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最強のコンテンツは「その地域で光り輝く人」

    【自治体通信Online 寄稿連載】あなたの街の地方創生は順調ですか?⑤(関東学院大学准教授・牧瀬 稔)

    前回に引き続き、地方創生支援で多様な実績がある読売広告社の専門家3名に地方創生の施策や取組みを効果的に進めるポイントを取材したインタビューの後編。首都圏に地方の魅力をアピールする方法論を取材しました。本連載の執筆者である関東学院大学法学部の牧瀬稔准教授のゼミ生5名が“若者世代”の視点で聞き、牧瀬准教授が監修しました。

    【目次】
    ■ 地方の価値を首都圏に伝える
    ■ 豊かさを“ストーリー”に
    ■ 「当たり前」を掘り起こす

    地方の価値を首都圏に伝える

    ―地方創生において学生にできることはありますか。

    1つ目に、実際にその土地に足を運んでみることです。学生は社会人に比べて時間があると思います。

    2つ目に、現地で地方の魅力を学び、気がついた魅力を自分の言葉で友達に話すことやSNSなどを使って発信していくことが結果的に地方創生に役立つのではないでしょうか。

    また、学生にしかできないこととして、就職先の候補にその地域を含めることがあるでしょう。魅力を感じた地域で働く、もしくはその地域に関与する仕事に就くことを自分の選択肢にいれるということは、学生ならではだと思います。

    ―地方圏でも首都圏にまさる可能性を持つもの、反対に首都圏にあって地方圏にないものは何でしょう?

    前提として、地方圏よりも首都圏の方がまさっているという考え方は間違いです。

    たとえば、地方圏には首都圏にはない人のあたたかさ、素材、食などの魅力がたくさんあります。平均賃金は首都圏と比べて低いかもしれませんが、幸福度が高いのが地方の魅力です。

    しかし、一点だけ首都圏がまさっているものがあります。それは「仕事」です。地方圏に比べて首都圏の方が働く場所、就職先は圧倒的に多いです。

    地方に多種多様な仕事が生まれ、首都圏にその情報が伝われば、地方に移住定住する魅力がもっと伝わっていくと思います。

    豊かさを“ストーリー”に

    ―首都圏の住民に「地方圏に行きたい」と思ってもらうためには、どのような周知や発信方法があるでしょうか。

    先ほども述べましたが、前提として、地方圏にはとても豊かな資源があり、心が豊かになる魅力があります。その地方に首都圏から移住定住してもらうためには、仕事があることが重要で、地方自治体はその地域の仕事について首都圏の人々に発信することが大切になってきます。

    当社には2つの実績があります。1つ目は、つがる市のメロンに特化したアンテナショップです。ここでは、首都圏に拠点を置き、就農促進という、地方で農業をする人を集めるための取り組みをしています。 (参照: 地方創生の効果を上げる“4つのノウハウ” )

    2つ目は、平塚市での取り組みで、地元の人々に平塚市でお気に入りのところの写真をSNSで投稿してもらいます。これにより、市⺠にとっても地元の魅力の再確認となり、市外から平塚市に訪れた人に対しても「再び訪れよう」と思ってもらえるきっかけとなります。

    他にも、仕事と定住を結びつける実績があります。それが⻄条市(愛媛)のIターンUターンを増やそうという取り組みです。

    Iターンで大阪から家族で移住し、蕎⻨屋を開いた方がいます。その方の蕎⻨屋は、今では⻄条市に行ったら絶対に訪れるべき蕎⻨屋と言われるほど有名になりました。その方にIターンのきっかけや、きれいなことで有名な⻄条市の水を使った蕎麦についてなどを取材。それをニュースリリースとして発信することでマスメディアがそれをネタに記事が書けるような仕組みにしています。

    旅行、食、水、田舎暮らしなど、それぞれのテーマに応じてメディアが取り上げることで、切り口は違っていても西条市でIターンUターンをして働く人々がメディアで紹介されます。これまで、10人以上に取材をしていて、「LOVE SAIJO」というサイトでその情報を見ることができます。
    (参照:「LOVE SAIJO」のサイト)

    「LOVE SAIJO」のトップページ
    「LOVE SAIJO」のトップページ

    実際に西条市で働く人々の情報に触れ、「この人達は楽しそうだ」「豊かだ」「環境がいい」というようなことが知れ渡ると、移住に興味がある方は西条市を移住先の選択肢に考えてくれるかもしれません。また、⻄条市出身の人は、すでに多くの方がUターンをしているなら自分も戻って仕事をしてみようと思うかもしれません。

    つまり、単に就職情報や移住定住の支援情報を発信するだけでなく、実際にIターンやUターンを行い、その地域で仕事をすることで、光り輝いている人を紹介することにより、移住を考えている人に⻄条市も候補地のひとつに入れてもらいやすくしています。

    「当たり前」を掘り起こす

    ―地方都市や地方自治体がブランディングを推進するにあたって大切なことは何でしょうか。

    ブランディング推進の前段階に、住んでいる人、住んでいない人を含め、その都市がどういう都市であるのかをイメージし、違いを理解してもらうことが必要です。そのための手法としてシビックプライドという考え方が重要だと考えています。

    シビックプライドとは、人々が都市(まち)に対して持つ誇りや愛着を意味する言葉です。

    まちの人がシビックプライドのような気持ちを持って、まちに対して積極的に関与することが大切で、それが出来ない限りブランディングはきちんと成功しないのではないでしょうか。

    当社の取り組みの一例として、戸田市(埼玉)とシビックプライドに関する協定を結び「シビックプライドワークショップ」を開催しました。ワークショップという形で市民同士が対話を行いながら、まちの未来や理想の戸田市をレゴブロックで作成して発表してもらい、作品を市役所に展示したり、映像をつくり、あちこちで流しました。こうした取組みを通じて市民の方にシビックプライドを認識してもらうための支援を行っています。

    ―どんな地方都市でもブランディングは可能でしょうか。

    基本的に可能であるはずだと思っています。そのまちならではの良さや魅力について、住んでいる人達が「当たり前」だと考えていて、気づいていないケースが多いからです。それをベースにそのまちをブランド化し、シビックプライドのようなことを掘り起こすことは可能です。

    それを例えば、我々がお手伝い、もしくは市民の人たちの目線でいろいろと見てもらうことによって、そのタネを発掘してどんどん「見える化」していくことで、そのエリアできちんと特性を発揮できるような都市にしていくことは可能ではないかと考えています。

    ブランディングには、差別化できるものなら何でも向いています。それが、その地域独自のものならなおさら良いでしょう。

    ※それぞれの「学生の視点」はコチラ

    本連載「あなたの街の地方創生は順調ですか?」バックナンバー

    第1回 意外と曖昧な「地方創生」の定義とは
    第2回 「公民連携」が規模に左右されない強い自治体をつくる
    第3回 第2期地方創生では「人口縮小との共生」が不可避
    第4回 地方創生の効果を上げる“4つのノウハウ”

    読売広告社の概要
    1946年設立、現在業界第2位の広告会社グループ。日本を中心に海外にも拠点を置いている。特色ある部門として、地方創生に取り組む「ひとまちみらい研究センター」、広告会社流モノづくりを行う「次世代ものづくり研究所」、都市×生活者のマーケティングを行う「都市生活研究所」がある。

    牧瀬 稔(まきせ みのる)さんのプロフィール

    法政大学大学院人間社会研究科博士課程修了。民間シンクタンク、横須賀市都市政策研究所(横須賀市役所)、公益財団法人 日本都市センター研究室(総務省外郭団体)、一般財団法人 地域開発研究所(国土交通省外郭団体)を経て、2017年4月より関東学院大学法学部地域創生学科准教授。現在、社会情報大学院大学特任教授、東京大学高齢社会研究機構客員研究員、沖縄大学地域研究所特別研究員等を兼ねる。
    北上市、中野市、日光市、戸田市、春日部市、東大和市、新宿区、東大阪市、西条市などの政策アドバイザー、厚木市自治基本条例推進委員会委員(会長)、相模原市緑区区民会議委員(会長)、厚生労働省「地域包括マッチング事業」委員会委員、スポーツ庁参事官付技術審査委員会技術審査専門員などを歴任。
    「シティプロモーションとシビックプライド事業の実践」(東京法令出版)、「共感される政策をデザインする」(同)、「地域創生を成功させた20の方法」(秀和システム)など、自治体関連の著書多数。
    牧瀬稔研究室  https://makise.biz/

    学生の視点

    齋藤洋香(法学部地域創生学科3年)  このインタビューは、自分の価値観や考え方を見直すきっかけとなりました。地方創生にはさまざまな視点で物事を考えることが大切です。主観的にならないように改めて自分の考えを見直そうと思いました。
    越達哉(法学部地域創生学科3年) インタビューを通して地方創生のひとつのアプローチの仕方を学べました。大学生のうちにいろいろなところへ行き、それぞれの地域のよさ、課題などを探せる目を養っていきたいと感じました。
    峰尾涼(法学部地域創生学科3年)  インタビューを通じて、まちの魅力を知ってもらうため、外の人を呼び込むためには、まず市民が誇りや愛着を持った上で積極的に取り組むことがとても重要であることがよくわかりました。
    柴田亜実 (法学部地域創生学科2年)  今回の記事のライティングに携わりました。私は地方圏が首都圏に劣っているという固定観念を外して、地方圏の魅力を引き出せるよう勉強していきたいと思いました。
    鈴木海人(法学部法学科2年)  記事制作に関わったことで、大学生にも地方のために働く方法があることがわかりました。

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