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登庁初日に7時間の激論。職員3名を味方にしたんです

登庁初日に7時間の激論。職員3名を味方にしたんです

「改革派知事」の草分けが語る行政刷新の要諦

登庁初日に7時間の激論。職員3名を味方にしたんです

元・三重県知事 早稲田大学/名誉教授・マニフェスト研究所顧問 北川 正恭

かつて流行語となった「マニフェスト」。数値目標・財源・達成までの期間を明示する選挙公約が、再び脚光を浴びている。少子高齢化と低成長のなか、住民に「予算をどの政策につかうのか」を選んでもらうことが、より必要だからだ。そこで提唱者であり、三重県知事として行政改革に腕をふるった北川氏に、マニフェストを地方創生に活かすための要諦を聞いた。

※下記は自治体通信 Vol.09(2017年7月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

「政務活動費の増額を」地方議員が公約に掲げる

―平成28年11月、北川さんが審査委員長の「第11回マニフェスト大賞」が発表されました。応募件数が過去最高だったそうですね。

 ええ、2500件を超える応募が集まりました。いま「マニフェスト」は空前の盛り上がりをみせています。

 わかりやすい例をあげると、地方議会選挙で政党や議員が掲げるマニフェストが変わりました。「議員の定数を減らします」「議員報酬をカットします」「政務活動費を減額します」。従来は、こんなマニフェストが多かった。具体的な数字が入っていれば、一見、マニフェストとしてすぐれていそうです。でも、「身を切る覚悟」を示すことで、有権者の情に訴えて当選しようとしている点では、「住民へのお願い」型選挙の域を出ていない。

 それに、議員の政務活動費を減らしたところで、自治体全体の支出に与える影響は微々たるもの。住民税が安くなるわけでもない。

―確かに。では、最近はどんな公約を掲げるようになったのでしょう。

「政務活動費を増額します」と。それによって、たとえば行政のムダを徹底的に洗い出して、大きな支出削減につなげる。あるいは、海外の先進的な事例を調査して、よりよい政策を立案する。より「住民との契約」型選挙に近づくという意味で、すぐれたマニフェストといえます。

テクノロジーの進歩がデモクラシーを変える

―なぜ、マニフェストが再び脚光を浴びているのですか。

 3つの背景があります。「ローカル」「ネット」「18歳」。ひとつずつ説明しましょう。

 まず「ローカル」。私がマニフェストを提唱した大きな背景に、「高度成長の時代は財源が豊かで、“あれもこれも”と、多くの住民のニーズにこたえられた。しかしいまは低成長の時代。住民に“あれかこれか”選んでもらわなくてはならない。政治もそれに対応したものに進化しなくては」ということがありました。

 それがいまや低成長どころか無成長・マイナス成長の時代。私がマニフェストを提唱したとき以上に、「限られた予算をなにに使うのか。なにに使わないのか」ということの重要性は高まっています。人口減少によって消滅の可能性さえリアルに語られる自治体ではなおさらです。そこで「ローカル・マニフェスト」に注目が集まっているのです。

―2つ目の「ネット」とマニフェストの関係を教えてください。

 ネットを使えば、住民が「マニフェストを知る」「マニフェストに自分の要望を反映する」「マニフェストを比較する」「実行できているかをチェックする」などを、より簡単にできます。そのため、マニフェストがより身近になってきたわけです。テクノロジーの進歩とともに、デモクラシーも進歩していくのです。

―なるほど。3つ目の「18歳」について解説をお願いします。

「政治はよくわからない。わからないから投票しない」。多くの有権者にみられる態度で、若い人たちにはとりわけ多い。18歳・19歳が有権者にくわわったことで、数字と文字で、わかりやすく約束するマニフェストが、その層の関心を呼び起こすツールとして注目されているわけです。

知事としての業務時間の4分の3を対話につかった 

―すぐれたマニフェストを掲げて当選した首長でも、行政を刷新するのは簡単ではないと思います。北川さんが知事として多くの実績をあげられた理由はなんですか。

 ダイアローグです。私は知事時代、職員との対話に業務時間の4分の3をついやしました。2期8年間務めあげた後、ある人が試算してくれたんです。「とにかく対話しよう」という姿勢でいましたから。その手はじめが、じつは知事としての登庁初日でした。

 その日、企画部門の職員3名が知事室にやってきた。そして、県がこれまで進めてきた改革の内容を説明しはじめたんです。知事選で私はさまざまな改革を公約に掲げていました。それで“現実”を教えようというわけでしょう。

 それに対して、私は一つひとつ反論した。「これは住民のためになってないじゃないか。これは不徹底じゃないか」と。職員も優秀な人たちですから、応戦してくる。でも、私には改革への覚悟がありました。だから絶対にゆずらない。ずっと平行線でしたね。

―それで、どうしたのですか。

 そのうち、職員から「知事、本日の退庁時間後にもう少しお話しできませんか」といってきた。そこで午後5時から午前0時ぐらいまで、議論を続けました。

 その結果、最後には「知事のお説に従います」と。その3名が、私にとって改革への最初の味方になったのです。

―職員にもこれまでやってきたことへのプライドがあると思います。それを変える改革に、どうやって同意をとりつけたのでしょう。

 納得するというより、あきらめるんです。私が絶対にゆずらないから。これは、職員のもつプライドと、私のもつ覚悟との戦い。

 たとえば、私が進めた「事務事業評価」の導入。職員からすれば、これまでは規程通りに業務を遂行していれば評価されたのが、業務の「成果」によって評価されるようになる。私自ら職員に対して説明したんですが、自治労の調査で「8割の県職員が反対している」という結果。その調査結果をもってきた職員に、「なるほど、1回での説明会で2割が賛成か。ならば、あと4回やれば全員が賛成するわけか」といいました。あきれられましたね。でも、4回どころか、賛成多数になるまで、説明を繰り返しましたよ。

民間企業の仕事を経験し職員が「経営品質」を意識

―職員に理解してもらうために、ほかになにか手を打ちましたか。

 民間企業に職員を送り込んで、短期間そこでの仕事を経験してもらいました。リコーとかアサヒビールとか。

 戻ってくると「ウチももっと経営品質を高めないと」などと、発言が変わってきます。民間企業のやり方や考え方を学ぶことは、行政改革に不可欠です。

北川 正恭(きたがわ まさやす)プロフィール

昭和19年、三重県生まれ。早稲田大学商学部卒業後、東京での会社勤めを経て、昭和47年に三重県議会議員に当選(連続3期)。昭和58年に衆議院議員に当選(連続4期)。平成7年、三重県知事に当選(連続2期)。「改革派知事」のひとりとして、事務事業評価システムの導入や原子力発電所計画の白紙撤回、産業廃棄物税の導入などを実現。平成15年、「ローカル・マニフェスト」の導入を提唱。自身は多選の弊害を理由に知事を退任したが、同年の衆議院選挙で各党がマニフェストを作成、同年末に「マニフェスト」は「新語・流行語大賞」に。平成18年から「マニフェスト大賞」を開催。平成27年から早稲田大学名誉教授、早稲田大学マニフェスト研究所顧問。『マニフェスト革命―自立した地方政府をつくるために』『生活者起点の「行政革命」』(ぎょうせい)など著書多数。

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