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見えてきた「持続可能な地域公共交通」の姿

見えてきた「持続可能な地域公共交通」の姿

【自治体通信Onlineレポート 2019/03/13】地域公共交通

見えてきた「持続可能な地域公共交通」の姿

おもに中山間地域と市街地を結ぶコミュニティバスやデマンド交通など、地域公共交通における自治体の役割が高まっている。しかし、近年、公営バス事業の経常収支比率は高止まりしているなど、課題も少なくない。公営バスの現状と今後、きめ細かな施策で収支改善に成功した先進的な自治体事例などをレポートする。
【目次】
■ 「公営バス」への社会ニーズが高まる
■ 「収支バランス」への不安
■ 交通空白地域の解消と「コスト削減」を同時達成~飯綱町(長野県)

「公営バス」への社会ニーズが高まる

住民の高齢化や少子化を背景に、市街地の病院への通院、スーパーなどへの買い物や通学のため鉄道に乗り継ぐ交通手段など、暮らしに欠かせない公共交通インフラとして公営バスに対する社会的ニーズが高まっている。

“車社会”の地方でも、ハンドルを握ることをやめる高齢者は多い。高齢者の免許返納件数は平成23年に初めて10万件の大台を突破。平成27年には27万件を超えるなど、急増している。

免許返納で高齢者の交通事故比率の低下が期待できる半面、行動の制約を受けやすくなる。そのため、特に中山間地と市街地を結ぶバスの社会的重要性が高まっているのだ。

しかし、かねて民間のバス業界では乗員数減による採算悪化や運転手の確保難などを原因とした路線縮小や便数減が進んでいる。近年、路線バスの廃止状況は、近年、年間1,000km以上で推移している。

そのため
①既存バスが走行していない
②既存バス停や鉄道駅から半径400mの範囲より外側に位置する
このような状況にある「交通空白地域」や「交通不便地域」、在来の公共交通の便に恵まれない「交通過疎地域」の拡大が問題視されていた。

難しい状況にあった地域交通のあり方の転機となったのは、本格的な人口減少社会における地域社会の活力の維持・向上を目的とした平成26年の「改正地域公共交通活性化再生法」(以下、改正法)の施行だった。(下図の「改正地域公共交通活性化再生法の基本スキーム」を参照)

 

出所:国土交通省、自治体通信Online編集部が加工(記事末「資料出所一覧」の①を参照)

 

改正法では、まちづくりなど関連施策と連携し、面的な公共交通ネットワークを再構築するため、地方公共団体が中心となって地域公共交通網の整備を行う方針が打ち出された。公営バスの重要性が一層、増したのだ。

「収支バランス」への不安

そして、改正法施行から5年目―。この間、ふたつの現象が公営バス事業で生じている。

ひとつは収支悪化。国土交通省が保有車両数30両以上の事業者245者を対象に調査した「平成29年度乗合バス事業の収支状況について」(以下、同調査)の調査結果を見ると、公営バス事業の経常収支率は改正施行以前よりも悪化している。

改正法施行以前の平成25年度と比べて、平成29年度の経常収支率は2%上昇している。(下図の上段のグラフ「年度別経常収支率の推移(民営・公営)」を参照)

バス事業の直接の収入源は乗客が支払う運賃だ。では、収支が悪化した分、乗客数が減少したのかというと、そうではない。

同調査結果によれば、各年で増減があるものの、平成25年度と比較して平成29年度では輸送人員が約1.2%増加している。(下図の下段の表「輸送人員の推移(民営・公営)」を参照。黄色マーカーは自治体通信Online編集部による)

 

出所:国土交通省、自治体通信Online編集部が抜粋して加工(記事末「資料出所一覧」の②および③を参照)

 

このふたつ事実から「輸送人員の増え方を運行コストの上昇が上回っている」ことが推測される。燃料費や人件費の上昇などだ。

収支バランスの悪化は「地域住民の暮らしを支える公共交通インフラ」である公営バス事業の安定的な持続性確保にとって懸念材料だ。

コスト増による収支悪化に対応手段は、大きくふたつが考えられる。ひとつは受益者負担の考え方に立った運賃の値上げ。

しかし、公営バスは高齢者などの暮らしに不可欠な、きわめて公共性の高い交通インフラであるだけに値上げはしにくい。

であれば、もうひとつの打ち手として、さらなるコスト削減による収支改善が大切になってくる。しかし、コスト上昇のおもたる原因は制御が難しい外部要因の変動で、有効なコストカットの決め手は見つけにくい。

こうしたなか公営バス事業の隘路(あいろ)を打開するモデルケースを紹介したい。ICT技術の導入ときめ細かい住民調査で「運行の最適化」をはかり、コスト削減を実現した飯綱町(長野県)のデマンド交通の事例だ。

交通空白地域の解消と「コスト削減」を同時達成~飯綱町(長野県)

飯綱町のデマンド交通の特徴は、CTI(Computer Telephony Integration Systemの略。電話とコンピュータの統合システム)受付システムと業務用カーナビを導入。予約状況が日々変わるなか、利用者の住所を打ち込めば、システム内でどの順番で迎えに行くのがよいか自動で作成でき、デマンドバスのカーナビに迎え先を指示するシステムを導入したこと。

これにより運行管理の効率化を実現した。(下図の「飯綱町が導入したデマンド交通システムの仕組み」を参照)

 

出所:自治体通信Online(記事末「資料出所一覧」の④を参照)

 

また、デマンドバス導入時に公共交通の利用者ニーズの丁寧な調査を実施。具体的には、
①全世帯を対象とした住民意向調査
②中学校遠距離通学生徒保護者アンケート調査
③利用実態調査及びバス利用者アンケート調査
④中学校ヒアリング
⑤交通事業者ヒアリング
これら5項目の調査を実施し、客観的なデータの集積と現況および住民ニーズを把握した。

その結果、公共交通の主な利用者である学生と高齢者では輸送ニーズが異なることを把握。それぞれに対応した輸送サービスを提供することとした。(下図の「飯綱町の運行方式」を参照)

 

出所:国土交通省、自治体通信Online編集部が加工(記事末「資料出所一覧」の⑤を参照)

 

さらに、調査結果から利用者が減る休日は運行せず、コスト削減のため平日のみの運行とした。

こうしたICT技術の導入や運行形態の適正化で運行管理が効率化されたことにより、飯綱町は「交通空白地域0%」を達成しつつ、公共交通費用の6%削減を達成した。

地域公共交通の輸送人員は長期的に低落傾向にあったが、地方部でも大幅な減少傾向に歯止めがかかりつつある。それだけ公営バスを暮らしの支えとする住民が増えているわけで、今後、より持続性のある取り組みが重要になってくるだろう。

【資料出所一覧】
国土交通省「ICT活用等による地域の社会的課題の解決」
国土交通省「平成29年度乗合バス事業の収支状況について 年度別経常収支率の推移」
国土交通省「平成29年度乗合バス事業の収支状況について 輸送人員の推移」
国土交通省 関東運輸局政策部「オンデマンド交通の現状と課題(第9回オンデマンド交通カンファレンス)」

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