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外部の先進的なアイデアこそ、まちの持続的な発展を生み出す源泉

「公民連携」の経験を活かした紫波町の新たな挑戦

外部の先進的なアイデアこそ、まちの持続的な発展を生み出す源泉

紫波町長 熊谷 泉

※下記は自治体通信 Vol.44(2022年11月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。


「国の補助金に依存しない」をひとつのモットーに、平成21年から民間企業との公民連携を通じて中心部の再開発事業を推進してきた紫波町(岩手県)。人口3万人余りの自治体が、財政負担を抑えながら、まちのにぎわいを創出するこの取り組みは、「公民連携の成功事例」として注目を浴び、多くの自治体からの視察が今も絶えない。その紫波町が今、新たな挑戦を宣言している。町長の熊谷氏に、その挑戦の狙いや背景、今後の町政ビジョンなどについて聞いた。

Web3の発想や技術を、まちづくりに活かす

―紫波町では先ごろ、「Web3タウン」構想の推進を表明し、注目を集めました。それはどのような構想なのですか。

 「Web3」とは、「分散型インターネット」とも呼ばれる次世代のデジタル技術です。私自身も勉強中なのですが、従来のように特定の管理者がプラットフォームを管理するのではなく、ブロックチェーン技術を駆使してユーザー同士が直接つながり、データを管理したり、個人間でのコンテンツをやりとりしたりする世界だといいます。そこで生じる自由で多様な交流によって化学反応が起こり、新たなアイデアや価値が生み出される可能性が期待されています。そんなWeb3の発想や技術を、まちづくりに活かそうというのが「Web3タウン」構想です。

―具体的には、どういう施策が行われるのでしょう。

 たとえば、Web3の技術を活用して、国内外どこからでもまちづくりに参加できる分散型自立組織を仮想空間につくる。地域に制約されることなく、不特定多数の人々に紫波のまちづくりについて意見を発信してもらうのです。ある意味、関係人口を増やしていく。それも、紫波町に関心をもち、しかも多様な発想をもった人々からなる関係人口が、すごい数で増えてくるわけですから、面白いアイデアが出てくる可能性があります。そこではすでに、独自の地域仮想通貨を発行し、経済循環のハブになることで地域経済の活性化につなげるといったユニークなアイデアも生まれています。

生まれ変わった町有地が生む、年間約100万人の交流人口

―非常に先進的な構想だと思いますが、そうした発想が町政に盛り込まれた背景にはなにがあったのですか。

 背景には、「オガールプロジェクト」での経験があったと思っています。わずか3万人余りの地域が抱えていた、塩漬けの町有地10.7haの更地に、民間の資源とアイデアを取り入れることで、人が集い、稼ぐインフラを作り出すことができました。この民間主導の公民連携手法が、外部の進んだアイデアをまちづくりに活かすことの意味を町全体に植えつけたのは間違いありません。

 駅から延びるオガール広場を挟んだ両側に図書館ができ、町役場ができ、住宅ができ、年間にして約100万人の交流人口を生み出す土地に生まれ変わらせることができました。まさに、語源の「おがる=成長する」に相応しい姿で、それら施設が町の資産になったことが注目されがちです。しかし、公民連携という発想を役場も議会も学び、今ではまちづくりの際の基本的な手法として定着するまでに理解を深めていった。その経験自体が町にとっては、もっとも大きな財産だったと思っています。

―その経験が、「Web3タウン」構想を推進する素地になっているのですね。

 その通りです。庁内でこの構想を推進している現在の企画課長は、「オガールプロジェクト」の立ち上げ当時に東洋大学大学院に派遣され、公民連携を基礎の基礎から学んだ人物です。また、公民連携をめぐる事業スキームの立案や法的規制対応などについては、関係部署の職員も経験を重ね、その後の多くの公民連携事業や「Web3タウン」構想に活かしてくれています。こうした人材育成の重要性を踏まえ、当町ではこれまで、「ふるさと財団」(地域総合整備財団)に計4人の職員を派遣し、まちづくりの手法を学んでもらっています。

 学びを深めているのは職員だけではなく、議会も町民も公民連携事業について理解を深めているのが、大きな推進力になっています。

議会や町民への説明責任が、職員を育てる

―それはどういうことでしょう。

 やはり議員の方々は、まちづくりに対して特別の問題意識をもった人たちです。ですから、私がいつも職員に伝えているのは、「議員さんたちが理解できないことは、町民は決して理解できない」ということです。「オガールプロジェクト」の際には、前町長が2年間で約100回、地域での説明会を開き、事業はもとより、公民連携によるまちづくりのあり方について説明を重ね、町民の納得を勝ち得てきた経緯があります。単なる「議会対策」という文脈ではなく、事業を成功させるために欠かせない「町全体の応援」を得るために、議会への説明、ひいては町民への説明を大事にしています。また、その説明責任こそが職員を育てることにもつながっています。

―そうした経験は、その後具体的にどのような成果につながっていますか。

 たとえば、旧役場庁舎敷地の活用では、温浴施設「ひづめゆ」を中心とした複合施設が開業し、地域をつなぐ拠点として、コミュニティの重要な役割を担っています。これも、公募によって事業者選定を行った公民連携事業の一つです。また、閉校した小学校の建物と敷地の活用をめぐっては、新しい形の地方創生を目指し、現在、事業の実施に向けて取り組んでいます。具体的には、オガール社、吉本興業ホールディングスと協定を締結し、農業を中心とした取り組みにより新たな産業創出と地方創生を担う人材育成を図る「ノウルプロジェクト」を進めています。ほかにも、町内の酒造産業を活かした個性あふれるまちづくりの推進拠点「(仮称)酒の学校」として活用する予定もあります。今後も、給食センターや公民館など老朽化施設の建て替え問題が控えていますが、そこでも公民連携の経験を活かし、持続可能な財政運営を追求していく考えです。

現場に出て、五感で課題に向き合え

―多くの民間企業が紫波町に集まってくる。その理由はなんですか。

 紫波町となら面白いこと、新しいことができる、と感じてもらえているのだと思います。職員も全員が経験を通して、外部のアイデアを町政に取り込むことの意義を良く理解しています。だから、動きが速い。民間との打ち合わせがあると、翌日には必ず私に話が上がってきます。この動きの速さは、「ほかの自治体とは違う」と、よく言っていただけます。私も職員には常日頃、「現場に出て、感性を磨くように」と伝えています。現場に出て、五感で課題に向き合えば、デスクトップの中では見えないものが見えてきますから。

熊谷 泉 (くまがい いずみ) プロフィール
昭和22年、岩手県紫波町生まれ。岩手大学農学部を卒業後、昭和46年に家畜医院を開業。平成11年、有限会社熊谷牧場代表取締役に就任。紫波町議会議員、岩手県議会議員を経て、平成26年の紫波町長選で初当選。現在3期目。前町長時代から取り組んできた公民連携によるまちづくりを推進。持続可能な行財政運営に注力している。