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ただちに議論と準備を重ね“消滅の危機”を回避せよ

ただちに議論と準備を重ね“消滅の危機”を回避せよ

国と自治体の要職を務めた論客が語る行政のあるべき姿とは

ただちに議論と準備を重ね“消滅の危機”を回避せよ

元岩手県知事・元総務大臣 増田 寬也

2040年までに、全国896の自治体が消滅してしまう可能性がある―。民間の有識者らで構成されたシンクタンク「日本創成会議」が今年5月に公表したレポートは、各界に衝撃を与えた。日本創成会議の座長・増田氏は、かつて岩手県知事として改革の旗手を担い、総務大臣も務めた論客。国と地方それぞれの視点をもつ同氏に、レポートの詳細や自治体運営の要諦を聞いた。

※下記は自治体通信 Vol.1(2014年9月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

若年女性が半減することで 自治体の消滅が始まる

―増田さんは日本創成会議・座長の立場から、「2040年までに全国約1,800ある市区町村のうち、896が消滅する可能性がある」と発表しました。なぜそのようなことが起こりえるのでしょう。

 日本が「人口急減社会」になりつつあるからです。今後、人口は減少し続けます。それは避けられない。しかし、人口が急減すればレポート結果がより現実味を帯びるのです。
 原因は、若年女性が地方から都市部へ流出することによる人口の減少。2010年と比較して、2040年に20~30代の女性が半分以下に減る自治体が896にもおよぶ。出生率が下がり、自治体運営が立ちいかなくなるというわけです。

―自治体はどのような対策をとるべきでしょうか。

 まず、地方部が行うべきは若者の流出を防ぐこと。そのためには、魅力ある大学と卒業後も地元で働ける職場を創出する必要があります。アルバイトをしなくても学業に専念できる奨学金の整備、地元の企業と大学をつなげるなどの活動が求められるでしょう。
 一方、若者が流入する都市部は、若者が長く働ける仕事や保育所の数を増やすことで、安心して出産、子育てができる環境を整える必要などがあります。
 言うのは簡単ですが、実現にはさまざまな議論が必要ですし、ハードルも高い。さらに、高齢化問題も立ちはだかります。まずは、これらを将来起こりえる問題として据え置くのではなく、「本当に自治体が消滅する」という危機感をもって、いまから取り組む姿勢が必要なのです。


ただちに議論と準備を重ね“消滅の危機”を回避せよ
 

 

※下記は自治体通信 Vol.1(2014年9月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

「改革するんだ」という 共通認識をもつことが重要

―増田さんは岩手県知事に就任後、さまざまな改革に取り組んだ結果、プライマリーバランスの黒字化を達成しました。自治体改革を成功に導くひけつはなんでしょうか。

 首長だけでなく、職員も含めた全員が一丸となって積極的に改革に取り組むしかけをつくることです。
 自治体は、民間にたとえると独占企業。極端なことをいえば、「自治体がつぶれてしまう」といった危機感はありません。そのため、改革しようと働きかけても職員のモチベーションは上がらない。「改革、改革」とクチだけで言っても響かないのです。

―では、どうすればいいのでしょう。

改革することで、インセンティブが生まれるようにするのです。たとえば私が岩手県知事のとき、独自の方法で予算の見直しを行いました。 
通年であれば、同じようなところに予算がつき、あまり大きな見直しはされていませんでした。そこで、積極的に予算削減を実行した部局は高く評価。対価として、その部局で新規投資が必要な事業に対し、削減に成功した額より倍の予算を思い切ってつけるようにしたのです。 
部局は新事業がやりたくても、予算がなくてあきらめていることが多い。そこで、「新規事業に予算をつけますよ」というインセンティブを提供する。そうすればやればやっただけ成果を感じるようになり、職員のモチベーションが上がるのです。 
ただ、予算や補助金をなくすと、当然不平をいう人も出てきます。そのときは、トップである首長みずからが矢面に立って説得しなければいけません。そうすれば職員も安心して、改革に取り組める。お互いがそれぞれの立場で汗をかいて、「改革するんだ」という共通認識をもつ。これが大切なのです。

―ほかにポイントはありますか。

さまざまな改革を同時に行わないことです。「あれもこれも改革する」となると現場が混乱してしまいます。改革はシンプルでいい。「今期は残業を減らすために業務の配分を見直そう」と決めたら、それに集中する。そして、「1年間取り組む」と明確に終わりを区切って成果を検証し、次の1年はまた別の改革に取り組む。 
メリハリをつけることで改革の進捗状況も把握できるし、現場もやりやすい。選択と集中が重要なのです。

国民健康保険の負担が小規模自治体を直撃

―岩手県知事を退任後は、総務大臣も務めました。それらの経験をふまえ、自治体はどのように国とかかわっていけばいいと思いますか。

将来の行政を見すえ、柔軟に責任の所在をお互いに変えていくスタンスをとるべきでしょう。地方分権という名のもと、国が自治体にまかせ過ぎるのは問題です。 
たとえば、市区町村がいちばん苦労しているのは国民健康保険の負担です。低所得者の増加や人口減少により、支払う住民自体が減っている。結果、小規模な自治体を中心に財政基盤が崩れてきているんです。

―どのように打開すればいいのでしょう。

保険者を市区町村から都道府県に移すことです。より広域な自治体である都道府県が負担すれば、財政基盤は安定する。私が知事の時代にはこのような考え方は全国知事会のなかでも少数派でしたが、根気よく説きふせることで、現在は都道府県にまかせる流れになってきています。 
これまでは、国の権限をまずは都道府県に移し、それから各市区町村に移すという方針が主流でした。住民にいちばん近い立場にある市区町村に、権限を集めるほうがいいのでは、というわけです。しかし今後は、逆も考えたほうがいい。国民健康保険のように市区町村から都道府県に権限を移したり、場合によっては国が責任をもつ必要があるのです。あくまで個人の見解ですが、将来は介護保険事業を市区町村の共同事業にする必要があるのではと思っています。 
紋切り型で責任を割り振るのではなく、30~40年先をみこしたうえで案件ごとにフレキシブルに対応する。そのために、国と自治体が結託していかなければなりません。

説明するだけでなく納得してもらう心構えを

―よりよい自治体運営をめざす首長や職員の人たちにアドバイスをお願いします。

日々の運営で大切なのは、説明責任だけにとどまらず、きちんと理解してもらうための“説得責任”を果たすことです。 
民間の企業にたとえてみましょう。自社の商品やサービスがいかに優れていて、顧客に必要なモノであるかどうかをとことんアピール。十分納得してもらったうえで販売している企業であれば、業績は伸びているはずです。「競合他社に負けたくない」という気持ちがあれば、さらにそのアピールにも熱がこもるはずです。それが説得責任です。 
自治体はどうか。前に述べたとおり、自治体はいわば独占企業。危機意識が薄いため、住民に行政のサービスを説明する際にも画一的なマニュアル対応で終わりかねません。 
住民はもちろん、協力会社、部局内に対しても説得責任を果たすべきです。それには、納得できる根拠やデータの準備にくわえ、「隣の自治体に負けない」とライバル心を燃やすくらいの迫力がほしい。これは程度の差こそあれ、首長や職員にかかわらず大切な要素です。 
よりよい自治体サービスを住民に提供するために、迫力をともなって説得責任を果たす。個々がこの意識をもつことから、改革は始まっていくのです。

増田 寬也(ますだ ひろや)プロフィール

1951年、東京都生まれ。1977年に東京大学法学部を卒業後、建設省に入省。千葉県警察本部交通部交通指導課長、茨城県企画部鉄道交通課長、建設省河川局河川総務課企画官、建設省建設経済局建設業課紛争調整官を担当する。1995年、岩手県知事に初当選。以来、2007年の3期まで務める。2007年から2008年まで総務大臣を担当。2009年から、株式会社野村総合研究所の顧問、東京大学公共政策大学院客員教授に就任し、現在にいたる。2011年より、日本創成会議座長に。著書に『地域主催の近未来図』(朝日新書)、『「東北」共同体からの再生』(共著、藤原書店)、編著に『地方消滅~東京一極集中が招く人口急減~』(中央公論新社)などがある。