※下記は自治体通信 Vol.56(2024年3月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
地域課題が多様化、複雑化する中、年々削減されている自治体職員のみでこれらに当たることは、もはや限界に近いと指摘する向きは多い。自治体DXによる業務効率化が喫緊の課題とされる所以である。今後、地域課題をいかに解決していくか。この問題に対して、「住民が抱く地域貢献意欲を喚起し、その力を借りる発想がひとつの解になる」と語るのは、多くの自治体に向けて公共基盤事業を手がけるNTTデータの桐島氏だ。同氏に詳しく聞いた。
株式会社NTTデータ
社会基盤ソリューション事業本部 ソーシャルイノベーション事業部 デジタルソリューション統括部 サービス企画担当 課長代理
桐島 浩輝きりしま ひろき
平成26年に総務省に入省。放送行政、サイバーセキュリティ政策などを担当したほか、他省庁への出向を経験。令和5年に株式会社NTTデータに入社。現在、地域貢献を促進するスマートフォンアプリ『fowald』の営業を担当し、自治体・企業へのソリューション展開に取り組む。
行政と住民が一緒に、課題解決に当たることが重要
―地域課題の解決に向き合う自治体の現状をどう見ていますか。
人口減少や高齢化、過疎化に多くの自治体が直面する中で、まちづくりの担い手をいかに確保し、持続可能性を担保するかがもっとも大きなテーマだと認識しています。地域の課題に職員だけで対応していくのは、もはや限界に近いとの認識は多くの自治体が共有していると思います。その中で、限られた資源で実施する自治体施策に対する住民の満足度を高めるために、いかに「生活者視点」を取り入れるかも、多くの自治体に共通したテーマになると考えています。この2つのテーマに対して我々は、まちづくりに住民を巻き込み、行政と住民が一緒に地域課題の解決に当たることが、重要なアプローチになると考えています。
―良い方法はありますか。
自治体が抱える「地域の課題」を、自分たちの「暮らしの課題」として住民に共感してもらえれば、課題解決へ積極的に参画してもらう仕組みがつくれるはずです。まさに、そのためのプラットフォームとして当社が昨年9月から提供しているのが『fowald』です。
―どのような仕組みですか。
自治体が住民と一緒に取り組みたいテーマ=お題を「クエスト」として『fowald』上に公開することで、住民の「地域に対する愛着」を刺激し、クエストに興味や関心を抱いた住民からリアルな地域貢献活動を引き出していくという仕組みです。地域住民は多くの場合、「まちを良くしたい」という想いを持っているものですが、最初の一歩が踏み出しにくいという事情があります。誰でも気軽に参加できるクエストを提示することで、住民の共感を得るとともに、参加のハードルを下げ、住民による協働を引き出して加速できるのが『fowald』の特徴です。
『fowald』には、人々のアクションを定量的に可視化する効果もあります。そのため、導入自治体ではその傾向を分析することで、地域課題の抽出や生活者視点の施策立案に活かすこともできます。
自助・共助を促進するツール
―実際の活用事例はありますか。
昨年1月から約2ヵ月間にわたり、千葉県の商店街振興組合と共同で実証実験を行いました。本実証実験で地域を盛り上げるためのフォトコンテストをクエストとして掲載したところ、幅広い年齢層から250人以上の参加を得て、写真投稿は740件以上、参加者の共感を表す「そうだね」の投稿も3,500件以上獲得しました。週間平均のアクティブユーザー比率は25.6%に達しており、これは主要SNSよりも高い割合となっています。この結果からは、振興組合のように従来からまちづくりに高い関心を持つコア層が中心的な役割を担い、かつ手軽に参加できるクエストを掲載することができれば、周辺の地域住民の高い共感と行動を引き出せることが確認できたと自負しています。
―今後の自治体への支援方針を聞かせてください。
『fowald』は、生徒が地域の課題やその解決策について考える探究型学習での活用のほか、「暮らしの課題」というクエストから地域の生活インフラの不具合を検出してもらう、といった応用もでき、活用範囲はとても広いです。当社では、行政による公助だけではなく、住民参画による自助、共助を促進するツールとして『fowald』を位置づけ、地域の課題解決を後押ししていきたいと考えています。