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ソーシャル・トランスフォーメーション実現に向けた公民連携の重要性 ~前編~

ソーシャル・トランスフォーメーション実現に向けた公民連携の重要性 ~前編~

【自治通信Online 寄稿記事】自治体Transformation~再考“自治体のあるべき姿”~#2(PwCコンサルティング合同会社 Public Services・下條 美智子/犬飼 健一朗)

ソーシャル・トランスフォーメーション実現に向けた公民連携の重要性 ~前編~

自治体にも求められている行動変容のあり方を各地の実例に詳しいPwCコンサルティング合同会社(以下、PwC)の専門家たちが俯瞰し、独自分析する本連載。今回から前編・後編にわたって「公民連携」を取り上げます。なぜ、今後、公民連携は不可避となっていくのか。前編ではその背景である世界的な潮流変化を紐解きます。
【目次】
■ SDGs・ESG台頭による社会の変化
■ 今求められるコーポレートサステナビリティ
■ 打ち手を検討する際に意識すべきポイント

SDGs・ESG台頭による社会の変化

SDGs・ESG(※脚注参照)の台頭によりコーポレートサステナビリティ向上を求められる民間企業の現状、民間企業の視点からコレクティブ・インパクト・アプローチの重要性を前後編にわけてご紹介する。後編では参考事例として、女川町(宮城)での取り組みを説明する。

(※脚注)ESG:環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)に配慮し、事業の社会的意義や成長の持続性などが高い企業を重視・選別して行なう投資のこと。
(参照記事:いま求められる「自治体Transformationのカタチ」とは?)

 
世界の投資市場において、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資のメインストリーム化がますます加速している。欧州連合(EU)ではサステナブルファイナンスの普及が重要な施策として位置づけられ、日本でもTCFD(下の囲み記事参照)提言への賛同企業が拡大している。

~TCFDとは~
Task Force on Climate-related Financial Disclosuresの略称で、訳語は「気候関連財務情報開示タスクフォース」。企業の気候変動への取組みや影響に関する財務情報についての開示のための枠組みで、2020年10月にオンライン開催された「TCFDサミット2020」では菅義偉首相が出席し、日本政府としてTCFDを支援していくことを表明した。

また国内では、官民連携型のファイナンス手法(ソーシャルインパクトボンド)やSDGs金融、社会的インパクト投資の議論も活発の一途をたどるなど、企業の社会的・環境的な活動を金融機関が促す流れが急加速している。

これらの動きは2015年の国連サミット加盟国の全会一致によるSDGsの採択によるところが大きい。

今では各方面でトレンドとなり(下の4項目の囲み記事を参照)、それに伴い、消費者や働き手の意識向上や行動変容も起こっている。また、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響によりこれらの動きはより大きく加速し、メディアで取り上げられない日がないほどになっている。

《非財務情報の開示規制強化》
EUにおいては、欧州を中心としたサステナビリティに関する規制であるEUタクソノミーが法制化され、企業・金融機関に対して、特に気候変動を中心とした環境問題に関する情報開示の義務化が進んでいる。
タクソノミー策定の動きはカナダ、マレーシア等、各国に広がりが見られ、日本においても経済産業省・金融庁・環境省が主催する「トランジション・ファイナンス環境整備検討会」により、トランジション・ボンド、ローン等による資金調達を行う際の国内基本指針等のルールメークに向けた検討が行われている。
《経済復興とサステナビリティ》
欧米各国の行政機関においては、コロナ禍からの経済復興と同時に気候変動問題への対応(Green Recovery)や、顕在化した社会システムの脆弱性の強化(Build Back Better)を行う必要性を説くと共に、それに向けた企業の関与を強く求めている。

《ESG投資の拡大》
2018年度において世界全体でのESG投資割合は33.4%。国内では18.3%。コロナ禍において、サステナビリティ対応の進んだ企業の株価がアウトパフォームしていることが主要な機関投資家から明示され、経営の安定に貢献するESG対応への期待感が一層の高まりを見せている。
《株主至上主義からの脱却》
2019年のUSビジネスラウンドテーブルにおける株主第一主義の廃止表明、2020年1月のダボス会議でのステークホルダー資本主義の提唱等、経済界からも企業の社会的価値創出の重要性が表明されている。
《ダイベストメントの加速》
欧米の主要な機関投資家及び日本のメガバンク等を中心に、化石燃料の使用や人権侵害等、サステナビリティを棄損する事業から投資を引き上げる動き(ダイベストメント)が拡大

《高まる消費者意識》
PwCが2019年に世界の消費者を対象に実施した調査によると回答者の37%が環境にやさしいパッケージの製品を探し、42%が食品以外でも持続可能な方法で生産された製品があれば値段が高くても買うと回答している。
《働き手・潜在的働き手の意識の変化》
クロス・マーケティング社が2020年に実施した調査(「SDGsに関する調査」,URL:https://www.cross-m.co.jp/news/release/20200220/)によるとSDGsに積極的に取り組んでいる企業や団体への就職・転職意向は社会人で29.9%、学生で48.7%との回答が得られた。コロナ禍を受けた新しい働き方への対応も大きな関心事項となり得る。

《先端技術の活用》
SDGsの達成に向け、IoT、AI、ブロックチェーン等の新技術を活用した新たな解決策が数多く実装されており、テクノロジーの果たす役割に期待が高まっている。
《パートナーシップの重要性》
海洋プラスチック問題や、気候変動対応等、影響範囲が大きく複雑な課題に対する解決に向け、パートナーシップによるイノベーションの加速等、複数企業の協働による効果の最大化が求められている。

上記4項目の出典は「SDGsに関する調査」,クロス・マーケティング社,2020.2,
URL=https://www.cross-m.co.jp/news/release/20200220/

 

今求められるコーポレートサステナビリティ

このように大きく社会が変化する中で、企業に求められるものにも変化が起きている。

従来のように「企業広告にSDGsを掲げ、コンセプトを発信する」「現在の非財務価値について統合報告書を通し、発信する」といったような打ち手だけでなく、より具体的な事業や取組みが求められ始めているのだ。

サステナビリティの取組みにおけるビフォー&アフター
サステナビリティの取組みにおけるビフォー&アフター

具体的な事業や取組みを検討していくことで、社会・環境に対する企業のアジェンダを設定し、企業の経営計画に取り込むことができる。そうすることで、経済活動の中で社会的・環境的価値を創出し、企業価値を高め、持続可能な企業に近づくことが重要である(下図参照)

SCM : Supply Chain Managementの略称で、全体最適を目指す経営管理手法であるサプライチェーンマネジメントのこと
SCM : Supply Chain Managementの略称で、全体最適を目指す経営管理手法であるサプライチェーンマネジメントのこと

経営アジェンダと社会・環境アジェンダを統合し企業経営を進めることで、社会課題起点での企業体制へ変革することを、PwCではソーシャル・トランスフォーメーションと称し、推進している。

しかし、企業側においては、具体的な事業や取組みの先行事例は少なく、明確な指針もないため、それらを検討するのは非常に難しいことが想定され、実際、数多くのご相談をいただいている。

このような状況を踏まえ、PwCでは、具体的な事業や取り組みを検討する上で、押さえるべきポイントを示す、統合思考を用いたフレームワークを開発した。

企業は多くの組織・機能から成り立っており、さまざまな要素が複雑につながっているのにもかかわらず、目に見えて目立っている部分・着手しやすい部分だけを取り出して、部分最適な方法で手当てされていることが多い。ESG対応一点にのみ、集中的に取り組む企業が多いのも、その一例である。

全社戦略が揺らいでいる場合、効果の最大化にはつながりにくい。結果として、次の一手につなげることができず、改革にブレーキがかかり、企業価値の向上までの道筋が見えなくなってしまう。

ここで最も意識するべきことは、自社の状況を明らかにするとともに、自社の強み(重要資本)を特定することであり、統合思考フレームワークが有効である。

次の章では、具体的な事業や取り組みの検討するための統合思考フレームワークについて、その一部を紹介しながら、取り組みの進め方についても解説する。

打ち手を検討する際に意識すべきポイント

PwCでは、統合思考フレームワークに基づき、取り組み推進に向けたアセスメントであるサステナビリティ経営成熟度診断サービス(Social Transformation Assessment(Lights) )を実施している(下図参照)

注1:統合思考報告フレームワークを元にPwC作成 注2:三価値(環境・社会・経済価値)の同時実現
注1:統合思考報告フレームワークを元にPwC作成 注2:三価値(環境・社会・経済価値)の同時実現

当フレームワークは、海外でも多く活用されており、アセスメントには、開示情報を基にしたStandard、経営陣へのインタビューを加えたAdvanced、社会における自社の位置づけや社会的インパクトにフォーカスしたFor Societyの3種がある。

・Standard
開示情報をもとに、統合思考に基づくサステナビリティ経営の基本項目(外部環境/戦略/ビジネスモデル/ガバナンス/将来の見通し/成果測定/サステナビリティ活動)を評価。業界ベンチマークと比較し、改善ポイントを定量的に可視化
・Advanced
統合思考に基づくサステナビリティ経営に関し、開示情報からでは、収集しきれない強み・ポテンシャル等を、経営陣等へのインタビューをもとに診断
・For Society
サステナビリティの取り組みがもたらす社会的インパクトにフォーカスして、評価

SDGs・ESGに対し、具体的な事業・取り組みを検討する際には下記の7つを確認し、自社の現状を可視化することが重要である。加えてPwCでは、社会にポジティブなインパクトを創出するだけでなく、既存事業も含めた新たな事業機会を獲得し、成長を維持するサービスプロダクトを創出することが重要であると考えている。

1. 外部環境
《評価観点》外部要因がもたらす中長期の影響を機会・リスクから分析できているか
《主な診断項目》マクロトレンドの戦略・ビジネスモデル・重要資本への影響、マクロトレンドがもたらす機会・リスクの認識

2. 戦略
《評価観点》サステナビリティ戦略が策定され、明確な実行計画に落とし込まれているか
《主な診断項目》長期ビジョン、短中長期の戦略、マテリアリティの特定、マテリアリティとビジョン・戦略との整合

3. ビジネスモデル
《評価観点》経営とサステナビリティの統合したビジネスモデルが示されており、戦略と明確に関連付けされている
《主な診断項目》ビジネスモデルの描画、重要資本の特定、ビジネスモデルと戦略との関連、ビジネスモデルとリスク・機会との関連

4. ガバナンス
《評価観点》サステナビリティ戦略の実行に向け、実効性を伴う体制が整備されているか
《主な診断項目》ガバナンス体制、サステナビリティ経営の推進体制、サステナビリティの社内浸透、リスクの明示、リスク管理プロセスの構築、事業投資判断における非財務観点の取込

5. 長期的見通し
《評価観点》重要な資本について長期的な見通しが示されているか。また、十分なステークホルダー(以下、SH)エンゲージメントを実施しているか
《主な診断項目》重要資本の長期的見通し、SHエンゲージメント、非財務資本と財務との関係、情報開示の正確性

6. 成果評価
《評価観点》ビジョンに整合した非財務指標を定義し、目標値を設定・モニタリングしているか
《主な診断項目》KPIの設定、KPIとマテリアリティの整合、将来達成目標の設定、KPIの評価への反映、KPIのモニタリング

7. 個別テーマ
《評価観点》業界共通の課題、および独自のマテリアリティに対して、目標設定および計画策的な取り組みがなされているか
《主な診断項目》気候変動、循環型社会、水利用、生物多様性、人権、労働慣行、ダイバーシティ、サプライチェーンマネジメント、サイバーセキュリティ、BCP、その他業界重要課題

 
可視化することにより、自社が存続する道筋の確認だけでなく、社会とどのように接合点を持ち、ポジティブなインパクトを創出する取り組みを実施できるのか議論する土台も明確化できるのである。

現在のESGでは、コーポレートサステナビリティ(自社の持続可能性)の中でも“E”(Environment=環境)と“G”(企業統治=Governance)に重視される傾向にある。自社はバランスよくできているか、抜け漏れている取り組みはないか、総点検するという意味でも、当フレームワークを活用する意義があるだろう。

(「ソーシャル・トランスフォーメーション実現に向けた公民連携の重要性 ~後編~」に続く)

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本連載「自治体Transformation~再考“自治体のあるべき姿”」のバックナンバー
第1回:いま求められる「自治体Transformationのカタチ」とは?

下條 美智子(しもじょう みちこ)さんのプロフィール

PwCコンサルティング合同会社 シニアマネージャー
社会課題の解決に関わるプロジェクトの立ち上げに参画。2017年にはPwC Japanグループ内のプロボノ活動を手掛け、活動の企画や運営、各種ソーシャルプロジェクトに従事。2019年には企業のソーシャルイノベーションを推進する「ソーシャル・インパクト・イニシアチブ」を発足し、リード。

犬飼 健一朗(いぬかい けんいちろう)さんのプロフィール

PwCコンサルティング合同会社 シニアアソシエイト
民間企業の新規事業・新業態開発を始め、業務効率改善や官公庁における事務局運営に従事。「ソーシャル・インパクト・イニシアチブ」と「次世代自治体推進プログラム」を発足し、ソーシャルインパクトマネジメント手法の開発、民間企業と地方自治体の協働を推進する地方創生を推進。