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心の安全運転に必要な“当たり前”のコントロール

    心の安全運転に必要な“当たり前”のコントロール

    【自治体通信Online 寄稿記事】
    自治体職員のための心の運転方法 #3(寝屋川市 職員・岡元 譲史)

    すべきことをしているのに住民からキツイ言葉で“貴重なご意見”を頂戴する…。こうした経験はありませんか!? 特におカネや健康がからむ場合、“ご意見”が大クレームに発展、メンタルがやられてしまいそうになることも珍しくはありません。行政職員として直面しがちなこうした場面、あなたならどうしますか?

    “当たり前”についての知識不足で事故が起こる

    心の運転方法、第3回のテーマは“当たり前”について。心の安全運転にとって必要なお話なので、しっかり最後までお付き合いくださいね。

    雪国にお住まいの方は冬の時期、タイヤをスタッドレスタイヤ(冬用)に交換すると思います。これは、その地域の方にとって「冬の道路は凍結するから滑りやすい」ということが“当たり前”だから。

    しかしながら、知識のない方にとって、それは“当たり前”のものではなく、ノーマルタイヤで雪道を走ってスリップするような事故が起こります。そのようなニュースを見た場合、知識のある人達からすれば、「なんで、そんな無謀なことをするのかな」と思われるのではないでしょうか。

    心の運転においても、これと同様のことが起きます。例えば、滞納整理の窓口は基本的にストレスフルな現場です。「滞納している」ということは、「お金がない」「困っている」ということですから、相談に来られる滞納者は不安や葛藤、恥じらいといった負の感情を抱えている場合がほとんどです。感情の起伏が激しかったり、逆に無感情の状態になっていたりと、発出される態度は千差万別ですが、「良好な状態」であることは珍しい。

    結果として、職員に対して攻撃的・反抗的な態度を取ったり、一般的には「暴言」「罵声」に分類されるような言葉を感情任せにぶつけてきたりするわけです。これが、滞納整理現場においての“当たり前”です。

    この“当たり前”を事前に知っているか知らないかで、結果は雲泥の差が出ます。冒頭に例示したように実際の車の運転では事故に繋がり命を落とす危険性がありますが、心の運転においては思わぬ暴言や罵声を受け、心に不調をきたしてしまう危険性があります。「心の事故」といって差し支えないでしょう。

    従って、はじめて滞納整理に携わる方には「こんなことを言う人がいるけど、お金に困っていて精神的に不安定な状態だから、そういう言葉が出てしまうのも仕方ないよね」と事前知識を提供してあげることで、「滞納者からの罵声を真正面から全力で受け止める」といった無謀な行為を阻止することができます。

    “当たり前”のことに、人は感情を揺さぶられない

    「運転」繋がりで、電車を想像してみてください。日本の交通インフラは非常に優秀であり、分単位、いや秒単位のスケジュールで緻密に運行されています。従って、「予定通りに電車が来る」これが日本における“当たり前”なんですね。

    だから、人身事故や車両の不具合、天災などで電車が予定通りに来なかったら、乗客の感情は大きく揺さぶられます。駅のホームや改札で駅員さんにものすごい剣幕で罵声を浴びせるスーツ姿の男性、みなさんも見たことありますよね?

    一方、同じ電車でも、海外では「予定より数十分遅れる」といったことが常態化している国もあるようです。そうした国では「予定通りに電車が来ない」が“当たり前”なので、予定通りに電車が来なくても怒鳴り散らすような人は少ない。まったく同じ状況であっても、“当たり前”が違うと、人の反応は180度違うんですね。

    他の例を挙げましょう。常に行列のできるラーメン屋に並ぶ場合と、いつもは空いているはずのラーメン屋が行列だった場合、前者に比べて後者の方がイライラするはずです。なぜなら、前者は「並ぶのが当たり前」であるのに対し、後者は「並ばない(すぐに入れる)のが当たり前」だから。

    つまり、感情が揺さぶられるのは「想定と実際にギャップがある時」なんですね。そのギャップが大きければ大きいほど、感情の動きは激しくなります。

    私が滞納整理業務を担当した当初、すごく苦しかったのは、「市役所の仕事は感謝される仕事だ」と、プラスのフィードバックを期待していたにも関わらず、実際には罵声を浴びせられたから。まさに「天国から地獄」へのフリーフォール。それはもう相当なショックでした。

    “当たり前”をコントロールして、想定外を想定内へと変えよう

    事前にその仕事における“当たり前”の知識があり、想定していることが起きた場合、「驚き」はありません。そこにあるのは「確認」行為です。

    「なるほど、先輩が言ってたとおりだ。本当に『お前ら、税金で飯食ってるくせに』とか言う人がいるんだな」

    こんな具合で、しっかり準備した上で臨めば、多少のダメージはあるかもしれませんが、大事故にはなりません。

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    “当たり前”の知識が大事故を防ぐ

    私は、このように事前に集めた知識やこれまでの経験に基づいて自分自身の想定を調整することを「“当たり前”をコントロールする」と表現しています。この「“当たり前”のコントロール」は非常に汎用性の高い便利な考え方で、職種や公私を問わず、様々な場面で応用可能です。以下にいくつか例を挙げてみましょう。

    「滞納整理の窓口では怒鳴られて当たり前」
     ⇒ 怒鳴られても驚くことなく対応できる。

    「営業は、断られるのが当たり前」
     ⇒ 断わられることに怯えるのではなく、「よし、今日は50社に断わられるぞ!」と行動することで成績に繋がる。

    「手術の際に、血管を切れば血が出るのは当たり前」
     ⇒ 「ちょっとこれ、血が出たんですけど~」なんて焦ることなく冷静に対応し、無事に手術を終えることができる。

    「〇〇さんは『お前、頭悪いんか』等、こちらが傷つくような言葉を『おはよう』ぐらい当たり前に使う」
     ⇒ 人によって言葉の軽重は違う。自分の中で「頭悪い」を「おはよう」に変換して、いちいち傷つかない。

    このように捉えると、仕事における成長とは「想定外を想定内へと変えること」―別の言い方をすれば、「“当たり前”の水準が上がること」と言えるかもしれません。

    知識を増やし、経験を重ねることで様々なことが想定内に変わり、いちいち驚くことなく平常心でパフォーマンスを発揮できる。世間で「達人」と呼ばれるような方は自信に満ち溢れていて、安定感がありますよね。

    皆さんもどうか“当たり前”をコントロールして平常心を保ち、事故を起こすことなく安全な心のドライブを楽しんでくださいね。

    次回は、「心のエアバッグ」についてお話します。お楽しみに!

    (「心にいつもエアバッグを~ほめる達人という生き方のススメ」に続く)

    《お知らせ》
    本連載執筆者・岡元譲史さんの「出版記念オンラインセミナー」が開催されます。
    2021年5月に発刊された岡元さんの初めての著書『現場のプロがやさしく書いた自治体の滞納整理術』(学陽書房)の出版を記念した無料オンラインセミナーです(主催・岡元譲史出版記念セミナー実行委員会)。

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    今や、滞納整理の第一人者として研修を開催し、北海道から沖縄まで日本全国で延べ3,700名が参加する人気講師でもある岡元さんが、自著のポイントについてわかりやすく解説します。
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    ※書籍をお持ちでない方もご参加いただけます。
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    詳細および申し込みはコチラ
    https://sites.google.com/view/okamotojyoji/home

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    自治体通信への取材のご依頼はこちら

    岡元 譲史(おかもと じょうじ)さんのプロフィール
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    寝屋川市(大阪)経営企画部 企画四課 課長代理 兼係長
    1983年生まれ。2006年に同市入庁後、12年間にわたり、様々な債権の滞納整理に従事し、市税滞納額70%(約25億円)削減に貢献。2020年より現職。
    「滞納整理に価値を見出して伝えることで、受講者の不安や葛藤を取り除く」という独自スタイルによる研修を全国で実施し、6年間で延べ3,700人が参加。受講者が給食費の滞納ゼロを達成するなど、すぐに使えて再現性の高いノウハウを伝えている。
    執筆に「滞納整理のための空地・空家対策」(『税』2018年2月号)など。
    「地方公務員が本当にすごい! と思う地方公務員アワード2018」受賞。
    プライベートでは2男児の父。PTA会長を務めるなど地域の活動も行う。
    2021年5月21日に『現場のプロがやさしく書いた 自治体の滞納整理術』(学陽書房)を刊行。同書の印税は「全額、寝屋川市の発展のために使う」としている。
    <連絡先>okamoto.joji@city.neyagawa.osaka.jp

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