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“新しいシビックプライド”を創る~渋川市「1000人ROCK FES.GUNMA」<後>

“新しいシビックプライド”を創る~渋川市「1000人ROCK FES.GUNMA」<後>

【自治体通信Online 寄稿記事】“ミュージックツーリズム”で「新しい地方の時代」を拓く自治体 #3(流通経済大学 経済学部 准教授・八木 良太)

地域資源と音楽を結び付けた“ミュージックツーリズム”の自治体事例等を日本各地の音楽フェスに詳しい流通経済大学 経済学部の八木 良太 准教授にレポートしてもらう本連載。第3回は渋川市(群馬)で行われている参加型大規模ロックフェス「1000人ROCK FES.GUNMA」の後編。オール市民参加の取り組み、そしてコロナ禍にどう立ち向かったのかなどについてレポートしてもらいます。
【目次】
■ 「1回限り」のはずが
■ 若者のシビックプライドを醸成するきっかけ
■ 地域の音楽文化を育てる取り組み
■ 未来に続いていくDREAMIN'

「1回限り」のはずが

前回で述べたとおり、1000人ROCK FES.GUNMA(以下、1000人ROCK)は当初、渋川市(群馬)の青年会議所の設立50周年を記念した1回限りのイベントだった。
(参照記事:“熱狂”のシティプロモーション”~渋川市「1000人ROCK FES.GUNMA」<前>)

しかし、メディアの反応を含め、予想以上に大きな反響があった。終了後、イベント参加者や、予定人数到達により参加できなかった人たちから、第2回の開催を望む声が上がった。その要望は署名活動へと広がり、東京、埼玉、大阪、名古屋、福岡、仙台などの全国各地から次年度開催を希望する200名もの署名が集まった。

渋川市青年会議所のメンバーを中心とした1000人ROCK FES. GUNMA実行委員会(以下、実行委員会)ですぐに話し合いがもたれ、第2回の開催を決定した。

「イベントが大きな反響を得て、渋川市のPRにもつながり、皆さんに注目してもらいました。たくさんの人たちから継続の署名までいただいて、本当に感謝しかなかったです。これは期待にこたえるしかない。それで第2回を開催することにしたんです」(柄澤氏)

第2回は2018年6月2日に開催され、地元・群馬県を代表するロックバンド、BOØWY(ボウイ)の「NO. NEW YORK」が課題曲に選ばれ、第1回と同様、盛況のうちに幕を閉じた。

第3回(2019年6月1日)も継続開催された。実行委員会の意向で、今後はさまざまなアーティストの楽曲を演奏することになり、第3回はTHE BLUE HEARTS(ザ・ブルーハーツ)の「終わらない歌」が課題曲に選ばれた。

BOØWYの曲でなくなったことで、1000人が集まるのかどうか不安であったが、第1回と第2回の出演者の多くがリピート参加してくれ、当日までに枠が埋まった。本番は好天に恵まれ、無事に終了した。

そして、コロナ禍に見舞われた2020年。第4回の1000人ROCKは中止となったが、集まらなくてもできる「1000人ROCK WEB SESSION」を開催し、8月にYouTubeで動画を公開。コロナ禍にあっても1000人ROCKのスピリットを受け継いだ。そして、2021年5月の1000人ROCK開催に向けて、実行委員会はすでに動き出している。

上写真は第2回(左)と第3回(右)の1000人ROCKの模様、下写真はWEB SESSIONの動画画面(1000人ROCK FES.GUNMA OFFICIALのYouTube画面より)
上写真は第2回(左)と第3回(右)の1000人ROCKの模様、下写真はWEB SESSIONの動画画面(1000人ROCK FES.GUNMA OFFICIALのYouTube画面より)

若者のシビックプライドを醸成するきっかけ

このイベントは、地元の高校生はじめ多くの若者ボランティアに支えられている。実行委員会メンバーが地元高校を訪れて高校生ボランティアを要請したところ、すぐに50名ほどが集まった。

1000人ROCKでの高校生ボランティアたち(写真提供=1000人ROCK FES.GUNMA実行委員会)
1000人ROCKでの高校生ボランティアたち(写真提供=1000人ROCK FES.GUNMA実行委員会)

群馬県は、音楽の盛んな地域である。BOØWYやBUCK-TICKなどの有名ロックバンドを数多く輩出し、クラシック音楽も盛んだ。群馬交響楽団(群響)は、地方オーケストラの草分け的存在として知られている。

地域によってはロックフェスティバルに好意的でないところもある。特に学校などの教育機関は、ロックなどのポピュラー音楽を嫌がる傾向にある。しかし、群馬県は、クラシック、ポピュラー問わず、音楽好きの住民が多く、ロックにも寛容だ。

「渋川市の高校にはBOØWYの好きな先生方がたくさんいて、イベントに好意的です。先生が生徒たちに熱心にボランティアの呼びかけをしてくれて、とても助かりました」(柄澤氏)

柄澤氏は、ボランティアには楽しんで仕事をやってもらいたいという。

「ロックフェスの手伝いやボランティアって、結局、ライブを見ることもできずに大変だった、という人が多いと思うんです。だから、1000人ROCKのボランティアはのんびりと楽しんで手伝ってほしいです。演奏時間になると、『会場に来て、一緒に演奏を見ようよ』と呼びかけています。だから、うちのボランティアは駐車場の警備でずっと同じところに立たされている子はいないと思います」(柄澤氏)

専門学校もイベントに協力している。群馬県美容専門学校は2018年からヘアメイクのブースを出店している。20名の学生と教員が出演者や観客の髪の毛や顔のメイクを行う。ヘアメイク代は無料。実習授業の一環として行うからだ。学生は、相手の要望を聞き、会話をしながら、学校で学んだ技術を実践する。1000人ROCKでは、バンドメンバーが髪を逆立てたり、派手なメイクをしたりして演奏している姿をよく見かけるが、多くは専門学校生の手によるものである。

1000人ROCKのボランティアで参加者のメイクなどを行う群馬県美容専門学校の学生たち(写真提供=1000人ROCK FES.GUNMA実行委員会)
1000人ROCKのボランティアで参加者のメイクなどを行う群馬県美容専門学校の学生たち(写真提供=1000人ROCK FES.GUNMA実行委員会)

柄澤氏は、高校生や専門学校生がイベントのボランティア活動を通じて、地元に愛着や誇りをもつようになってほしいという。ロックフェスをきっかけに、地元の若者のシビックプライドを醸成したいと考えているのだ。

地域の音楽文化を育てる取り組み

2019年の第3回から地域の子どもたちの音楽活動を支援するプロジェクト「ROAD TO 1000人ROCK」を開始している。これは渋川市内の小学5、6年生の子ども20名(先着順)を対象にしたプロのギター講師が指導にあたる無料のギター教室を実施するもので、若者や大人たちだけではなく、子どもも含めたみんなで一緒に1000人ROCKへの参加を目指す協働の取り組みと言える。

「ROAD TO 1000人ROCK」と銘打った地域の子どもたちを対象にしたギター教室の様子(写真提供=1000人ROCK FES.GUNMA実行委員会)
「ROAD TO 1000人ROCK」と銘打った地域の子どもたちを対象にしたギター教室の様子(写真提供=1000人ROCK FES.GUNMA実行委員会)

子どもたちはギターを購入する必要はない。過去に出演した1000人ROCKメンバーからの無償提供や実行委員会メンバーの中古購入によって調達したギターを無償で貸与するからだ。ギターを購入できる家庭の子どもだけを対象とするのではなく、興味のある子どもなら誰でも身ひとつで参加してほしいというのが実行委員会の考えである。

告知チラシなどを通じてプロジェクトの参加者を募ったところ、すぐに20名の参加児童が集まった。4月上旬から2か月間にわたって計8回の練習が行われ、本番直前の5月末にはほとんどの子どもたちが課題曲の演奏をマスターした。そして、本番当日には20人の子どもたちが元気な演奏で練習の成果を発揮することができた。

「ROAD TO 1000人ROCK」の告知チラシ(左)と本番当日に演奏する子どもたち(筆者撮影)
「ROAD TO 1000人ROCK」の告知チラシ(左)と本番当日に演奏する子どもたち(筆者撮影)

未来に続いていくDREAMIN’

先ほどの高校生ボランティアと同様、「ROAD TO 1000人ROCK」プロジェクトは地域の音楽文化を育むことに貢献している。1000人ROCKを通して、地域の若者や子どもたちに演奏する楽しさや音楽の素晴らしさを知ってもらいたい、という実行委員会の思いが根底にある。

「将来、1000人ROCKに参加した子どもたちの中からデビューする子が現れて、『ギター演奏をはじめたきっかけは1000人ROCKだったんです』といってくれたりするとうれしいよね、とみんなで話しているんです」(柄澤氏)

実行委員会のメンバーたちの、地域の若者や子どもたちへの思いが地域の音楽文化を育み作り上げるのである。

「フジロックフェスティバル(1997年に初開催された野外ロックフェスティバルの草分けで国内最大規模の野外音楽イベント)が好きで、よく行っていました。地元でフジロックみたいなフェスができれば最高だな、と思っていましたが、まさか自分がロックフェスをやることになるとは予想だにしませんでした」と柄澤氏は語る。

1000人ROCKは「地元でロックフェスをやりたい」という若者たちの純粋な思いが結実したイベントである。そして、その思いが、イベントを成功に導き、音楽を通じた地域活性化を実現させているのである。

(続く)

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本連載「“ミュージックツーリズム”で『新しい地方の時代』を拓く自治体」のバックナンバー
#1:アフターコロナの地域観光と地域活性化の“切り札”
https://www.jt-tsushin.jp/article/yagi-music_01/
#2:“熱狂”のシティプロモーション”~渋川市「1000人ROCK FES.GUNMA」<前>
https://www.jt-tsushin.jp/article/yagi-music_02/

八木 良太(やぎ りょうた)さんのプロフィール

流通経済大学経済学部准教授
博士(経営学)

1973年愛媛県生まれ。横浜国立大学大学院社会科学研究科企業システム専攻博士課程修了。専門は経営学(経営戦略論、経営組織論、リスクマネジメント論)。大学卒業後、アルファレコード、ビクターエンタテインメントにて、アーティストのマーケティング戦略・事業計画の立案実施に携わるとともに、邦楽ディレクターとして多数のアーティスト・企画作品を手がける。地域デザイン学会特命担当理事。日本リスクマネジメント学会評議員。
著書に「音楽産業 再成長のための組織戦略:不確実性と複雑性に対する音楽関連企業の組織マネジメント」(東洋経済新報社、2015年、平成28年度日本リスクマネジメント学会優秀著作賞受賞)、「音楽で起業する 8人の音楽起業家たちのストーリー」(スタイルノート、2020年)などがある。
最新刊は「それでも音楽はまちを救う」(イースト・プレス、下の囲み記事を参照)

<連絡先>
八木良太研究室 https://yagi-ryota.jimdofree.com/

~八木准教授の新著「それでも音楽はまちを救う」(イースト新書)の概要~
ミュージックツーリズムという新提言。アフターコロナは音楽と地域観光が花開く!音楽の力で、地域経済はもう一度やり直せる。「地方創生」が謳われて6年。日本各地で、故郷を救うべく有志が立ち上がっていた。その熱意が結実し、さまざまな音楽イベントが生まれ、活況を呈している。彼らはいかにして、イベントを成功に導いたのか? 人々を熱狂させ感動を与える音楽の力を、観光業に取り入れることで、地域経済はもう一度やり直せる。そこには、新型コロナウイルス禍に見舞われた地方を救うヒントもあった。音楽を愛するすべての人の思いが、活気を失ったまちに大きな波を呼び込む。詳細な調査で迫った、地域再生の現場。
【目次】
第1章 世界に学ぶ音楽観光
第2章 音楽観光で成功を収めた日本の先駆者たち
第3章 音楽でまちを救うために~ミュージックツーリズム実践編~
第4章 音楽イベントのリスクマネジメント
第5章 まちはコロナ禍といかに闘ったか