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《住民の考え方や地域の姿も変わる!》効率化の“その先”にある自治体DXの本丸

    《住民の考え方や地域の姿も変わる!》効率化の“その先”にある自治体DXの本丸

    【自治体通信Online 寄稿記事】
    自治体DXを本気で考えている職員さんに読んでほしい話。#4
    (xID株式会社 執行役員 官民共創推進室長/元静岡県庁 職員・加藤 俊介)

    前回は、電子申請や電子図書館サービスを例にあげながらデジタルの世界に「境界」がないことをお伝えしました。例にあげたこれらのサービスは、便利さや効率性の向上が見込め、行政のデジタル化としては着手がしやすいものです(参照記事:《なくすべき線引き、引くべき一線》実務で役立つ『デジタルの境界』の話)。住民目線でも、手続きのためにわざわざ役所窓口に行かなくてよくなるのでどんどん進めて欲しいもの。しかし“自治体DXの本丸”はそこではないようです。では、どこなのかと言うと…。

    自治体DXとは何か?

    DX(デジタル・トランスフォーメーション)には様々な説明がありますが、デジタル技術の活用により、ビジネスモデルや企業風土までも変えてしまうものとされます。また、組織のコア業務をデジタル化するのがDXというのも分かりやすい説明です。

    では、自治体のコア業務とは何でしょうか? 自治体の業務は非常に多岐に渡っているため、「コア業務」は特定しにくいかもしれません。そこで、自治体という組織の「目的」と目的達成のための「手段」を確認することで「自治体のコア業務とは何か」という設問の解を探ってみましょう。

    自治体の目的は地方自治法を参照するまでもなく、住民の生活をよりよくすること。そして、その目的を達成するためには、住民の意見を政策に反映することや、住民の意見を聞きながら行政サービスを改善することが必要です。

    これが「自治体のコア業務」の要素と言って差し支えないでしょう。

    私は現在、ソフトウェアを提供するベンチャー企業にいますが、プロダクトを提供して終わりではなく、ユーザーのフィードバックを受けながら改善をしていくことの重要性を非常に強く感じています。ユーザーに求められていないサービスは存続ができないからです。

    行政も本質は同じだろうと思います。住民の意見を聞きながら行政サービスを改善し、また住民と共に街のこれからをどのようにしていくのかを考えることが求められます。

    全国には様々な自治体があります。ニーズや優先順位は地域・住民それぞれで異なるため、広く住民の声を拾い、政策に反映するプロセスが必要です。自治体は税の徴収による予算制度をとっている点からも、民主的なプロセスを経ることは民間企業以上に重要と言えます。

    「効率」から「質」へ

    本当にインパクトのあるデジタル化、DXの本丸はこの住民と自治体の関係性の領域であり、「効率」ではなく、「質」を変えうるデジタル化だろうと思います。

    しかしながら、私も行政での勤務経験があり、行政の計画策定や住民参加の取組みにも関わったことがありますが、住民の意見を政策やサービスに反映させることは、とても難しいことです。

    日々の生活や仕事で忙しい住民の多くは、なかなか地域や市政に関心を持ち行動をするのは困難です。住民参加の場に出向いたり、意見を言う方は住民全体からしたらごくわずか。意見をもらっても自治体側はそれが住民の総意なのか、一個人の事情なのか判断ができないことも少なくないでしょう。

    他方、住民は意見を言ってもそれが反映されない(反映されていても気が付けない)のであれば、行動を起こすこともなくなってしまうでしょう。このような悪循環が住民と行政の関係性の中にはあるのではないかと考えます。

    住民と行政の関係・コミュニケーションの課題としては、以下のようなものが挙げられます。

    • 住民参加の場があっても、日中働いている人などは中々参加できない
    • 住民はそもそも情報が入手できておらず、市政への関心が薄い
    • 意見を言ってもそれが反映されない。反映されているのかが分からない
    • 住民の意見が可視化されていないため、課題として顕在化しにくい

    参加型合意形成プラットフォームが生み出す変化

    世界には前述の課題を「参加型合意形成プラットフォーム」というデジタルの力で解決しようとする動きがあります。その代表例として、Decidim(デシディム)、Liqlid(リクリッド)を紹介しましょう。

    Decidimは、スペインのバルセロナで生まれたオープンソースの市民参加プラットフォームで世界に広がっています。本家のバルセロナでは市民の70%以上が登録し、市民からの政策提案が集まっているようです。

    日本では兵庫県加古川市が国内自治体としては初めて導入し、スマートシティの構想策定や住民が利用する施設の愛称検討などに活用されています(脚注1)
     (脚注1)加古川市 市民参加型合意形成プラットフォーム=https://kakogawa.diycities.jp/?locale=ja

    Liqlidは日本のベンチャー企業Liquitous(リキタス)が開発したプラットフォームで、神奈川県鎌倉市(脚注2)や高知県日高村など自治体への導入も拡大しています。アイデアをカタチにしていくプロセスに重点が置かれており、投票権の委任などユニークな仕組みも目指されています。
    (脚注2)鎌倉市スマートシティ 令和 4 年度事業計画=https://www.city.kamakura.kanagawa.jp/smartcity/documents/03keikaku.pdf

    DecidimもLiqlidもデジタルのプラットフォームでありながら、現実の取組みとの融合を前提とした設計になっていることも注目です。今後、オンラインとオフラインをつなぐコーディネーターのような人も重要になってくると考えます。

    “その人自身”が変わっていく!

    自治体において、電子申請など「効率」を高めるデジタル化の導入は進みつつあります。今後は、紹介したようなデジタルツールを活用して「質」や「関係性」の変化が生まれてくると予想します。

    デジタル技術を使った自治体と住民、住民相互のコミュニケーションの過程で、住民自身の考え方や地域との関わり方が変わっていくようになるのではないかと考えます。これはデジタル技術によって、便利さを享受するに留まらず、その人自身が変わっていくことを意味する大きな変化です。

    (「《住民を巻き込む自治体DX事例》自治体DXの本丸へどう切り込むべきか」に続く)

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    ■ 加藤 俊介(かとう しゅんすけ)さんのプロフィール

    xID株式会社 執行役員 官民共創推進室長/元静岡県庁 職員
    公共政策学修士。静岡県庁職員として実務経験後、デロイトトーマツにて自治体向けコンサルティングに多数従事。自治体マネジメントに関わる分野を専門とし、計画策定、行政改革、BPR等に加えシェアリングエコノミーなど新領域開拓も経験。xID参加後は、官民共創推進室長として、自治体向け戦略策定、官民を跨ぐ新規事業開発を担当。現在は住民へ確実に届くデジタル通知サービス“SmartPOST”を推進。兵庫県三田市スマートシティアドバイザー。
    <Twitter>加藤俊介@xID:@ShunsukeKato_
    <連絡先>info@xid.inc

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