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“Withコロナ”と自治体の働き方「職員リモートワーク」を加速する鍵とは?

    “Withコロナ”と自治体の働き方「職員リモートワーク」を加速する鍵とは?

    【自治体通信Online 寄稿記事】独自調査からみる公務員リモートワークの現状(デロイト トーマツ グループ マネジャー・加藤 俊介)

    民間の動きと比較し、行政組織におけるリモートワークの普及スピードはコロナ禍のなかにあっても遅いと指摘されています。その原因と今後の展望は? 国・都道府県・市区町村の行政職員を対象にリモートワークの実態などについて独自調査を実施したデロイト トーマツ グループの加藤俊介マネジャーに緊急寄稿してもらいました。
    【目次】
    ■ 進まない自治体の「ステイホーム」
    ■ 行政職員の実施率は約16%
    ■ 自宅から庁内ネットワークに接続できない
    ■ 「三層の対策」という構造要因
    ■ 「普及の兆し」は確実に見える
    ■ セキュリティと利便性の両立は可能

    進まない自治体の「ステイホーム」

    本稿執筆の2020年11月中旬現在、新型コロナウイルス感染症が終息する兆しは未だ見えていない。第3波とされる全国的な感染拡大が進み、たとえば東京都は新型コロナウイルスの都内の感染状況を4段階のうち最も高い警戒レベルに引き上げた(2020年11月19日)。

    言うまでもなく、官民問わずwithコロナの対応が求められている。今後この厄介な感染症との闘いに私たちが打ち勝ったとしても、また新たな感染症や未曾有の災害への対応に迫られるかもしれない。そのような社会状況にあっては、私たちは常に複数の選択肢を持つことが得策であると考える。

    業務に関わる選択肢として広がりつつあるのが、リモートワークである。リモートワークはコロナ禍において、さまざまな業界に広がったが、その実施状況は業界・業種によって差が大きい。リモートワークの実施率が芳しくない業界のひとつが、役所である

    行政職員の実施率は約16%

    デロイト トーマツ グループは、本年7月、国・都道府県・市区町村の行政職員にリモートワークのアンケート調査を実施し、1000人から回答を得た。その結果によれば、リモートワークの実施率は全体で15.9%と低調であり、さらに制度があっても1日もリモートワークを実施していない人は67.4%に上る。

    なお、この数字はオフィスワークが中心である行政職員の状況であり、警察官・消防士・教員・保育士などは含まない数字である。

    在宅勤務制度の整備と利用状況
    在宅勤務制度の整備と利用状況

    自宅から庁内ネットワークに接続できない

    リモートワークが進まない要因のひとつに自宅からPCを使って役所の庁内ネットワークにアクセスできないことがある。前述の調査では自宅に業務用PCを持ち帰り、庁内ネットワークにアクセスできるのは全体で16.3%、市区町村にあっては8.6%に留まることが明らかになっている。

    この状況は、職員が自宅で通常業務ができないこと、そして、コロナ感染の不安を抱えながらも出勤せざるを得ないことを意味している。

    リモートワークを実施している役所の中には、所属内でチームを分けて交代で出勤をするケースもあるが、自宅で業務をする場合は組織改善の検討など、通常とは異なる業務に従事している場合もあると聞く。

    自宅から社内ネットワークへのアクセス状況
    自宅から社内ネットワークへのアクセス状況

    「三層の対策」という構造要因

    しかし、ここで言及しておきたいのは、これらの状況は民間に比べて役所が制度的に遅れているという単純なものではないということだ。それはセキュリティ対策に起因する。

    2015年に発生した日本年金機構へのサイバー攻撃を受けて、総務省は自治体のセキュリティ対策を強化。ネットワークを分離する「三層の対策」を打ち出した。

    三層とは、「マイナンバー利用事務系」、「LGWAN接続系」、「インターネット接続系」を意味し、これにより税や社会保障等の業務で使われるマイナンバー利用事務系は他の領域との通信を分離。自治体の業務システムが置かれるLGWAN接続系もインターネットからは容易に接続できなくなった。

    この三層の対策により、セキュリティが強化された一方で、事務効率が低下したり、今回のリモートワークの実施困難につながったりしたと考えられる

    渋谷区(東京)のように新たな第4層目(コア系)を設け、リモートワークを実現しているケースもあるが、費用面等から多くの自治体が真似できるものではなく、4層目を設けること自体が3層構造におけるセキュリティと利便性の両立の難しさを物語っていると言える。

    「普及の兆し」は確実に見える

    しかし、この三層の対策については変化の動きがある。

    2020年5月、政府は三層の見直しを検討し、従来の基本的な枠組みは維持しつつも、人事給与、財務会計、文書管理、グループウェアなどの業務システムの一部はLGWAN接続系からインターネット接続系に移行される見通しである。これにより、自治体におけるリモートワークの実現が近づくと考えられる。

    また、地方公共団体情報システム機構(J-LIS)は、自宅のPCから職員が庁内にあるLGWAN接続系のPCへのリモートアクセスを可能とする実証実験を進めている。

    役所におけるリモートワークの実現は業務継続のための危機管理、職員の安全対策だけでなく、民間企業でのそれが広がりを見せる現在にあっては、職場選びの重要な要素にもなり人材確保にさえ影響すると思われる。

    セキュリティと利便性の両立は可能

    事実、前述の当法人調査においては、「自由な働き方(41.7%)」や「職場環境(38.4%)」の改善を求める声が、給与や人事評価の改善よりも多かった。

    また、自治体もデジタル化の推進に向けて、これまでとは異なるIT人材の確保が急務となるなか、彼らの働き方に合わせた環境を提供できるかどうかが問われてくる

    公的組織である役所は高度なセキュリティ対策が求められるのはもちろんであるが、セキュリティと利便性はもはや両立しないものではないだろう。行政のデジタル化の加速と共に改善を期待したい。

    なお、本稿の意見に関する部分は筆者の私見であり、所属する法人の公式見解ではないことをご了承いただきたい。また、今回の調査全体は下記から全文を閲覧できる。

    「行政組織における在宅勤務実施状況・業務効率化に関する調査2020」(有限責任監査法人トーマツ 独自調査)
    https://www2.deloitte.com/content/dam/Deloitte/jp/Documents/audit/pub/jp-pub-survey-of-public-institution-remote-work.pdf

     
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    加藤 俊介(かとう しゅんすけ)さんのプロフィール

    デロイト トーマツ グループ マネジャー
    有限責任監査法人トーマツ リスクアドバイザリー事業本部 パブリックセクター所属

    自治体のマネジメントに関わる分野を専門とし、計画・戦略策定、行政改革、行政評価をはじめシェアリングエコノミーなど新領域にも従事。住民参画への関心が強く、現状調査・分析の実施やファシリテーション、地域における新規事業の提案などを行いつつ、テクノロジーを使った新手法を開発中。公共政策学修士。審議会委員の経験も有する。元静岡県庁職員。

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