【フレイル対策・AI】電気の使用状況でフレイルを検知、リスクを「見える化」し促せる行動変容
(自治体向けフレイル検知サービス「eフレイルナビ」 / 中部電力)


※下記は自治体通信 Vol.66(2025年6月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
介護予防のなかで、近年特に注目されているのが「フレイル対策」だ。高齢者が「健康」と「要介護状態」の中間に位置する「フレイル状態」にある際、適切な対処を行えば健康な状態に戻せる可能性が高いからだ。しかし、フレイルの検知に向けてはいくつかの課題があるという。そんななか、十津川村(奈良県)では、各家庭にある電力量計の「スマートメーター」を活用してフレイルの検知を行っているという。同村担当者の沼平氏に、その詳細を聞いた。

介護予防事業に注力するも、実施できるのは一部の高齢者
―スマートメーターを活用してフレイルの検知を行うに至った経緯を聞かせてください。
当村の高齢化率は約48%と高水準にあり、医療・介護給付費の増大は村の財政を圧迫しています。また、事業継続性の問題だと思いますが、村内に介護サービス事業者が少ないため、高齢者には少しでも長く健康で過ごしてほしいと考えて介護予防事業に注力してきました。フレイル検知はその一環で、村内の3ヵ所で月2回ずつ行っている介護予防教室の場に保健師を派遣し、そこでフレイルチェックを行っています。それでも、全体で見ればどうしても一部の高齢者にしか実施できません。また、フレイル自体の認知度がまだ低いため、チェック後にリスクが高いと伝えても、「私は大丈夫」と納得してもらえず、改善の取り組みにつなげられないという課題もありました。そうしたなか、スマートメーターを活用したフレイル検知のシステムがあることを知ったのです。
―どういったシステムですか。
中部電力の『eフレイルナビ』というシステムで、各対象世帯のスマートメーターから収集した電力データを基に、AIがフレイルリスクを検知する仕組みです。簡単に説明すると、AIが電気の使用状況から「外出時間」「就寝・起床時刻」などを推測し、健常者の生活パターンと比較してフレイルの可能性を分析します。それを数値化し、100点中58点以上でフレイルと判断します。この方法なら、高齢者のフレイルリスクを世帯別に自動でチェックでき、対象者が限定されることはありません。また、膨大な量のデータを学習したAIが、フレイルリスクを客観的な数値に「見える化」するため、高齢者に説得力のある形で伝えられます。他自治体での導入実績もあることから当村でも導入を決め、令和6年9月から「フレイル予防事業」として実施しています。
普段通りの生活のなかで、フレイルチェックが可能
―事業の成果はいかがですか。
事業への参加を希望した約50世帯の単身高齢者を対象に実施していますが、想定以上の数です。これは、普段通りに生活するだけでフレイルチェックができる「ハードルの低さ」が影響していると思います。AIのチェック結果は毎月上旬に高齢者ごとに数値化され、システムの専用ページで私たちが確認しています。事業開始後の半年間で、58点や59点の高齢者が数人出ましたが、専門のスタッフがすぐに連絡して注意深く状況を見守った結果、数値は改善されました。行動変容を促す私たちの提案が、客観的な数値をベースにしたものなので、高齢者も受け入れやすいのだと思います。今後は毎月の数値の変化を伝えるために参加高齢者宅へ定期的に訪問し、介護予防教室への参加などにつなげたいと考えています。令和7年度も参加者を募り、フレイルの早期発見につなげていきたいです。


―自治体がフレイル対策に取り組むうえで、重視すべきことはなんでしょう。
いくつかあるなかでもっとも重要なことの1つは、高齢者にフレイル予防を「身近な重要課題」と認識していただくことと考えています。高齢者の間において、フレイルという言葉やその言葉の意味の認知度はまだ低く、「自分ごと」として認識されていないのが実情です。そのため、自治体のフレイル対策は十分に効果を発揮できていないかもしれません。
たとえば、フレイルを「健康リスク」とわかりやすく言い換え、高齢者への認識を高める工夫も必要と考えています。『eフレイルナビ』は、このリスクを数値化かつ見える化できることから、高齢者は、そのリスクを具体的に把握することができ、自治体のフレイル対策をより受け入れやすくなると考えています。
―自治体に対する今後の支援方針を聞かせてください。
高齢者への基本チェックリストの提出依頼や、自治体職員による高齢者の個別訪問が行われていますが、フレイルの高齢者を十分に把握するには限界があります。その点『eフレイルナビ』は、高齢者が普段通りの生活を送るだけで、負担なくフレイルリスクを検知することができるため、自治体は、より多くの高齢者を対象にフレイル対策を展開することができます。『eフレイルナビ』は、スマートメーターを活用するサービスです。現在、全国20以上の市町村に採用していただいており、今後、さらに多くの自治体のフレイル対策を支援することができれば、と考えています。

設立 | 昭和26年5月 |
---|---|
資本金 | 4,307億円 |
売上高 | 3兆6,104億1,400万円(令和6年3月期:連結) |
従業員数 | 2万8,374人(令和6年3月期:連結) |
事業内容 | 再生可能エネルギー事業、原子力事業、海外事業、コミュニティサポートインフラ関連事業など |
URL |