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【自治体職員は変われるのか?】「公務員は保守的」だからこそ大きな変革パワーをもっている

    【自治体職員は変われるのか?】「公務員は保守的」だからこそ大きな変革パワーをもっている

    【自治体通信Online 寄稿記事】
    我らはまちのエバンジェリスト #6(福岡市 職員・今村 寛)

    自治体運営のことを市民に知ってもらい、理解してもらい、共感してもらい、自治体と市民との「対話」の橋を架ける“まちのエバンジェリスト(伝道師)”。こうした新たな役割を自治体職員が担うためには、旧来の“殻”を破り、市民に対して「対話」と「自己開示」をすることが必要です。しかし、とかく保守的とされる自治体職員が、どうやって…? 今回は「保守的とされる公務員」だからこそ持っている大きな変革パワーについて。

    公務員は「対話」が苦手

    よりよい自治体運営のためには市民の行政運営リテラシー向上を図ることが必要で、それは行政運営の実務を担いその実情が最もよくわかっている自治体職員が行うことが望ましいのではないか。これが私の問題意識の根本です。

    しかし私たち自治体職員は「対話」が苦手です。

    自治体職員が「対話」が苦手で縦割りやたらいまわしが横行する理由として、市民が期待する無謬性や公平性について過剰に反応し恐れていること、また生真面目な気質が災いし、自分の頭で納得しないと動かない強い自我が形成されていることが挙げられます。

    失敗したくない。
    リスクを取りたくない。
    無用な批判を浴びたくない。

    自治体職員の多くは保守的で腰が重く、改善改革の必要性やその手法を理解していたとしても、なかなか能動的に動かないという特性があります。

    とはいえ、もともと給料や昇任のインセンティブがなくても自分が担当している業務をより領域拡大し市民サービスの向上を図りたいと考える自治体職員の強い自我、使命感が、多岐にわたる自治体業務を安定的に遂行する機能の根幹。

    公務員は雇用が安定しているため、身分や給与水準によるモチベーションの付与が難しい職種ですが、だからと言って自分が楽をしたいという利己的な理由で、日々の業務をよりよくしていくことや市民福祉を向上させ、未来に夢の持てるまちづくりを進めることを怠る職員ばかりではありません。

    ほとんどの職員は職務に忠実で、与えられた仕事はきっちりこなす優等生です。

    この真面目さ、自我の強さ、責任感を生かしつつ、これからの自治体運営に不可欠な「対話」の促進や「行政運営リテラシーの向上」に向け、新たな一歩を踏み出すことに躊躇する多くの保守的な公務員の背中をどうすれば押すことができるのでしょうか。

    始める勇気は危機感からくる衝動

    私自身、対話の魅力に取りつかれ、財政出前講座を引っ提げて全国各地を回り続けてもう9年になりますが、その始めの一歩は私が財政課長の時に抱いた危機感でした。

    きっかけは市長が全職員に禁酒令を出すという前代未聞の事態に我を忘れて衝動的に始めたオフサイトミーティング。

    市職員としてこの事態をどう受け止めるべきなのか、改めるべき組織風土や職員の気質などについて語り合い、建設的な意見ばかりではなく、不安や不満も入り混じる本音の「対話」が1か月続き、そこから得られたのは禁酒令の是非や不祥事防止のための処方箋ではなく、「職場を離れて集まって話すのって楽しいね」という「対話」の喜びでした。

    危機的な財源不足を埋めるために全職員の理解と協力が不可欠と感じて始めた職員向け財政出前講座も同じです。

    厳しい財政状況を職員一人ひとりが理解し、財政健全化を自分ごととして考え、自律的に行動してほしいという気持ちだけで、ある意味衝動的に財政課長自らが立場の鎧を脱いで各職場に出向くという前例のない行動に私を駆り立てたのは、私ひとりでこの状況を変えられるはずがないという無力感と、それでもこの状況をなんとかしなければいけないという責任感だけでした。

    始める勇気は危機感からくる衝動。

    続ける情熱は他人からの評価と称賛。

    そして継続することそのものが力を与えてくれます。

    危機感に駆り立てられ、後先考えずに衝動的に始めるというのは、思慮深い自治体職員諸氏にはあまりお勧めできないことかもしれません。

    しかし、この衝動こそが私の公務員としての殻を破る力を与えてくれました。

    仕事を変える公務員の対話も、市民の行政運営リテラシー向上のための自己開示も、それが良い行いであれば必ず評価され、称賛されるはず。

    それがわかっていて最初の一歩が踏み出せないのは、一歩踏み出す勇気を生む、現状に対する危機感と、それを歓迎し礼賛する市民の存在についての確証が足りないということかもしれません。

    みんなで渡れば怖くない

    すでにそれぞれの危機感や衝動に駆られ、公務員の立場の鎧を脱ぎ捨てて組織の枠を飛び越え活動している公務員仲間も数多くいます。

    自分の仕事や組織のことを地域住民にわかりやすく説明し、また役所の外にある市民の声を拝聴しながら、対話をベースにしたまちづくりに公私の別なく勤しむ公務員の姿は私が市役所に入った30年前とは比較にならないくらい増えていますし、そうした公務員が全国各地で活躍する姿はインターネットの隆盛で可視化され、互いにその姿に勇気づけられ、力をもらい、励まし合い支え合う関係性となっていますし、役所の外からこれらの活動を眺め、従来のお役所のイメージではない、新しい公務員の姿を感じている市民も多数おられます。

    しかしながら周りを見渡すと、対話する公務員、行政運営リテラシー向上のために自己開示できる自治体職員が大多数を占めるのはまだ先の話。

    私たちお役所文化に「対話」が根付くには、今いる保守的な公務員がそっくり入れ替わるまで待つ必要があるのでしょうか。

    いや、私は保守的な公務員だからこそ期待できることがあると思っています。

    保守的な公務員は横並びが大好きです。

    「周りがやっていることはやる」「決まったことはやり続ける」という特性。

    これは、うまくいかないというリスクを回避するとともに、なぜやるのか(やらないのか)を説明する手間を省きたいという思考パターンで、現状からの変革を求める場合には障壁となる性質です。

    逆に周りがやりだすと「なぜ自分だけやらないのか」という理屈が立ちにくくなり、周りに合わせるために、ある意味盲従的になってでも自己変革に乗り出すという面白い性質でもあります。

    「対話」や「自己開示」といっためんどくさいことでも、みんながやっていればやるようになるし、それが社会のルールとして定着すれば当たり前のように標準装備できるようになる。それが真面目で責任感の強い、保守的な公務員の未来の姿になっていくのでないか。私はそう思うのです。

    「対話」の時代が来る

    役所に「対話」や「自己開示」が標準装備される時代が来る。

    そのため必要なのは、変革の必要性を感じた公務員がそれぞれ自分の感じる危機感や変革意欲に応じて自分の殻を破ること。

    あわせて、周囲がその行動に賛同できるのであれば同じ行動をとることができなくても歓迎賛同の意を陰ながらでも示し伝えること。

    その積み重ねで少しずつ実際に公務員の職場風土や仕事のやり方、市民との関係性が変わり、世間が公務員に対して持つイメージが変化していくその先には、「周りがやっているから」と将棋倒しのように雪崩を打って「対話」や「自己開示」を始め、それが組織文化として定着する世の中がくるのではないか。

    楽観的な私はそんな風に思うのです。

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    保守的な自治体職員も自ら“殻”を破れる時がきっと来る…

    ただひとつ気をつけたいのは、「周りがやっているから」という理由の消極性。

    「対話」は単なる雑談ではなく、また今まで物事を決める時に通常行う議論とも異なります。

    対話は、先入観を持たず、否定も断定もしないで相手の思いを「聴く」ことと、自分自身の立場の鎧を脱ぎ、心を開いて自分の思いを「語る」ことで構成されています。

    「対話」は、互いの人格に優劣がないものと認めあい、その意見、主張にも優劣がないという前提で先入観を持たずに拝聴しあうという人間尊重の思想をベースにした、人として当然に行うべき倫理的なふるまいです。

    その根本理念をおろそかにして形だけ模倣してしまえば、そこで行われる「対話」なるものの価値は失われてしまいます。

    「対話」という言葉が持てはやされはじめ、その魅力に多くの人が気づき始めた今こそ、その意義についてしっかりと掘り下げ、その価値を損なわないように、大切にしながら丁寧に広めていくことが必要だと思っています。

    (「【財政課と対話していますか?】お金がない地方自治体に必要なもの」に続く)

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    今村 寛(いまむら ひろし)さんのプロフィール

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    福岡市 教育委員会 総務部長
    1991年福岡市役所入庁。2012年より福岡市職員有志による『「明日晴れるかな」福岡市のこれからを考えるオフサイトミーティング』を主宰し、約9年間で200回以上開催。職場や立場を離れた自由な対話の場づくりを進めている。
    また、2012年から4年間務めた財政調整課長の経験を元に、地方自治体の財政運営について自治体職員や市民向けに語る「出張財政出前講座」を出講。「ビルド&スクラップ型財政の伝道師」として全国を飛び回る。
    好きなものは妻とハワイと美味しいもの。2021年より現職。
    著書に『自治体の“台所”事情~“財政が厳しい”ってどういうこと?』(ぎょうせい)、『「対話」で変える公務員の仕事~自治体職員の「対話力」が未来を拓く』(公職研)がある。財政担当者としての経験をもとに役所や公務員について情報発信するnote「自治体財政よもやま話」を更新中。

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