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【亀岡市「レジ袋禁止条例」の挑戦 #1】 事業者と住民の行動変容につなげる

    【亀岡市「レジ袋禁止条例」の挑戦 #1】 事業者と住民の行動変容につなげる

    【自治体通信Online 寄稿記事】自治体SDGs~先進事例と実践者たち①(慶應義塾大学大学院 特任助教/鎌倉市SDGs推進アドバイザー・高木 超)

    「パフォーマンスではないか」―。亀岡市(京都)が全国に先駆けて「レジ袋禁止条例」(2021年1月施行)を打ち出した時、市内事業者からはこうした辛辣な言葉が同市に寄せられたそうです。国のプラスチック資源循環戦略に基づき2020年7月から全国で実施されるレジ袋有料化の先を行く“禁止”という市の方針に揺れた地域。分断を招きかねない事態が逆転し、「持続可能な環境先進都市」の実現を目指して地域が一本化した根底には何があったのか。亀岡市の挑戦の軌跡をSDGsの切り口から検証します。
    【目次】
    ■ レジ袋禁止条例とSDGsの関係
    ■ 条例成立の背景
    ■ かめおかプラスチックごみゼロ宣言

    レジ袋禁止条例とSDGsの関係

    2020年3月24日、「亀岡市プラスチック製レジ袋の提供禁止に関する条例(以下、レジ袋禁止条例)」が市議会で可決、成立したというニュースが全国を駆け巡りました。

    2021年1月に施行されることになった条例の内容は、有償無償を問わず、市内事業者のプラスチック製レジ袋の提供を禁止する、そして、紙袋や生分解性袋であっても、無償での配布は禁止するというものです。同年6月以降は、違反した事業者が市の立ち入り調査や是正勧告に従わない場合、市は事業者名を公表できるとしています。

    ~亀岡市の概要~人口は京都府第3位の約8万8,000人。京都市(京都)、高槻市(大阪)に隣接している。この地に丹波亀山城と城下町を築いた戦国武将・明智光秀ゆかりの史跡が多く、光秀の生涯を描くNHK大河ドラマ「麒麟がくる」の舞台のひとつに。亀岡市の中央部を貫流する一級河川である保津川は、「保津川下り」で有名な京都観光ルートのひとつ。上写真は亀岡市中心部の概観(観光プロモーション映像「~ご利益の国 亀岡へGO!~ぶらり亀岡」より)

    この亀岡市のレジ袋禁止条例を、自治体のキーワードにもなりつつある「持続可能な開発目標(以下、SDGs)」の文脈で考えてみると「海洋プラスチックごみ問題」と深く関係しています。

    SDGsとは、2015年に開催された国連サミットにおいて、すべての国連加盟国の全会一致で採択した世界共通の目標です。SDGsは、2030年を達成期限とし、「貧困をなくそう」や「飢餓をゼロに」といった17の「ゴール」と、具体的な実施手段などが示された169の「ターゲット」、その進捗を測る232(重複を除く)の「指標」から構成されています。

    その中で、ゴール14「海の豊かさを守ろう」のターゲット14.1には「2025年までに、海洋ごみや富栄養化を含む、特に陸上活動による汚染など、あらゆる種類の海洋汚染を防止し、大幅に削減する」とあり、その進捗は指標14.1.1「沿岸富栄養化指数 (ICEP)及び浮遊プラスチックごみの密度」で測るとされています。

    SDGsゴール14のアイコン
    SDGsゴール14のアイコン

    海洋プラスチックごみ問題は、世界でも大きな注目を集めており、世界経済フォーラムは、「2050年までに海洋中に存在するプラスチックの量が魚の量を超過する(重量ベース)」と発表しています。

    その解決には、沿岸部の自治体が取り組むことができる「海岸清掃」や「海洋プラスチックごみの回収」といった打ち手が思い浮かびます。しかし、本稿でご紹介する亀岡市は内陸部の自治体です。

    なぜ沿岸部の自治体に先駆けて、亀岡市でレジ袋禁止条例が成立したのでしょうか。

    条例成立の背景

    そもそも、市はプラスチックやレジ袋自体が悪いと捉えているのではなく、「使い捨て」という特徴に問題があると捉えています。

    この考え方は、経済・社会・環境の三側面のバランスを取るというSDGsの考え方と軌を同じくするものです。プラスチックを製造する人の雇用や、プラスチックが備える利点などに目を向けず、単にプラスチックを悪者扱いするだけでは、分断を生むばかりで前に進むことはできません。

    亀岡市が、この条例に踏み切った背景には、市内を流れる保津川の存在があります。亀岡市と名勝・嵐山を結ぶ川下りで知られる保津川は、年間22万人(2017年)の観光客が訪れる重要な地域資源ですが、以前から漂着するプラスチックごみに悩まされていました。

    夏の深緑の保津川(上左)と秋の紅葉シーズンの保津川(上右)。下写真は保津川の川岸に漂着したプラスチックごみ(下左、提供:特定非営利活動法人プロジェクト保津川)と清掃活動の様子(下右、同)
    夏の深緑の保津川(上左)と秋の紅葉シーズンの保津川(上右)。下写真は保津川の川岸に漂着したプラスチックごみ(下左、提供:特定非営利活動法人プロジェクト保津川)と清掃活動の様子(下右、同)

    2004年には、「保津川下り」の船頭を中心に清掃が始まり、2007年にはNPO法人「プロジェクト保津川」が組織されています。同法人は毎月清掃活動を行っており、回収される漂着ごみの中でレジ袋とペットボトルが特に多いと報告しています。

    GPS(全地球測位システム)を使って調査すると、亀岡市から80km離れた大阪湾までわずか1日でごみが到達することも明らかになり、内陸部で発生したごみが海洋汚染につながっている実態に注目が集まりました。ここに、「海洋プラスチックごみ問題」に対して、亀岡市が取り組むことの意義が認められます。

    亀岡市と大阪湾の地理(地図写真は国土地理院ウェブサイトより)
    亀岡市と大阪湾の地理(地図写真は国土地理院ウェブサイトより)

    内陸部の自治体として初めて「海ごみサミット」を2012年に開催するなど、環境保全に対して取り組んできた積み重ねが亀岡市にはあります。しかし、環境意識が他の自治体よりも高いように思える亀岡市でも、レジ袋禁止条例の成立に向けた道のりは決して平坦ではありませんでした。

    かめおかプラスチックごみゼロ宣言

    2018年12月、「かめおかプラスチックごみゼロ宣言(以下、プラごみゼロ宣言)」が発表されました。この宣言は、市議会議長と連名で宣言された点も特徴的で、行政が単独で進めているのではなく、市民の代弁者でもある市議会議員も関心を寄せていることが伺えます。

    プラごみゼロ宣言では、次の5点が目標として示されました(筆者要約)。

    ①エコバック持参率100%を目指す
    ②保津川から海へプラスチックごみを流さない。海洋汚染への「環境意識」を醸成する
    ③プラスチックごみを100%回収する
    ④使い捨てプラスチックの使用削減を呼びかけ、市内イベントではリユース食器や再生可能な素材を使用する
    ⑤市民や事業者の環境に配慮した取り組みを積極的に支援する

    SDGsの観点から見れば、市が焦点を当てた「使い捨てプラスチック」は、ゴール12「つくる責任 つかう責任」とも深い関連があります。ターゲット12.5の「2030年までに、廃棄物の発生防止、削減、再生利用及び再利用により、廃棄物の発生を大幅に削減する」にも明記されているとおり、プラスチックの使用量を減らし、使用する場合も、リユースやリサイクル等によって資源を循環させることが望まれています。

    プラごみゼロ宣言を足がかりに、市はレジ袋禁止条例の成立を目指しました。まずは、2019年1月から、市内事業者との個別協議や説明会を行い、理解を求めました。

    事業者説明会(左)と住民説明会(右)の模様
    事業者説明会(左)と住民説明会(右)の模様

    しかし、事業者からは、「思いつきで政策をされても困る。目立つためだけのパフォーマンスではないか」「わが社が応じるなら市内全店舗での実施が条件」といった言葉も寄せられたといいます。こうした経緯を通じて、副市長の仲山徳音さんは、「対話や議論を重ねつつ条例のようなルールを設けないと、状況を変えることは難しいと実感しました」と語ります。

    2019年4月、レジ袋禁止条例を具体化すべく「世界に誇れる環境先進都市かめおか協議会(以下、協議会)」が設置されました。協議会は、市内事業者を中心に日本フランチャイズチェーン協会や保津川遊船企業組合など、30以上の団体から構成されています。同年9月まで、6回に及ぶ集中的な会合での議論を経て、レジ袋禁止条例の素案が形作られました。

    「世界に誇れる環境先進都市かめおか協議会」の模様
    「世界に誇れる環境先進都市かめおか協議会」の模様

    こうした市と利害関係者との徹底した対話は、SDGsのゴール16「平和と公正をすべての人に」に付随するターゲット16.6「あらゆるレベルにおいて、有効で説明責任のある透明性の高い公共機関を発展させる」にも通じるものです。

    (【亀岡市「レジ袋禁止条例」の挑戦 #2】に続く)

    高木 超(たかぎ こすも)さんのプロフィール

    慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任助教
    国連大学サステイナビリティ高等研究所いしかわ・かなざわオペレーティング・ユニット(UNU-IAS OUIK)リサーチ・アソシエイト

    NPO等を経て、2012年から大和市役所(神奈川)の職員として住民協働、厚木基地問題、待機児童対策を担当。2017年9月に退職し、渡米。クレアモント評価センター・ニューヨークの研究生として「自治体におけるSDGsのローカライズ」に関する研究を行うほか、国連訓練調査研究所(UNITAR)とクレアモント大学院大学が共催する「SDGsと評価に関するリーダーシップ研修」を日本人で初めて修了。2019年4月から現職(国連大学は2019年9月着任)。鎌倉市(神奈川)「SDGs推進アドバイザー」、珠洲市(石川)「能登SDGsラボ」連携研究員のほか、ミレニアル世代を中心にSDGs の達成に向けて取り組む団体、SDGs-SWYの共同代表も務める。著書に「SDGs×自治体 実践ガイドブック 現場で活かせる知識と手法」 (学術出版社)がある。
    ※SDGs-SWYのサイト:https://sdgswy.wixsite.com/home

    <連絡先>
    下記のSDGs-SWYの「CONTACT」ページよりお願いします。
    https://sdgswy.wixsite.com/home/blank-pvj6y

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