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地方公共団体の民間委託|事例から見る失敗と課題とは【自治体事例の教科書】

地方公共団体の民間委託|事例から見る失敗と課題とは【自治体事例の教科書】
<目次>

地方公共団体の民間委託は、成功からだけでなく過去の失敗事例から課題や対処法を学べます。民間委託の事例や効果、失敗事例を詳しく知りたい方も多いことでしょう。なかには、十分な効果が得られないケースや住民訴訟に発展したケースもあります。

ここでは、地方公共団体における民間委託例と失敗例について解説していますので、課題や対策の発見に役立ててみてください。

1.地方公共団体における民間委託例:千葉県市川市

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千葉県市川市では、「市川駅行政サービスセンター」に業務の委託をしています。民間委託に至った背景には、次のようなものがあります。

  • 経費削減のため外部発注可能な業務は委託する方針が出ていた
  • 市川駅行政サービスセンター設置当時に市でコストカットを進めていて配置する職員の採用、割当が困難だった
  • 市川駅前再開発事業のサービスセンター準備室によって委託の検討が進められていた

このように、経費削減や利便性向上などを目的として民間委託を行っています。

委託内容

千葉県市川市の市川駅行政サービスセンターへの民間委託の内容は、次のとおりです。

  • 住民異動届
  • 住民票の写し等の交付
  • 戸籍の附票の写しの交付
  • 戸籍謄抄本等の交付
  • 印鑑登録
  • 印鑑登録証明書の交付
  • 転入(転居)者への転入学期日及び就学すべき小・中学校の通知
  • 妊娠届の受付及び母子健康手帳の交付 など

委託先の行政サービスセンターでは、適正な請負を目指す取り組みとして、パーテーションで職員と受託者の執務スペースを区分して指示体制の明確化を図っています。窓口においても、職員または受託者が対応するものを区別しており、請け負った業務を契約の相手方から独立して処理することが可能です。

また、誤交付を防ぐために整理券の確認や申請者の氏名確認、証明内容を申請者に対して復唱するなどの取り組みも行っています。個人情報保護に関する情報共有のために、責任者・社員も参加する朝礼も実施しています。

委託による効果

千葉県市川市の民間委託によって、市民の利便性向上と経費削減の効果が得られています。

委託対象施設である市川駅行政サービスセンターの開所時間は、平日8時45分~20時(11時間15分)、土曜日8時45分~17時(8時間15分)となっており、行政機関よりも長時間の受付が可能です。仕事で忙しい方でも、平日の仕事帰りや土曜日にさまざまな手続きができるようになっています。

利便性が向上したことで、本庁・支所の窓口業務処理件数が減少し、業務負担を軽減できています。また、委託前と比べて約2割の経費削減効果が算出されるなど、民間委託の効果が表れているといえるでしょう。

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2.地方公共団体における民間委託例:福岡県篠栗町

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福岡県篠栗町では、総合保健福祉センターや児童館3施設、小中学校5校、総合センター、総合運動公園など多くの施設を対象として民間委託しています。

民間委託に至った背景には、次のような理由があります。

  • 雇用事務や契約事務等の軽減
  • 人件費や教育コストなどの行政コスト削減
  • 新たな行政課題への対応など人材の有効活用
  • 住民サービスの向上

このような課題を解消すべく、窓口・課に関わらず横断的に業務を委託できる包括民間委託を導入しています。

委託内容

福岡県篠栗町の民間委託内容は、次のとおりです。

  • 住民異動届
  • 住民票の写し等の交付
  • 国民健康保険関係
  • 国民年金関係
  • 児童手当の各種請求書・届出書の受付
  • 賦課事務補助
  • 介護保険関係
  • 障害福祉関係 など

他にも、庁舎代表電話の受付及び交換や、町立図書館の運営に関する業務及び各種行事の開催、児童館(3館)運営業務及び放課後児童クラブ指導員業務など、総務課や住民課、こども育成課、税務課、福祉課の業務が包括民間委託の対象となっています。

委託による効果

福岡県篠栗町の民間委託によって、事務の効率化による業務負担の軽減、効率的な人員配置などの効果が得られています。勤怠管理や募集など雇用事務が効率化され、契約の一本化によって事務の軽減が実現できています。業務量に応じた効率的な人員配置により、新たな行政課題への対応が可能です。

また、民間のノウハウを導入し、1度で申請などの処理を完結できるレイアウトと専門窓口課によるサービス向上で、住民の利便性も高まっています。

3.地方公共団体における民間委託例:熊本県山鹿市

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熊本県山鹿市では、市民サービスの向上や行政コストの削減を目的として、市民課窓口業務の民間委託を行っています。

民間委託の際、申請書をどこまで記入させて他課へ引き継ぐか事前に取り決め、請求書の記載内容や本人確認書類などのチェックリストの作成をすることで、窓口業務を標準化して効率的な業務移行を実現しています。

委託内容

熊本県山鹿市の民間委託内容は、次のとおりです。

  • 住民異動届
  • 住民票の写し等の交付
  • 戸籍の附票の写しの交付
  • 地方税法に関する各種証明書等の交付
  • 戸籍謄抄本等の交付
  • 住民異動に伴う転入出等の通知
  • 埋葬・火葬許可に関すること
  • 自動車臨時運行許可に関すること
  • 印鑑登録
  • 印鑑登録証明書の交付
  • 行政証明書の交付
  • 個人番号カード・通知カードの各種申請及び届け出受付 など

市民課の多くの業務が委託されています。また、個人情報保護の対策として、次の取り組みを行っています。

  • 受託者による個人情報保護自己点検表
  • 対象者のみが結果表示される検索ルール
  • 立ち入りスペースの制限
  • 個人情報保護に関する誓約書や研修の実施
委託による効果

民間委託をしたことで、フロアマネージャー設置や申請書等の記載補助員を常設でき市民サービス向上につながっています。

また、業務の効率化や受託者側の柔軟な人員配置により、繁忙期の職員の負荷が緩和されました。職員数も削減され、委託前と比べて市民サービスの向上と行政コスト削減の効果が表れています。

4.地方公共団体における民間委託例:千葉県船橋市

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千葉県船橋市は、国民健康保険課と児童家庭課の窓口業務を民間委託しています。船橋市の国民健康保険課は、勤務時間内の対応が忙しく非定型的業務を時間外に行う状況になっていました。

また、児童家庭課では児童手当や子ども医療費助成制度等の拡大によって、大幅な業務量の増加が予想される状況であり、これらの問題を解消するために民間委託を行う必要がありました。

委託内容

千葉県船橋市の民間委託内容は、次のとおりです。

  • 国民健康保険関係
  • 児童手当等の各種請求書・届出書の入力等事務処理

このように、船橋市では国民健康保険課と児童家庭課の業務を委託しています。

適正な請負を目指すために、受託者のネックストラップの色を役職で分け、視覚的に明確に区別しています。また、職員と受託者の混在を防止し、業務履行場所を独立させるために児童家庭課の受給者情報の入力・書類の不備確認等の業務は、個室で受託者のみで対応しています。

委託による効果

船橋市は国民健康保険課の業務を委託したことで、市民サービスが向上して満足度が高くなったことがアンケートで確認されています。職員の超過勤務時間が削減(平成24年度:1万6525時間→平成26年度:1万3147時間)されたことでワークライフバランスも向上しています。

また、児童家庭課では、業務量の増加に対しても、職員の人員増なく安定的に業務ができているなどの効果が出ています。

地方公共団体の民間委託の失敗例

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地方公共団体の民間委託は成功ばかりではありません。十分な効果が得られない委託もあれば、住民訴訟に発展したケースもあります。また、雇い止めが発生して裁判で認められた事例もあります。

ここでは、地方公共団体の民間委託への理解を深めるため、東京都足立区の戸籍窓口等と図書館の失敗例について見ていきましょう。

東京都足立区:戸籍窓口等

東京都足立区は、住民サービスの向上とコスト削減を目的として、戸籍窓口等の窓口業務を「富士ゼロックスシステム株式会社」に委託していました。

しかし、この民間委託では次のような問題が生じます。

  • 戸籍には多くのプライバシー情報が記載されており、受託業者に流出する危険性
  • 待ち時間増加などのサービス低下による地方自治法第2条違反(14項、15項)
  • 権限のある職員が審査をする前に受理決定入力をしたり、窓口で受理せず住民を帰らせたりしていた
  • 請負契約であるにも関わらず、足立区が富士ゼロックスに指揮・命令することになっていた

上記のような問題を抱えていたことから、2015年1月に足立区の住民が本件委託契約に基づいて支出された委託料の返還を求める住民訴訟を起こしています。

判決は原告らの請求を棄却するものでしたが、裁判運動の結果、委託業務の範囲は変更・縮小され、戸籍異動や入力・移記入力等の業務、戸籍の移動に伴う住民異動の受付・入力作業の業務などが直営に戻っています。

東京都足立区:図書館

東京都足立区の図書館では、コスト削減と住民サービスの向上を目的として図書館の民間委託をしていましたが、過去に2つの大きな問題が発生しています。

1つ目は、指定管理者制度を完全導入した後の2009年に起きた、指定管理者の企業と館長との問題です。館長はこれまでの区との契約を履行するため、小学校への出張読み聞かせなどの読書普及活動に力を入れていました。しかし、指定管理者となる企業からは出張読み聞かせなどの業務をやめるように言われます。企業側からすればコストがかかり、その分利益が減少してしまうためです。

館長は出張読み聞かせなどをやめますが、直後に契約期間満了を理由として退職を余儀なくされます。その後、団体交渉を試みるも企業側の姿勢は変わらなかったため、雇用継続を求めて裁判を起こし、早期の和解となりました。

2つ目は、図書館の蔵書2万冊に盗難防止シールを貼る作業を、就業時間後のタイムカードを押した後にやらせていたことです。1枚7円の出来高制で内職を強要され、時給換算すると180円程度でした。副館長が指定管理者に強く進言をしますが、意見は聞き入れられず、翌年度の契約更新は行われませんでした。

このように、指定管理者となった民間企業の方針に反すると雇い止めが起きるなどの問題が起きています。現在ではこのような大きな労働問題は確認されていないようですが、過去の失敗例として押さえておく必要があるでしょう。

まとめ

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千葉県市川市や船橋市、福岡県篠栗町や熊本県山鹿市のように、住民サービスの向上やコスト削減など一定の効果が得られた民間委託もあれば、住民訴訟に発展するなど失敗した委託もあります。

成功事例と失敗事例の両方を知ることで、民間委託の効果や課題などさまざまなことが学べます。他にもたくさんの地方公共団体の民間委託が実施されていますので、多くの事例に触れてみてください。

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