーシャルソリューション部 / 連携研究部 部長
筒 雅博つつ まさひろ
昭和62年、熊本県生まれ。中央大学法学部卒業。令和2年、avatarin株式会社に入社。国家プロジェクトの運営やアカデミアとの共同研究、アバター技術を活用した地方創生事業推進などを担当する。令和4年から現職。
インタビュー
中尾 彰宏
東京大学 次世代サイバー インフラ連携研究機構 機構長
東京大学大学院 工学系研究科 教授
中尾 彰宏なかお あきひろ
昭和43年、広島県生まれ。東京大学理学部卒業後、同大学院修士課程修了。その後、プリンストン大学大学院コンピュータサイエンス学科にて修士・博士学位を取得。専門は情報通信。5G/Beyond5G/IoTに関する複数の産学連携プロジェクトのリーダーを務める。令和3年4月より現職。

5Gが持つ3つの特徴を、最大限高める通信技術

―八丈島空港で行った実証実験の内容を教えてください。

 空港にローカル5Gの通信環境を整備し、当社開発のアバターロボット『newme』を東京・日本橋から遠隔操作して観光案内を行いました。『newme』には、遠隔操作しているスタッフの顔が映し出され、観光客と「双方向」の「リアルタイム」なコミュニケーションが可能です。この点が、既定のプログラミングで動く一般的なロボットとの大きな違いです。

中尾 リアルタイムなコミュニケーションを目指す場合、通信遅延によるタイムラグはコミュニケーションに違和感を与えるため、高速通信環境の整備が重要なポイントになります。その点、5Gは、「大容量」「低遅延」「多数接続」という3つの特徴がある移動通信システムであり、なかでも、通信ユーザーを指定できるローカル5Gは通信が分散しないため、これら3つの特徴を最大限に高められます。今回の実証実験では、遠隔操作によるロボットで、対面と同等のコミュニケーションができるかどうかを検証しました。

―結果はいかがでしたか。

 2月6日から同17日まで実証実験を行い、空港に降り立った観光客に対し、『newme』を通じて観光スポットや島内グルメの紹介、交通案内などを行いました。案内の際、通信遅延によるタイムラグは見られず、また音声や画像が途切れることもありませんでした。観光客に遠隔地から操作していることを伝えると、驚きを見せるくらいのスムーズな案内でした。

中尾 データ上の数値検証でも通信遅延はほぼ見られず、ローカル5Gの活用により、遠隔操作ロボットでリアルタイムなコミュニケーションが実現できると判断できました。さらに、今回の実証実験で活用したローカル5Gは「可搬型」です。私たちの研究室がローカル5Gのシンプルな整備にこだわって開発したもので、人の手で持ち運べる大きさのシステムです。当研究室ベンチャーから販売を開始しており、価格も従来の数分の1程度に抑えられています。

 中尾先生が開発した可搬型ローカル5G基地局を活用すれば、従来、設置場所や価格の面で実現が難しかった場所でも、ローカル5Gの整備が進むと期待できます。今回の実証実験では、技術検証とともに、可搬型ゆえの社会実装の広がりを見極めることも目的の1つでした。そうなれば、私たちが『newme』を通じて実現したい「未来の移動サービス」を多くの人に提供できると考えています。

東京大学大学院教授の中尾氏が開発したローカル5G基地局のサーバ。「可搬型」が特徴

ローカル5Gの活用で、広がる「新たな世界」

―「未来の移動サービス」とはどういったものですか。

 人の肉体を物理的に移動させるのではなく、あらゆるロボットやモビリティに人の意識、技能、存在感を伝送する「瞬間移動サービス」です。このサービスは、「すべての人が持続的に、いつでも、どこでも移動できる世の中」を実現する可能性を秘めています。人口減少や少子高齢化の進展で、日本の人手不足問題は将来、ますます深刻化します。そうなると、専門スキルを持つなど、希少性の高い人材の確保はさらに難しくなり、対面でのサービス提供は一層困難になると予想されます。そうした問題も、「瞬間移動サービス」が可能な『newme』なら解決できます。

―具体的に教えてください。

 たとえば、行政窓口サービスです。自治体にとって、希少言語を話せる専門人材の直接雇用は人件費的に難しいと思います。しかし、庁内に『newme』を配置して専門人材による遠隔対応が実現すれば、人件費を抑えつつ、多言語対応の窓口サービスを提供できるようになります。また、医療サービスの分野では、通院が難しい患者への遠隔診療のほか、「遠隔お見舞い」なども可能になります。

 それどころか、これまでにない新たな価値を持つサービスを提供できると考えています。

―どのようなことでしょう。

 『newme』の活用は、多くの自治体の課題といえる「人材流出」の歯止めにもつながると考えています。「雇用がない」ことを理由に都会に出なくても、『newme』を通じて、生まれ育ったまちに居ながらにして、都会の人たちに自分の技術やスキルを提供することもできるようになるからです。

中尾 ローカル5Gの活用により、自治体が取り組む産業振興や地域活性化策にも「新たな視点」が加わるはずです。我々は、従来の発想や技術では克服困難な地方の課題、いわば、ミッションクリティカルな課題に対するローカル5Gの可能性を多くの自治体に知ってもらいたいと考えています。ぜひお声がけいただきたいと思います。

支援企業の視点
産業振興事業の成否を分けるのは、知見ある「開発プロモーター」の存在
インタビュー
須藤 慎
株式会社キャンパスクリエイト
専務取締役 オープンイノベーション 推進部・プロデューサー
須藤 慎すどう まこと
昭和57年、東京都生まれ。国立大学法人電気通信大学卒業。平成17年、株式会社キャンパスクリエイトに新卒入社。産学官連携業務、産業振興業務などを担当する。令和2年より現職。

―自治体が産業振興策を推進する際のポイントはなんですか。

 それぞれの自治体が地域課題の解決を目指して産業振興プランを立案しますが、その目的実現に向けて、資金や技術、環境など、どれだけ多くのリソースを巻き込めるかが成否を分ける重要なポイントになります。しかし、民間企業に比べて頻繁に人事異動がある自治体においては、職員に特定分野での深い知見や人的ネットワークの構築を期待するのは難しいものがあります。特に、先端技術の活用やスタートアップ支援といった要素が加わると、既存の市場が存在しないため過去のノウハウがさらに求められてきます。その場合、今回の東京都における産業振興事業に見るように、当社のような「開発プロモーター」を設定することが、事業の成功に向けては必要と考えます。

―どのような支援が期待できるのでしょうか。

 当社は電気通信大学TLOとして、広域的な産学連携をコーディネートしてきた実績があり、科学技術に対する幅広い知見を有しています。この知見を活かし、事業への参画企業の厳選や、事業の成功に向けた連携事業者の選定などを支援します。また、実証実験を伴う場合はその最適なフィールドの設定や協力の取り付け、さらには実用化を見据えたビジネスマッチングなども提案できます。自治体の産業振興事業が最終的に目指すところは、住民のQOL向上につきます。限られた予算のなかでも、産業振興策でこうした成果を上げたい自治体のみなさんは、ぜひお問い合わせください。

avatarin株式会社

設立/令和2年4月 資本金/1億円 従業員数/57人(令和6年2月現在) 事業内容/ロボットおよびその関連製品並びにそれらに関するサービスの研究、開発、販売、ライセンス、リースその他の取引事業など
URL/https://about.avatarin.com/

株式会社キャンパスクリエイト
株式会社キャンパスクリエイト
設立

平成11年9月

資本金

8,160万円

従業員数

45人(令和6年2月現在)

事業内容

産学官連携・オープンイノベーション支援サービス

URL

https://www.campuscreate.com/

お問い合わせ先
042-490-5728(平日 9:00~17:00)
open-innovation@campuscreate.com
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