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《“公務員のキャリアデザイン”の視点で捉えると…》希望が叶っても叶わなくても~自己申告の意味とは~

    《“公務員のキャリアデザイン”の視点で捉えると…》希望が叶っても叶わなくても~自己申告の意味とは~

    【自治体通信Online 寄稿記事】
    これからの時代の公務員が「幸せ」になる働き方 #12(さいたま市職員・島田正樹)

    自治体職員の秋と言えば、違う部署への異動希望を「出す?」「出さない?」で庁内がザワザワする「自己申告」の季節。やりたかった仕事に携われるかもしれないチャンス到来のはずなのに「どうせ…」と秋風のように冷めた気持ちなっていませんか? しかし「公務員のキャリアデザイン」の考え方で捉え直すと、なかなか希望どおりにはいかない自己申告は、実は公務員人生をより充実させるための貴重な機会。今回は悲喜こもごもの自己申告を少しいつもとは違った視点で再考してみます。

    自己申告とは

    「自己申告」とは、次年度どんな部署でどんな仕事をしたいのかを、組織に対して意思表明する機会です。

    組織によって呼び方や方法は様々のようですが、私の勤め先では「自己申告書」という書類を書いて人事に提出します。そこには自分に適性があると思う業務の種類や保有する資格、そして異動を希望するかどうかと希望する異動先などを記載する欄があります。

    団体によっては書類の提出はなく上司との面談で伝えることもあったり、書類と面談と両方がある場合もあったり、任意なのか必須なのかといった違いもあるようです。

    似たような制度がある自治体の多くは、ちょうどこれからの季節、秋から冬にかけて書類を提出したり面談を実施したりするのではないでしょうか。

    今回の記事では、次の異動の希望について組織に伝える「自己申告」について考えてみたいと思います。

    自己申告の季節が到来!

    どうせ希望は叶わない?

    自己申告の話になると決まって出てくるのが「提出してもどうせ希望は叶わない」という言葉です。中には「単なるガス抜きで最初から希望を叶えるつもりなんてない」とか「希望を出すと、逆に絶対行きたくない部署に異動させられる」なんていう都市伝説のようなことを言うひともいます。

    真偽のほどは分かりません。

    ただ、組織が自己申告の制度で私たちの異動希望などを把握しようとするのは、希望を叶えるためではありません。その目的は、あくまで組織内で最適な配置を考える材料を集めることのはず。

    かなり単純化して表現しますが、産業振興課のベテラン係員がそこでそのまま係長になれば、その係には中堅~ベテラン係員の空席ができます。同じタイミングで、他の課の中堅~ベテランの職員から「産業振興課に異動したい」という希望があれば、人事はその職員を産業振興課に異動させるかもしれません。組織の都合と当事者の希望が重なりますから、結果的に「希望が叶った」ことになります。

    実際には、その当事者のこれまでの職歴や能力、周囲との相性、成長への期待等、様々な要素が関係するので、異動を決める事情はもっと複雑なはずです。もちろんそこには、その部署への異動を希望している職員なら高いモチベーションで働いてくれるだろうという期待や、職員のエンゲージメント向上といった狙いがある場合もあるでしょう。

    一方で、これまでの経験や資格、興味関心などの情報を参考にして、希望とは異なる部署への異動が決まることもあります。

    いずれにしても、そもそも自己申告は私たちの希望を叶えるための制度ではなく、組織がより成果を上げられるような職員配置を実現するための情報収集が目的であることは理解しておいて損はありません。

    異動希望を出すか、出さないか

    「それなら異動希望を出したって意味がない」

    そう思うひともいるかもしれません。異動希望を出す「意味」を希望が叶うか否かで評価すれば、そのとおりです。

    ただ、キャリアデザインという観点で考えると、希望が叶うかどうかだけが異動希望を出す意味ではありません。ここでは主な3つの意味についてお伝えします。

    1.自分のキャリアについて考える機会
    異動希望だけではありませんが、自己申告ではこれまで携わってきた仕事について振り返ったり、希望する異動先との親和性などを伝えるために自分の関心やスキルについて整理したりします。
    日常の仕事に追われていると、なかなか自分のキャリアについて考える機会はありません。改めて「私ってこんな仕事をしてきたんだな」「こんなことに興味があるんだな」「こんなことが得意かもしれない」といったことを考えることで、自分の仕事の意味に気付けたり、目の前の仕事へのモチベーションが向上したりといった意味があります。
    2.組織内の様々な部署の仕事について知る機会
    異動を希望するかどうか、希望するとしたらどの部署への異動を希望するか考えるためには、組織内のそれぞれの部署がどんな仕事をしているのか知る必要があります。たとえ、希望する部署へ異動できなかったとしても、組織内の各部署がどんな仕事をしているのか知ることは、日々の業務でも大変有効です。
    いつか異動したいと思うのであれば、その部署へ異動するためにどんな経験やスキルを得ることが有利になるのかといった観点で、主体的に経験を選択することにもつながります。
    3.他者の評価による想定外の経験へのきっかけ
    希望する異動先だけではなく、自分の経験や関心の分野、スキルなどについても伝えることができる自己申告。そこに書かれた情報から、組織は本人が希望していない部署への異動を決めることがあります。それは人事担当者から見て、異動を希望しなかったけれどその部署で活躍してくれるに違いないという期待の現れです。
    最初は不本意に感じても、その異動が自分では想定していなかった関心に気付けたり新しい強みを手に入れるチャンスになることがあります。

    不本意なところでこそ

    上述の「3. 他者の評価による想定外の経験へのきっかけ」で、希望していない部署への異動を「組織の期待かもしれない」とお伝えしました。

    株式会社リクルートで開発された「will/can/mustのフレームワーク」という自分のキャリアについて考える際に用いるフレームワークがあります。will(やりたいこと)とcan(できること)とmust(求められること)が重なるところに「やりがい」があるというものです。

    株式会社リクルートホールディングス「Annual Report 2016」(https://recruit-holdings.com/ja/assets/pdf/annual/2016/annual_2016_jp_all.pdf)等を参考に自治体通信Onlineにて作成

    希望の異動先を考えるとき、私たちはwillとcanを中心に考えがちですが、実際の人事異動では、組織はmustとcanを中心に考えているはずです。

    もし組織が福祉課への異動を求めるのなら、本人にとって福祉課はmustとcanが重なる部署なのかもしれません。そうだとしたら、福祉課の仕事の中に自分でwillを見出し、組織が認めるmust/canと重ねることができれば、やりがいを感じながら働けることにならないでしょうか?

    そのためにも自己申告などのタイミングで、自分がどんなことに興味があるのか、どんな役割なら自分らしく働けるのかといったことを理解しておくことは重要です。そういう意味でも、仮に希望がかなわなくても、不本意な異動であったとしても、自己申告の際に自分のキャリアについて考えておくことには意味があるのです。

    それに、自分が想定していなかったような部署に異動したときほど、知らなかった制度や社会課題と向き合い、それまで接点のなかった内部外部の関係者と知り合い、必要に迫られて新しいスキルを身に付けるなど、自分自身のキャリアの可能性を広げることがあります。

    不本意な異動であっても、そこには必ず何かしらの価値と意味があるはずなのです。

    キャリアデザインを考える機会に

    自己申告は組織と職員のコミュニケーションツール―。

    私はそんなふうに考えています。

    コミュニケーションによって組織と職員が相互に理解が深まることで、組織にとっては効果的な人員配置が実現でき、職員にとってはモチベーションと満足度が高まる。そのための重要なツールが自己申告制度なのです。

    その制度を有効に活用するカギは、私たち職員が自分自身のことを知ることです。

    この「自分自身のことを知る」ことが、異動の希望が叶うかどうかよりも重要なのではないかというのが、キャリアコンサルタントとしての私が考える自己申告制度の意味であり価値です。

    自己申告を「自分を知る鏡」として活用してみては?

    希望の部署への異動が叶うことも大切ですが、この記事でもお伝えしたように「組織が有効に機能する人員の配置の実現」という組織としての目的があります。そのため、実際に希望が叶うことはそれほど多くないかもしれません。

    それよりも毎年1回、この自己申告の時期は自分のキャリアについて考える時期と位置づけて、異動の希望が叶えば「ラッキー」、希望が叶わなくても「キャリアの可能性が広がった」と捉えておくのがいいのではないでしょうか。

    (続く)

    《自己申告に関するイベントのお知らせ》
    ~公務員限定対話型イベント~
    「自己申告」からキャリアを考える 2022
    2022年11月19日(土曜日)
    参加費無料

    本連載『これからの時代の公務員が「幸せ」になる働き方』を執筆している島田正樹さんら現役公務員でありながら国家資格キャリアコンサルタントとして活動している皆さんでつくる「公務員キャリアコンサルタント有志の会」が公務員限定対話型イベント「『自己申告』からキャリアを考える 2022」を開催します。
    自己申告について日頃考えていることを語り合い、その意味を捉え直す対話型のイベントです。

    【日時】11月19日(土)14時~16時30分(定員:30名)

    【場所】オンライン(zoomを想定)

    【対象】国家公務員・地方公務員・その他公的機関職員
    ※人事担当者向けの内容ではありません

    【参加費】無料

    【プログラム(予定)

    1. ミニ講義「自己申告とキャリアデザイン」(岡田淳志さん=市役所職員)
    2. 参加者同士の対話(ブレイクアウトルーム)
    3. 対話の内容の全体共有
    4. 振り返り
    5. 個別キャリア相談(希望者のみ/事前予約制)

    ※ お申込みは下記URLから
    https://jikoshinkoku2022ccpss.peatix.com/

    以下のいずれかに当てはまる方は、きっと得るものがあるはずです。
    • これから春までに自己申告のタイミングがある
    • 自己申告について職場ではなかなか相談できない
    • 自己申告で何を伝えたらいいのか分からない
    • 自己申告やキャリアについて自分の考え方を更新したい
    • これからのキャリアについてちゃんと考えたい

     ★ 本連載の記事一覧

    自治体通信への取材依頼はこちら

    ■ 島田 正樹(しまだ まさき)さんのプロフィール

    2005年、さいたま市役所に入庁。内閣府・内閣官房派遣中に技師としてのキャリアに悩んだ経験から、業務外で公務員のキャリア自律を支援する活動をはじめる。それがきっかけとなり、NPO法人 二枚目の名刺への参画、地域コミュニティの活動、ワークショップデザイナーなど、「公務員ポートフォリオワーカー」として、パラレルキャリアに精力的に取り組む。
    また、これらの活動や、公務員としての働き方などについてnote「島田正樹|公務員ポートフォリオワーカー」で発信するとともに、地方自治体の研修や「自治体総合フェア」等イベントでの講演を行う。2021年に国家資格キャリアコンサルタントの資格を取得し、個別のキャリア相談にも対応している。
    『月刊ガバナンス』(ぎょうせい)や『公務員試験受験ジャーナル』(実務教育出版)をはじめ、雑誌やウェブメディア等への寄稿実績多数。ミッションは「個人のWill(やりたい)を資源に、よりよい社会・地域を実現する」。目標はフリーランスの公務員になること。
    2021年2月に『仕事の楽しさは自分でつくる! 公務員の働き方デザイン』(学陽書房)を刊行。
    <連絡先>shimada10708@gmail.com

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