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安全安心な早期再開を実現した名古屋市「東山動植物園」公民連携の軌跡

    安全安心な早期再開を実現した名古屋市「東山動植物園」公民連携の軌跡

    【自治体通信Online 寄稿記事】協働と共創で新しい価値を生んだ「名古屋市×ヤフー」の取り組み(ヤフー株式会社 PassMarketサービスマネジャー・山崎 聡)

    “アフターコロナ”における住民サービスのあり方とは―。名古屋市(愛知)の「東山動植物園」が緊急事態宣言解除後に早期再開園を実現した公民連携の取り組みは、それを示唆する事例のひとつです。安全安心を確保したうえで「より便利に」を目指して推進された再開園の経緯を、この取り組みにおける名古屋市のパートナーとなったヤフー株式会社の担当者に公開してもらいます。
    【目次】
    ■ “アフターコロナ”を見据えた覚書
    ■ 実効性が高い2つの感染症対策を実施
    ■ 「民間の技術×職員の知恵」で混乱を未然に防止
    ■ 公民連携で地域社会をもっと便利に

    “アフターコロナ”を見据えた覚書

    新型インフルエンザ等特別措置法にもとづく緊急事態宣言下にあった2020年5月18日。名古屋市(愛知)とヤフー株式会社(以下、ヤフー)は「ICTを活用する新型コロナウイルス感染症対策により、市有施設での感染拡大を防止するための措置を相互に連携・協力し実施することを目的とする覚書」を締結しました。

    5月25日に緊急事態宣言が解除されるとともに、感染拡大防止のため「新しい生活様式」を行政と市民が実践しながら日常の生活を再開することが求められました。

    感染予防の実施と1日も早い市民生活の再開―。両立させるのが難しいこれらの課題は、年間で約240万もの人が訪れる人気の名古屋市東山動植物園(以下、東山動植物園)にとっても同じでした。

    日本全国の多くの公営施設と同様に、緊急事態宣言発出後の4月10日から休園を余儀なくされていた東山動植物園ですが、老若男女を問わず多くの名古屋市民から緊急事態宣言解除後の早期再開園が期待されていたと聞きます。

    ~名古屋市東山動植物園の概要~
    昭和12年に開園した名古屋市営動植物園。敷地面積は59.58ヘクタール。年間入場者数は上野動物園に次ぐ約240万人、飼育種類は約500種(約1万2,600点)で国内最大級。植物は約240科7,000種を展示。“イケメンゴリラ”として話題になったニシゴリラ「シャバーニ」を飼育していることでも有名。上写真は東山動植物園の正門入り口(画像は東山動植物園のサイトより)。

    そこでヤフーは、名古屋市と締結させていただいたICTを活用した市有施設での感染症対策の実施の一環として、ヤフーが運営するデジタルチケット販売サービス「PassMarket(パスマーケット)」の導入を東山動植物園に提案。結果、名古屋市職員の方々のご理解とご尽力により導入され、緊急事態宣言が解除された翌日5月26日からデジタルチケットによる事前予約チケットの発行が始まり、6月2日に正式に再開園しました

    実効性が高い2つの感染症対策を実施

    デジタルチケット販売サービスである「PassMarket」が東山動植物園に提供させていただいた感染症対策は2つあります。

    1. 「3密回避」を目的としたデジタルの事前予約チケットを発行
    感染症対策による混雑回避のためPassMarketで1日5,000枚の事前予約チケットを発行。来園時に受付でQRコードをスマートフォンの画面や印刷した紙で提示して入園いただきました。1日の来園者数に上限を設けることで、園内が混雑する状況を防ぎ、「3密」の発生を回避することが目的です。

    2. 感染者確認時の来園者への注意喚起メール送信
    来園者の中に新型コロナウイルス感染症の感染者が確認された場合、名古屋市が感染者と同日の来園者にPassMarketのメッセージ送信機能を使って、注意喚起のメールを送信できる仕組みを提供しました。

    幸い、来園者の中に感染者がいなかったため、注意喚起メールを送信することはありませんでしたが、この仕組みは来園者の方たちの安心感につながったと思います。

    東山動植物園が採用したデジタルチケットシステムの仕組み
    東山動植物園が採用したデジタルチケットシステムの仕組み

    2日間のプレオープンでデジタルチケットによる入園を東山動植物園の職員の方が対応できるかを検証し、6月2日の正式再開園日を迎えました。

    当初は1日5,000人が上限でしたが、デジタルチケットによるスムーズな受付が可能だったこと、来園者の混乱もないことを確認できたため、1日8,000名まで入園者数を増やせました

    「民間の技術×職員の知恵」で混乱を未然に防止

    実は2019年から名古屋市にデジタル発券システムを提案していました。従来の紙のチケットと異なる、デジタルチケットが持つ費用の安さ、導入のしやすさ、販売枚数や在庫数の管理のしやすさ、メッセージやアンケートで利用者の住民と直接つながれるなどの魅力を伝えさせていただいていました。

    2020年になり、新型コロナウイルスの感染拡大と緊急事態宣言の発出により、官民問わず多くの施設が休業したのはご承知のとおりです。宣言解除後の「新しい生活様式」にヤフーとして貢献できることを社内で議論していた時に、3密回避対策を「PassMarket」で実現できるのではとの声が上がり、名古屋市に改めて提案させていただいた、という経緯があります。

    その結果、冒頭の覚書の締結、そして東山動植物園への導入が決まったのです。

    ただし、いくつかの課題や懸念があったのも事実です。

    例えば、「東山動植物園には老若男女を問わず幅広い世代の方が来園されるが、スマホに慣れていない人も少なくないのでは?」といった懸念です。

    結果的には、思っていた以上にほとんどの方がスマホに慣れていたため受付の混乱もありませんでした。さらに、スマホをお持ちでない方には紙に印刷したチケットを持参いただく別のフローも残した運用をしていただいています。

    再開園後の東山動植物園の受付の様子
    再開園後の東山動植物園の受付の様子

    また職員側にも、新しい仕組みを導入する不安にくわえて「ICTをうまく使いこなせないのでは?」という不安もありました。

    これについては、ヤフーのPassMarket担当者が、デジタルチケットの発券システムの設定や、受付での操作方法を東山動植物園の職員の方にレクチャーさせていただき、不安の払しょくに努めました。もともとPassMarketは操作が簡単にできるように工夫していますので、当初から問題なくお使いいただけています。

    逆に、私たちでは気が付かなかった現場での課題を積極的に洗い出していただき、スタッフのみなさんの前向きな取り組みで解決される姿勢には感銘を受けました。

    いずれも使用環境や物理的な要因に基づくもので、たとえばデジタルチケットの受付はスマホアプリを使ってQRチケットを読み取る方法が一番速いのですが、チケットの読み取りに必要な施設側のスマホと来園者のスマホのカメラの精度、日光の反射防止、熱暴走やバッテリーの持ちといったことに課題があります。

    その解決方法として、東山動植物園のスタッフのみなさんは手作りのボックスを用意され、「こういう方法があったのか」と私たちも大いに学ばせていただきました。

    東山動植物園の手作り受付ボックス
    東山動植物園の手作り受付ボックス

    このように、名古屋市職員の方々とわれわれで事前にしっかりと水面下の準備を実施したことが、初めての試みであるのにもかかわらず、大きな混乱が生じなかった大きな理由となりました。

    公民連携で地域社会をもっと便利に

    今回の名古屋市との取り組みにおいては、一切の対価を頂戴していません。感染拡大を食い止めながら、市民の方々へ安全で楽しい時間を過ごしてもらいたいと思ってらっしゃる名古屋市職員の方々の熱い思いと開園を待ち望んでらっしゃる市民の方々に、われわれとしても貢献したいと考えたからです。

    ヤフーのミッションは、「UPDATE JAPAN 情報技術のチカラで、日本をもっと便利に。」そして、「世界で一番、便利な国へ。」がビジョンです。世界中に大きな影響を与え、まさに国難といってよい新型コロナウイルスの感染拡大の中で、われわれのようなICTを扱う民間セクターも世の中の役に立ち、1日も早い終息に貢献できればと願っています。

    たとえばデジタルチケットは、①感染防止対策となる、②入場者数をコントロールして密を回避する、③来場者を把握できる、④ペーパーレス/キャッシュレスによる非接触―といった利点があります。また、感染対策だけでなく、チケット購入窓口での真夏の長蛇の列が発生することがなくなり、熱中症のリスクについてもICTを活用することで解決できます。

    東山動植物園の今回の施策は、市営施設のチケット受付に関する規則を変えていただいたことで実現できました。

    この事実は、アフターコロナ、Withコロナと言われる前例なき大きな環境変化のなかでも、必要であれば従来の制度の変更や活用できる環境整備を行い、ICTを取り入れることでより豊かな地域の暮らしの実現につながる自治体運営が素早く推進できる、ということを示唆しているように感じます。

    ICTが持つチカラで住民サービスをより強化し、より充実させていく公民連携が地域社会と日本をもっと便利にしていく―。コロナ禍を受けて、今後、加速するであろう“社会の進化”のなかでヤフーも一定の役割を果たし、“頼れる自治体のパートナー”となれるよう、これからも技術やソリューションを磨いていこう、と決意しています。

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    山崎 聡(やまざき さとし)さんのプロフィール

    ヤフー株式会社 コマースカンパニー
    O2O統括本部 チケット本部 サービス企画部 部長

    1986年東京都生まれ。2010 年入社。Eコマースの営業、企画を経て、ヤフオクの事業戦略リーダーになり、「eコマース革命」を推進。その後、チケット事業に従事。2019年よりヤフー社のチケットサービスのサービスマネジャーを担当。
    <連絡先>
    passmarket-sales※mail.yahoo.co.jp
    (メール送信の際は※を@に変更してください)

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