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ボストン コンサルティング Report~教育イノベーションを通じた地域社会におけるQOL向上

【自治体通信Online 特別連載】次世代自治体経営のカタチ③

ボストン コンサルティング Report~教育イノベーションを通じた地域社会におけるQOL向上

大きな社会的事変は常に社会的弱者に深刻な影響を与えます。新型コロナウイルス感染症拡大にともなう休校措置等により「教育を受ける権利」を充分に享受できなかった子どもたちも、その代表的なケースと言えるでしょう。これからの自治体経営のあり方について経営コンサルティングファームのボストン コンサルティング グループ(BCG)が考察する本連載の第3回は、同社が実施した独自調査結果に基づき、これからの教育の在り方と自治体の責務について、折茂 美保氏(マネージング・ディレクター&パートナー)と遠藤 英壽氏(プロジェクト・リーダー)が“地域社会の暮らしの質”という観点から検証します。
【目次】
■ 突如訪れた変化
■ 休校中の学びの状況
■ 新たな学び方に対する反応・評価
■ 教育イノベーションを通じた地域社会におけるQOL向上

突如訪れた変化

本連載の第2回「デジタルを活用したレジリエンスの構築」 では、未曽有の危機に対する最前線として多様な役割が期待されている自治体の運営基盤強化、高度化の方向性について述べた。

第3回となる今回は、コロナによりもたらされた「デジタル=社会・経済のオンライン化」や「ディスタンス=フィジカル空間における距離の確保」といった新たな要素を地域の人々のQOL向上にいかに役立てられるか、という問いに対して「教育」という切り口から論じさせていただきたい。

日本では、コロナ感染拡大の兆候が見られるようになった2020年2月末に政府が一斉休校を要請し、翌週3月2日から全自治体の小中高校が休校に入った。その後緊急事態宣言が発出され、およそ3ヵ月にわたり全国の大半の学校で休校が続いた。

本稿を執筆している8月中旬時点では、多くの学校が再開されているものの、感染再拡大によって再び休校となる可能性もある。

これはもちろん、日本に限った話ではない。爆発的な感染拡大が起きた4月までに世界194ヵ国で何らかの休校措置が取られ、15億人以上の学習者(全体の9割以上)が影響を受けたと言われている。

8月中旬時点では感染状況を見ながら学校を少しずつ再開するなどの措置が取られ始めているものの、依然として10億人以上の学習者が休校措置の影響を受けている。

教育という“地域社会のQOLの在り方”に突き付けられている課題とは…
教育という“地域社会のQOLの在り方”に突き付けられている課題とは…

休校中の学びの状況

突如訪れた「休校」という「学びの在り方」の根底を揺るがす急激な変化に対し、世界各国では国や自治体がオンライン教材を急ピッチで整備、提供したり、PC・タブレットやwifiの接続環境を提供したりと、「学びを止めない」ためのさまざまな措置を講じてこの難局に立ち向かってきた。

一方、日本の状況を見ると、この動きについていけていたとは言えないのではないか。

自治体や学校種別/学齢によっては、関係者の努力と工夫によりオンラインでの学びを迅速に整備したケースもある。しかし、休校措置を経験した保護者に対して私たちが行ったアンケートでも、大半の学校ではそのような対応が取れていなかったことが見えてきている

この調査では休校中の学びについて、以下のような状況が明らかになった。

● 休校中の学びの必須アイテムであるPC・タブレット等のICTデバイスについては、自身専用(家族との共有でない)のデバイスで勉強できていた児童・生徒は半数以下
● ICT環境の改善については、自治体や学校による支援も期待されたが、十分な支援があったと答えた保護者はわずか1割程度
●学習指導においても学校 (教員) がフォローをしきれず、保護者が指導していた割合が小学生では8割近く、中学生でも半数近く
● デジタル教材やリアルタイムでのオンライン授業は、各学齢でほぼ半数以上の家庭が何らかの形で経験
(下図参照)

全国の小中高の子どもを持つ保護者2,000名を対象に実施(2020年7月3日~6日)。休校下での学習の実態、およびわが子に対する教育への意識変化を調査した
全国の小中高の子どもを持つ保護者2,000名を対象に実施(2020年7月3日~6日)。休校下での学習の実態、およびわが子に対する教育への意識変化を調査した

新たな学び方に対する反応・評価

このように日本の多くの自治体は休校に際し「学びを止めない」ために十分な対応ができたとは言い難いが、一方で、休校はデジタル教材やリアルタイムでのオンライン授業等の新たな学び方を、多くの家庭が何らかの形で経験する機会となったとも言える。

以下、休校措置を通じて経験した新たな学びに対する、保護者/生徒/教師/自治体それぞれの反応を紹介する。

保護者
今回の調査では、保護者のうち実に8割以上が、何らかの形でICTを活用した学習を継続してほしい、と回答している。

また、「登校」というこれまで当然と考えられていた行動についても、意識の変容が起きつつあることが見て取れる。

コロナ終息後において過半数の保護者が登校を求める一方、3~4割の保護者が「学びの選択肢を増やし、学習の場を選択できることを希望」または「学びの選択肢を増やし、できるだけ登校しないことを希望」と回答した(下図参照)

ただし、保護者は新たな学びがICT一辺倒になることは求めていない。学習の個別最適化という観点では期待しているものの、コミュニケーション能力への影響、教育格差という観点では懸念を感じていることからそれが見て取れる(下図参照)

生徒
今回の休校措置で初めてデジタル教材に触れた、という児童や生徒も多い。私たちがプロジェクトに取り組むなかで聞こえてきた彼ら・彼女らからの声には、個別最適化された学習に対する期待と、学校ならではの役割の重要性を再認識したものがある

■個別最適化された学習への期待

●「わからないところは何度でも、わかっているところはスピードを上げて、という感じで、自分のペースで進めていけるのがとても良かった。今後も続けていきたい」
●「休校措置の間だけでなく、学校が再開されてからもデジタル教材は継続していきたい」

■学校ならではの役割

●「Zoomの朝の会で久しぶりに友達や先生の顔が見えて安心した。やっぱり、学校で友達に会えるのって楽しいと思った」
●「家で勉強していると、どうしても時間が不規則になってしまう。時間割があって、友達がいると良いと思う」

教師
ICT環境が十分に整っていないなか、休校措置に伴って新たな学び方を急ピッチで整える必要が出てきたことは、ただでさえ忙しく、また卒業・入学・進学シーズンにあった教師にとって、大きな試練となったことは想像に難くない。

このような状況下で「できない理由」を並べて結果として子どもたちの学びを止めることはある意味容易である。ただ、教師が自治体や教育委員会とタッグを組んで、「どうやったらできるのか」を模索し、工夫した地域もある。

たとえば、4月15日という早い段階で小中学校全学年におけるオンライン授業を実現した熊本市(熊本)では、ICT活用に慣れていない教師もいることを想定して、教育委員会が『オンライン授業のステップ』を5段階で明示し、オンライン授業の定義やイメージを共有してスモールステップで取り組めるようにした。これは、短期間で全学校・全学年でオンライン授業を開始できた好事例といえる。

これらの事例を見ていくと、当初及び腰だった教師達も、実際にICTを学習に活用する、という経験を通じてその可能性に開眼していった様子が見て取れる。こういった教師は「従前の学びに新たな学びをどう融合させていくか」という観点で、学校再開後も工夫を継続している。

自治体
それでは、自治体はどうか。

上述の通り、教師と連携して一枚岩となってこの状況に対応した自治体もある。

ただ、下記のような理由で十分に対応できなかったと考えている自治体も多いのではないだろうか。

「話が急すぎて、対応が間に合わない」
「短期間に対象者全員に公平な環境を整えることは難しい」
「教育の在り方自体に関わる問題なので、性急に動くことは望ましくない」

それは、前述の保護者へのアンケートにおいて、「自治体/学校から、休校期間中にICT環境整備への十分な支援を受けた」という回答がわずか1割だったことからもうかがえる。

教育イノベーションを通じた地域社会におけるQOL向上

これまで述べてきた通り、休校措置は保護者・生徒・教師それぞれにとって、従来の学びの在り方を根底から見直す契機となった。

この新たなウイルスとの戦いはまだ終わりが見えていない。ウィズ/アフターコロナの状況を踏まえ、学びの在り方に対する住民(特に保護者、生徒)ニーズは大きく変化していくと考えられる。

また、国レベルではGIGAスクール構想(下の囲み記事を参照)により2020年度末までに全小中学校で1人に1台学習者用端末を配備することを目指していることもあり、自治体にとっても大きな節目となるだろう。

~GIGAスクール構想~
Global and Innovation Gateway for Allの略。多様な子どもたちに最適化された学びや、創造性を育む学びに寄与すること等を目的に、小・中学校の児童、生徒に1人1台PCを実現することや全国の学校に高速大容量の通信ネットワークを完備することなどが盛り込まれた政策。令和元年度補正予算に2318億円、令和2年度補正予算に2292億円が計上された。

このような状況においては、国と足並みをそろえ、住民の新たなニーズを実現するための環境を整えていくことが自治体としての新たな責務ではないだろうか。

これは単に1人1台端末を配備して終わり、という話ではない。目指すべき「新たな学びの在り方」はどのようなもので、現状(例:地域の家庭におけるICT環境、学校/教員のICT活用可能レベル等)を踏まえたうえで必要な包括的な支援策(例:通信環境の整備、ICT支援員の配置等)はどのようなものかをしっかりと描き、国をはじめとする各種予算を活用しながら、それらの支援策の具体化に向けて動くことが必要である。

先の見通しが立ちにくく、状況も刻一刻と変わるなか、上記のような検討を行い、具体化することは決して容易なことではない。

しかしながら、自治体が国の未来をつくる子どもたちに最適な学びを提供し続けることで、子どもとその家族の幸せにつながり、地域社会全体としてのQOL向上を実現できる、と信じている。

(続く)

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本連載「次世代自治体経営のカタチ」のバックナンバー
第1回:アフターコロナを「地域の追い風」に変換する戦略と戦術
第2回:基盤強化に向けたデジタルレジリエンスの構築

折茂 美保(おりも・みほ)さんのプロフィール

ボストン コンサルティング グループ
マネージング・ディレクター&パートナー

BCG社会貢献グループの日本リーダー。教育分野のエキスパート。パブリック・セクターグループ、およびハイテク・メディア・通信グループのコアメンバー。
中央官庁や自治体向けの中期戦略の立案や実行支援の経験が豊富。
東京大学経済学部卒業、東京大学大学院学際情報学府修士、スタンフォード大学経営学修士(MBA)。
<連絡先>
orimo.miho@bcg.com

遠藤 英壽(えんどう・ひでとし)さんのプロフィール

ボストン コンサルティング グループ
プロジェクト・リーダー

教育分野や社会貢献活動関連、中央官庁や自治体とのプロジェクトに多く携わる。
早稲田大学商学部卒業。住友商事を経て現在に至る。
<連絡先>
endo.hidetoshi@bcg.com

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