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ボストン コンサルティング Report~自治体の財務改善/業務効率化の実現

    ボストン コンサルティング Report~自治体の財務改善/業務効率化の実現

    【自治体通信Online 特別連載】次世代自治体経営のカタチ④

    これからの自治体経営のあり方について経営コンサルティングファームのボストン コンサルティング グループ(BCG)が考察する本連載の第4回は、自治体の財務改善・業務効率化の実現について。限られた行政リソースのもと、コロナ禍で加速する社会構造変革に対応し、自治体が地域の暮らしの質向上をけん引していくには財務改善と業務効率化と向き合うことが避けては通れません。その方法論とは? BCGの丹羽 恵久氏(マネージング・ディレクター&パートナー)と内田 康介氏(マネージング・ディレクター&パートナー)が徹底検証します。
    【目次】
    ■ なぜ今、自治体にとって『財務改善/業務効率化』が必要か
    ■ 財務改善/業務効率化に向けて考えるべきこと
    ■ 間接材の調達見直しに向けた4つのポイント
    ■ 『Quality of Satisfaction』の向上に向けた財務改善/業務効率化の必要性

    なぜ今、自治体にとって『財務改善/業務効率化』が必要か

    第2回で紹介したデジタルレジリエンス、第3回の教育イノベーションを含め、コロナ禍の中で自治体に対する住民やステークホルダーからの期待はより一層高まっている。
    (参照記事:第2回「基盤強化に向けたデジタルレジリエンスの構築」)
    https://www.jt-tsushin.jp/article/bcg-report_02/
    (参照記事:第3回「教育イノベーションを通じた地域社会におけるQOL向上」)
    https://www.jt-tsushin.jp/article/bcg-report_03/

    自治体は、このような社会構造の変化、住民のニーズや行動の変化、活用できる技術・リテラシーの進化を踏まえ、各種サービスの提供内容と方法を最適化する必要がある。

    一方で、自治体の財務状況を示す実質単年度収支を見ると、2018年度の都道府県別で約4割の19団体、市町村別では5割強の1,671団体が赤字となっている。

    また、財政構造の弾力性をみる経常収支比率で、90%未満は都道府県レベルでわずか1団体、市町村レベルでも約4割の715団体にとどまっている。地方自治体の財政は非常に厳しい状態にあると言えるだろう。

    このような状況でコストを下げること自体を目的としてしまうと、それならサービスのレベルを落としてもコストを優先させよう、という方向で議論が進んでしまい、現場のモチベーションの低下にもつながる。あくまでも住民の『Quality of Satisfaction』向上をめざし、そのために必要な原資捻出や業務の見直しという前向きな取り組みにする必要がある(図表1「財務改善/業務効率化の必要性」参照)

    Copyright©2020 by Boston Consulting Group.All rights reserved
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    財務改善/業務効率化に向けて考えるべきこと

    では、『Quality of Satisfaction』の向上のために、財務改善/業務効率化の観点では何をすべきか。ここで、ヒト・モノ・カネという切り口から考えてみたい。

    まず、ヒトについては職員の働き方改革があげられる。業務のリモート化やアジャイル化(機動性の高い働き方への進化)などが必要となる。

    次に、モノについては、サービス提供方法の見直しが考えられる。こちらは、従来の対面によるサービスだけではなく、広範にオンライン上でサービスを提供し、様々な手続きを完結させる仕組みが不可欠だ。

    この2つについては、デジタルレジリエンスについて述べた第2回をぜひご参照いただきたい。
    (参照記事:第2回「基盤強化に向けたデジタルレジリエンスの構築」)
    https://www.jt-tsushin.jp/article/bcg-report_02/

    最後にカネについて、各種補助金や扶助費関連は、サービス水準が決まっているものや、各自治体において政策的に提供水準を決めているものが多く、見直しは必ずしも容易ではない。

    一方で、いわゆる間接材の調達については、一定のノウハウに基づき、提供内容と調達状況の見直しを行うことが可能である。

    今回は、この間接材の調達に絞って、詳細を説明したい。

    間接材の調達見直しに向けた4つのポイント

    間接材の調達見直しに関しては、これまでも行ってきたという地方自治体も多いかと思う。しかし、抜本的な成果を出している例は限られている。

    これは、従来の業務の延長線上で検討を行っても、あるべき検討が十分にはなされず、結果、業者に対する単価引き下げ要望を伝えるにとどまる傾向があるためである。その場合、最終的に、大きな成果は期待しづらい。

    本来、考えるべきこととして、大きく次の4点が挙げられる。

    ① コストの見える化
    ② 徹底したベンチマーク
    ③ サービス水準の再定義
    ④ 継続的な見直しの仕組み

    (図表2「間接材の調達見直しに向けた4つのポイント」参照)

    Copyright©2020 by Boston Consulting Group.All rights reserved
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    ① コストの見える化

    契約内容を見ると、「数量×単価」にしっかりと落とし込まれていない、出精(しゅっせい)値引きによって詳細がわからない等、必ずしも実態が十分に見えない例が散見される。また、特にIT関連費用などは、様々な契約に横断する形で明示化されないまま盛り込まれている例もあり、実態の捕捉が難しくなっている。

    まずは、契約内容の内訳や詳細を確認し、場合によってはベンダー・提供元にその詳細を提出してもらい、何のために、いくらかかっているかを見える化することが必要となる。

    ② 徹底したベンチマーク

    「XX市様向けに特別値引きの価格です」と言われることがよくある。しかし、その値段は、本当に低い水準なのだろうか?

    弊社が間接材のコスト削減をお手伝いさせていただく際にも、大半のクライアントは、形上の見積もりはもらっていても、本当の意味で他社に出している価格水準との比較はできていない。

    身近なところでは、近隣の自治体との意見交換などを通じて、できるだけ比較対象となるベンチマークを入手するとよいだろう。

    また、必ずしも自治体向けだけではなく、公営企業、民間企業との比較も有用である。

    ③ サービス水準の再定義

    間接材の調達見直しをする際、よくある例は、トップからコスト削減を行うべしという指示が出たものの、何にどう手を付けていいかがわからず、ベンダーや調達先を呼んで値段を下げられないかと依頼した結果、次回契約から若干の単価の引き下げがなされたというものである。

    ただし、その代わりとして別の費目の費用が積まれたり、量が追加されたりし、数年経つと実は調達価格が上昇しているということもままある。

    単価の引き下げもさることながら、本来大事なのは、そもそもの業務内容の見直しである。例えば、清掃や警備などの委託費においては、当初契約を開始した頃に比べ、求める業務内容や水準が変わっているにもかかわらず、その点が全く見直されていないことも多々ある。

    特に、コロナ禍において住民の行動や意識が大きく変化する中では、何が必要かの再定義が不可欠と言えるだろう。費用対効果を踏まえ、あるべき提供水準と内容を最適化した上で、その調達価格(単価)の最適化を行う、という二段構えで検討すべきである。

    ④ 継続的な見直しの仕組み

    上記①~③を踏まえた見直しをしたとしても、その後5年、10年と続けて見直しを行わなければ、最適化すべき余地は再び大きくなる。そのため、一定の仕組み・フォーマットに基づき、定期的に見直しを行う仕組みを実装しておくことが必要である。

    例えば、住民向けサービスに直結するような費目(例:清掃費/警備費等)については、実際に住民や職員がどの程度利用したのか、その利用に際して満足度はどの程度だったかを合わせて調査、確認することで、設定した提供水準が妥当であったのかを検証し、その結果に基づいて調達内容を見直すという一連のプロセスを仕組み化しておくことが重要だ。

    同時に、関連サービス市場の動向を追跡することが必要となる。例えば、最近では、エネルギーの調達価格や携帯電話などの通信サービスの価格が今後大きく下がることが見込まれている。このような点も含め、対前年比だけでなく、そもそものあるべき水準に対して実際のサービスやその価格が妥当であるかを継続的に確認・検討するべきだろう(図表3「調達最適化を持続的に行う仕組み」参照)

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    『Quality of Satisfaction』の向上に向けた財務改善/業務効率化の必要性

    直近の新型コロナウイルス感染者数の増加状況も踏まえると、自治体にとって難しい局面は当面続くと考えられる。

    その中で、単にコスト削減自体を目的において取り組むことは、結果として住民やステークホルダーに対する提供サービスの質を下げることとなり、働く職員のモチベーションの低下にもつながる可能性がある。

    あくまでも目的は『Quality of Satisfaction』の向上であり、そのために必要な原資捻出としての財務改善/業務効率化であることをあらためて強調し、第4回の締めとさせていただきたい。

    (続く)

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    本連載「次世代自治体経営のカタチ」のバックナンバー
    第1回:アフターコロナを「地域の追い風」に変換する戦略と戦術
    https://www.jt-tsushin.jp/article/bcg-report_01/
    第2回:基盤強化に向けたデジタルレジリエンスの構築
    https://www.jt-tsushin.jp/article/bcg-report_02/
    第3回:教育イノベーションを通じた地域社会におけるQOL向上
    https://www.jt-tsushin.jp/article/bcg-report_03/

    お知らせ~「BCGが読む経営の論点2021」が刊行

    コロナ禍の下で加速する社会・経済や個人生活の構造変化に対応し、ビジネスをいかに進化させるか。「BCGが読む経営の論点2021」(日本経済新聞出版社刊)ではボストン コンサルティング グループが構造変化をチャンスとするための経営変革の4つの方向性を提示し、12の変革テーマについて論じます。企業向けですが、自治体の方々のヒントにもなる内容となっています。

    ~同書の主な内容~
    プロローグ
    競争力格差が広がる時代になすべきこと
    Chapter1
    不透明な経営環境への耐性を強める
    1 コロナ時代のコスト/キャッシュ・マネジメント
    2 サプライチェーンの持続可能性を高める
    3 シナリオ・プランニングの活用で事業ポートフォリオを進化させる
    Chapter2
    デジタル活用で企業内・企業間での協働を強める
    1 アジャイル@スケール――企業内の新しい連携のあり方を実現する
    2 エコシステムの構築により企業間連携を強める
    3 協働の基盤にデータ・AIを活用する
    Chapter3
    顧客との関係を進化させる
    1 ポストコロナにおいて顧客接点のあり方をE2Eで進化させる
    2 D2CとOMOで生活者との関係を再構築する
    3 デジタルチャネルにより企業顧客のニーズをつかむ
    Chapter4 イノベーションを実現する
    1 事業イノベーションを実現する―ヘルスケア分野の例
    2 ソーシャルイノベーションを実現する―教育分野の例
    3 大企業がイノベーション機能を獲得する

    丹羽 恵久(にわ・よしひさ)さんのプロフィール

    ボストン コンサルティング グループ マネージング・ディレクター&パートナー
    BCGパブリック・セクターグループの日本リーダー。中央官庁・自治体・スポーツ団体・NPOなどの組織、および通信・メディア・エンターテインメントなどの業界の企業に対して、成長戦略、デジタルサービス開発、組織変革、経営人材育成などのプロジェクトを手掛けている。
    慶應義塾大学経済学部卒業。国際協力銀行、欧州系コンサルティングファームを経て現在に至る。
    <連絡先>
    niwa.yoshihisa@bcg.com

    内田 康介(うちだ・こうすけ)さんのプロフィール

    ボストン コンサルティング グループ マネージング・ディレクター&パートナー
    BCGオペレーショングループの北東アジア地区リーダー。製造業、エネルギー業界を中心に、多くの業界にわたってオペレーション変革、(特にデジタルによる)トランスフォーメーション、新規事業構築等のプロジェクトを手掛けている。
    京都大学文学部卒業、コーネル大学経営学修士(MBA)。NTTコミュニケーションズ株式会社を経て現在に至る。
    <連絡先>
    uchida.kosuke@bcg.com

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